タイムリープn回目。殿下そろそろ婚約破棄しませんか?

秋月朔夕

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口付け

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「リリー、がお前の答えか?」

 二人きりの静寂が支配する空間で彼はわたしに問うた。大きな声で恫喝された訳でもないのに肌にビリビリと伝わる威圧にわたしは怯え、双眸に涙の薄膜が張る。


「殿下、わたしは。わたしは……」

 照れてしまっただけだと答えたかった。しかし彼の前から姿を消して、彼に恥をかかせたわたしが抜け抜けとそのようなことを口にして良いものか迷い、結果として口を閉ざす。
 その対応により、彼は見切りを付けたのだろう。
 切長の眼を細め、彼は重たい溜息を吐き出した。


「もういい。お前にはもう何も求めん。僕はリリーに何も期待しないし、何も求めやしない。だが『婚約者』である役目だけはきっちりと果たして貰う」


 はっきりとした失望の眼差しは鋭く、地の底から出したような低いその声に身が竦む。怯えは密着した肌から彼に伝わったようで、更にエドワードの眉間の皺が深く刻まれる。
 今にも崩れそうになる程に震えた足で立っていられるのは彼がキツく抱きとめているからに違いない。


「戻ったら直ぐに式を執り行う準備を進めよう。お前は今度こそ逃げ出さず、黙って僕の隣に居るんだ」

 彼は彫像のように美しい顔が酷薄に歪ませ、そしてわたしの唇の形を確かめるように親指でなぞった。艶めいた仕草に顔を伏せて耐えようとすれば、わたしの顎を持ち上げ、罰だと言わんばかりに口付けられる。

「……っ」

 硬く閉ざした唇を緩ませるように彼はわたしの下唇をやわやわと喰み、驚きで口を開ければやすやすと彼の舌が侵入し、我が物顔で口内を蹂躙する。
 突然の蛮行に戸惑い、奥に縮め篭ったわたしの舌を強引に絡ませ、逃れようとすればする程に執拗に追われ、逆にわたしが反応することでキスを深めていく。


「でん、かっ……!」

 呼吸の出来ない苦しさから生理的な涙がホロリと頬を濡らす。
 彼の胸を叩いても、押しても、決してエドワードはわたしを離さず、抵抗した分だけキツく抱きしめられる。

 彼の腕の中はまるで檻のようで、そこから脱獄しようと足掻いても、所詮女の力では男である彼に叶うはずもなく、一方的に蹂躙されて支配される背徳が胸を苦しめたーーそしてその苦しさに耐えきれずに、ドワードの腕にもたれ掛かると彼はゆっくりとわたしから顔を離し、淫靡な手つきで下腹部を撫ぜる。


「なぁ、リリー。僕から離れている間に勝手に他の男を受け入れてはおるまいな?」
「……そのような方は居ません」
「そうか。では帰ったらきちんとキミの身体の隅々まで検分しようではないか」
「居ないと言ったではありませんか!」
「ああ。確かにそのように聞いてはいるが、お前はこの僕から嘯いて逃げ出した大嘘つきだ。そのような女のことなんか信じられるものか」
「殿下っ‼︎」
「僕はもうお前のことを信用しないし、もう自由にはさせてやる気もない。恨むならこの僕から逃げだそうとした自分の浅はかさを恨むと良い」




 
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