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予期せぬ遭遇
しおりを挟むリリーはドレスの裾をたくし上げ、無茶苦茶に庭園を走り回った。
およそレディとは言い難い彼女の行動に使用人ですら眉を顰めていたが、泣き腫らした様子のリリーの顔を見れば、触らぬ神に祟りなしといわんばかりに皆一様に目を伏せ、見なかったことにされた。
その無関心さが今の自分には心地よく思えるのだから不思議なものだと思った。
(ああ、せっかく人が来ない東屋に身を潜めていたのに……!)
庭の隅にあるあの場所は存在を忘れ去られたかのように人が訪れることが殆どない。だから抜け道を使ってわざわざあの場所に向かったというのに、何故よりにもよってエドワードが現れたのか!
必死に足を動かしているのはエドワードから少しでも遠くに逃げたかったがゆえ。その為に人通りの多い場所を選んだことが結果として仇となることを知らなかったのだ。
「お姉様。そのように急がれてどうしたというのです?」
「ミア……」
今日は厄日だろうか。どうしてこんなにも会いたくない面々と遭遇しなければならないのだろう。
自分の間の悪さにリリーは無意識の内に奥歯を強く噛み締める。
園庭の真ん中で自分の妹に会う嬉しさはなく、逆に蛇に睨まれた蛙のような気分となり、どうやって彼女から離れようかとそればかり考える。
「こんなに息を乱す程に走るだなんて……。急いでいるのかもしれませんが、汗で前髪も張り付いておりますし、身なりを整えるという意味で少しあちらのベンチで休まれては如何です?」
動転した姉を心配し宥めるように肩を叩くミアに周囲は関心した様子で息を吐く。
人の多い場所を無作法に走り回ったリリーとその姉を心配する妹のミア。周囲の感情がどちらに傾くかは自明の理である。
(しまった! お父様が城に来ている時点でミアも一緒に着いてきていることを想定すれば良かったのに)
近くに父の姿もなく、一人で庭園を散策していた様子のミアは黙ってリリーの手を取り、そのままベンチまで誘導しようとする。もしもここでミアの手を振り払えば、ますます周囲の非難は高まり、より窮地に陥ることになるだろう。
だから仕方がないと諦めた気持ちで歩こうとするが、この後またミアにネチネチと嫌味を言われるのだと思うと足どりが重く、鎖に繋がられた囚人のような惨めな気分になる――しかしそれを振り払うようにしてエドワードが朗らかな声で二人を呼び止めたのだ。
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