28 / 37
露見した弱さ
しおりを挟む「リリー。キミの意思も聞かずに勝手に婚約者候補に仕立て上げたことは謝ろう。けれど、このように強引な手を使わないとキミは僕を見る気なんてなかったのだろう?」
「いいえ、殿下。わたしはそのようなことは……」
「なれど僕が話し掛けた最初の時からキミは僕を避けようとしていたじゃないか……! 僕に非があるのならば教えて欲しい。一体僕の何が駄目だったのだ!」
「殿下に非などありませぬ」
「……では何故避ける? 何故僕とは友達にもなれない?」
荒ぶる彼に何も答えられない不誠実な自分が嫌で仕方がない。
真っ直ぐに感情をぶつける彼の姿が眩しく、そして彼を信じてあげられない自分の弱さが醜かった。
(だってわたしは殿下に『真実』を話したこともあったのに……)
幾度も続くタイムリープに嫌気が差して『真実』を伝えた時があった。
しかし彼はそれを信じるどころか、わたしの頭がおかしくなったと幽閉したのだ。
二度と日の目を見ることが出来ない暗くて寒い牢獄に囚われて、衣食住全てを彼に支配される日々。
手足は鎖に繋がれ、食事は彼が持ってくるのをじっと待つしか出来ない惨めな一生。彼の好む服を着せられ、好き勝手に身体を蹂躙される悍ましさ。屈辱と羞恥で打ち震える人生なんてもう二度と御免だ。
「……非があるとしたらわたしの弱さにございましょう」
「…………」
「殿下は眉目秀麗で勉学も大変優秀だとお聞きしております。そんな殿下の横に並び立てる自信が恐れながらわたしにはございません」
「……自信ならこれから付ければ良いじゃないか」
ポツリと不貞腐れたように呟く彼の姿に内心苦笑しながら、やんわりと首を横に振る。
「茶会で声を掛けて頂いた時、確かに嬉しゅうございました。しかし後ろに控える御令嬢の方々の厳しい視線を恐れる程度の器の小さい人間に将来殿下を支えられましょうか?」
「僕は別に支えを欲してなんかいない。支えなんかなくともちゃんと自分の足で立って見せる」
「ええ。殿下はそのように強いでしょう。だからこそわたしは引け目を感じるのです」
「……お前は結局僕を褒めながらもそれを口上にして逃げたいだけではないのか?」
真実を突きつけられ、自分自身に苦笑を洩らす。
暴かれた自分の弱さにわたしは瞠目し、そしてそのまま彼の審判を待つことにした。
2
お気に入りに追加
401
あなたにおすすめの小説
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
伯爵令嬢の苦悩
夕鈴
恋愛
伯爵令嬢ライラの婚約者の趣味は婚約破棄だった。
婚約破棄してほしいと願う婚約者を宥めることが面倒になった。10回目の申し出のときに了承することにした。ただ二人の中で婚約破棄の認識の違いがあった・・・。
【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす
春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。
所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが──
ある雨の晩に、それが一変する。
※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる