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助け
しおりを挟む「リリー。僕との待ち合わせの場所が間違ってキミに伝わったらしく、すまないね」
突然割って入ったエドワードの声に驚いたわたしは目を丸くして後ろを振り返る。
(追いかけてきてくれたの……?)
悠々と歩く彼は着衣の乱れもなく、息も乱れていない。だというのに先程まで全速力で走っていたわたしにエドワードが追いついたのは、彼が抜け道を使ってまでわたしの跡を追ったことを意味する。
一体何故エドワードがわたしを追ってきたのか彼の真意は分からないけれど、周囲の様子からわたしが困っていることを察した彼は傍観することなく助け舟を出してくれたのは事実だ。
その証拠に少し離れたところでわたしを観察していた人達も「あぁ、だから急いでいたのか」「間違った場所を伝えられたとはいえ、殿下の約束に遅れる訳にはいかないものね」と納得した様子である。
(……どうしよう。このままここは殿下の言葉に乗っかるべきなのかしら?)
だけど彼の助け舟に乗るということは……つまりまたエドワードと対峙しなければならなくなるのだろう。
(そもそもあれだけ拒絶した相手の助け舟に乗ろうとするなんて些か虫が良すぎない?)
優雅に微笑む彼の姿はまさしく品行方正を体現したかのように美しく煌めいて、いっそ神々しさすら感じられる。しかしわたしは彼を拒絶したことで後ろめたい気持ちが心にしこりとして残っているからこそ、エドワードの差し出した助けを素直に受け取るのは憚れる気がした。
そんなわたしに彼はゆっくりと近付き、わたしにしか聞こえない声で「今は合わせておきなさい」と耳元でひっそりと命令する。
それは紛れもなく免罪符であり、彼なりの譲歩である。だから悩んだ末にわたしは彼の提案に乗り、周囲に分かりやすく状況を説明する為にも眉を下げて、困った顔を作ってみせた。
「此方こそせっかくの殿下のお誘いに遅れてしまって申し訳ございません。何分広い王城は勝手が分からなくて、つい迷ってしまいましたの……」
自身に容赦なく降り注ぐ注目という名の視線が痛く、顔の筋肉が強張りそうになる。
反省の色を示す為に俯き、さりげなく周囲の視線から逃れると未だわたしの手を取っていたミアはないがしろにされた自身の主張をするかのように密かな抗議として、わたしの掌に爪を立てた。
幸いなのは、さすがのミアも王子であるエドワードと対面している手前、血が出る程に強く引っ掻くことはなかったことと、俯いていたがゆえに痛みに顰めた顔を周囲に見られなくて済んだことだ。
「まぁ! わたくしったら、そうとは知らずにお姉様を引き留めてしまいましたのね」
「いいえ。わたしが伝えなかったのがいけないのだから、ミアが気にすることはないわ」
彼女を庇ったのはひとえに彼女の怒りを無用意に買わない為。自己保身に走ってゆるりとかぶりを振るとミアは満足そうに口の端を吊り上げ、そして意味深に睫毛を伏せた。
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