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油断
しおりを挟む結局わたしは医師の勧めにより、二日も城に泊まることになった。
その間わたしがしていたのはエドワードや王妃に会うこともなく、ただベッドで眠るだけの生活。
休暇と言っても差し支えない生活は快適で心地よく、張り詰めていた神経をほんの少しほぐしてくれるものであったーーだから油断していたのかもしれない。
嵐が起きるのはいつも突然だ。
例えば今日、屋敷に帰るのだと思っていたのにそれがあっさりと反故されるのだから。
「……お父様どういうことです?」
「だから言っただろう。お前はもう屋敷に帰らなくとも良い」
わたしが泊まっていた客室にやって来た父は顔色一つ変えることもなく、殿下の『友達』としてわたしにこのまま城に残れと告げた。
「急にそのような大事なことを言われても困ります」
「お前が困るかどうかはどうでもいい。大事なのはお前がスペンサー伯爵家に少しでも利益を上げるかどうかだ」
「……殿下の『友達』であれば、わたしよりも愛想のいいミアが適任かと思いますが?」
「ああ。私もそう思ったさ。しかしこれはエリザベス王妃とエドワード殿下の意思らしい」
相変わらずの妹贔屓も此処までくれば清々しいというもの。苛立ちを飲み込む為に努めて冷静に情報を父から引き出そうと質問する。
「エドワード殿下の意思とはなんです? わたしはお茶会で殆ど殿下と会話をしておりませんが」
「だからこそ気が引けたのではないか?」
投げやりに答える父の関心なんか既にーー否、最初からわたしにはない。
どうしてこうなのだろうか?
何度も何度もタイムリープしているのに、両親の関心がわたしに向くことはないし、ミアだけが愛される。わたしがどれだけ努力しても、決して返ってくることのない愛情。その原因がなんなのか何時まで経っても解明できないでいることが悔しくて堪らない。
用意されたお茶に手をつけることなく、用事は済んだとばかりに立ち上がる父に一体何を言えようか。ガラス玉のように無機質な眼で見られると心が苦しくて、どうしようもない程に泣きたくなる。
(なんでミアだけは愛されれるの?)
血の繋がった姉妹であるのに、どうして彼女だけが愛されるのか。
父も、母も、エドワードも、使用人も皆わたしよりも彼女を愛す。
そして誰からも愛されているミアはわたしだけを嫌うーーその理由を無性に知りたかった。
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