タイムリープn回目。殿下そろそろ婚約破棄しませんか?

秋月朔夕

文字の大きさ
上 下
19 / 37

油断

しおりを挟む

 結局わたしは医師の勧めにより、二日も城に泊まることになった。
 その間わたしがしていたのはエドワードや王妃に会うこともなく、ただベッドで眠るだけの生活。
 休暇と言っても差し支えない生活は快適で心地よく、張り詰めていた神経をほんの少しほぐしてくれるものであったーーだから油断していたのかもしれない。


 嵐が起きるのはいつも突然だ。
 例えば今日、屋敷に帰るのだと思っていたのにそれがあっさりと反故されるのだから。


「……お父様どういうことです?」
「だから言っただろう。お前はもう屋敷に帰らなくとも良い」

 わたしが泊まっていた客室にやって来た父は顔色一つ変えることもなく、殿下の『友達』としてわたしにこのまま城に残れと告げた。
 


「急にそのような大事なことを言われても困ります」
「お前が困るかどうかはどうでもいい。大事なのはお前がスペンサー伯爵家に少しでも利益を上げるかどうかだ」
「……殿下の『友達』であれば、わたしよりも愛想のいいミアが適任かと思いますが?」
「ああ。私もそう思ったさ。しかしこれはエリザベス王妃とエドワード殿下の意思らしい」


 相変わらずの妹贔屓も此処までくれば清々しいというもの。苛立ちを飲み込む為に努めて冷静に情報を父から引き出そうと質問する。


「エドワード殿下の意思とはなんです? わたしはお茶会で殆ど殿下と会話をしておりませんが」
「だからこそ気が引けたのではないか?」


 投げやりに答える父の関心なんか既にーー否、最初からわたしにはない。

 どうしてこうなのだろうか?

 何度も何度もタイムリープしているのに、両親の関心がわたしに向くことはないし、ミアだけが愛される。わたしがどれだけ努力しても、決して返ってくることのない愛情。その原因がなんなのか何時まで経っても解明できないでいることが悔しくて堪らない。


 用意されたお茶に手をつけることなく、用事は済んだとばかりに立ち上がる父に一体何を言えようか。ガラス玉のように無機質な眼で見られると心が苦しくて、どうしようもない程に泣きたくなる。


(なんでミアだけは愛されれるの?)

 血の繋がった姉妹であるのに、どうして彼女だけが愛されるのか。
 父も、母も、エドワードも、使用人も皆わたしよりも彼女を愛す。

 そして誰からも愛されているミアはわたしだけを嫌うーーその理由を無性に知りたかった。

 
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

伯爵令嬢の苦悩

夕鈴
恋愛
伯爵令嬢ライラの婚約者の趣味は婚約破棄だった。 婚約破棄してほしいと願う婚約者を宥めることが面倒になった。10回目の申し出のときに了承することにした。ただ二人の中で婚約破棄の認識の違いがあった・・・。

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす

春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。 所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが── ある雨の晩に、それが一変する。 ※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

処理中です...