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友人
しおりを挟む「エドワードと友人になってやってはくれぬか……?」
身を固くしてどう逃げようかと思っていた矢先、わたしの予想よりもずれた頼み事にわたしはポカンと口を開く。
最初の人生ではこのお茶会で問答無用に殿下の『婚約者』になってしまっていたことにより過剰に身構えていた。その思い違いによる羞恥でぶわりと頬を染め、耳まで赤くなる。
(思い上がりもとんだいいとこだわ)
身悶えしたい程の恥ずかしい勘違いに涙腺が緩みそうになる。しかしそんなわたしを見て王妃はある勘違いをした。
「ウブな反応じゃ。もし其方が良ければ『婚約者』でも良いぞ?」
「え! 無理ですっ!」
「え? 何故?」
得意げに緩んだ王妃の口端はわたしが反射的に否定したことで、不思議そうに口を開けた。
もしもこの答えが不敬だと周囲に咎められたとしても、こればかりは譲れない。だってその咎める連中は誰もわたしの人生に対しての責任を負わないのだから。
周りの顔色を気にしていてはそれこそまた碌でもない人生になるだけだ。
「わたしには荷が重うございます……けれどもしも殿下のご友人をお探しでしたら、お茶会に参加されている他の方達ならば、小心者なわたしと違い、きっと喜ぶのではないのでしょうか?」
「ならぬ。妾は其方に決めたのじゃ」
ゆるりと首を振って此方を射抜く王妃の眼差しはきつく、逃さぬぞと言わんばかりに頬を包み込まれる。白魚のように美しく細っそりとしたその手の体温は熱く、苛烈な激情を体現しているかのようだ。
「……失礼ながら」
「うん?」
「エドワード殿下の性格からしてエリザベス王妃の推薦した友人をそのまま傍に置かれるでしょうか」
「其方は実に痛い所を突く……」
うんざりと溜息を吐く王妃を見て内心安堵する。エドワードは元来気難しく、プライドが高いーーそれは母親の身分が低かったからこそ、第一王子であるのにも関わらず王位をエリザベスが産んだ第二王子に譲らねばならなかったという経験がゆえ。
王への適正についてなんら能力が測られることがなく、『母親の身分』を理由に王になる権利を持たされなかったエドワードはその原因となってしまったエリザベスとの距離を推し量りかねているのが現状だ。
そのような希薄な関係性において、下手に彼の『友人』についてエリザベスがしゃしゃり出れば、エドワードだって警戒して、距離を置くだろうし、ある意味ではそちらの方がわたしにも都合が良いとは考えもしたけれど……そうなってしまってはわたしは『警戒』の対象として彼の胸に刻まれることとなり、わたしの望む『平穏』への道がまた遠くなってしまう――だからこそ、不敬を承知で釘を刺したのだ。
しかし、そこまで口にして疑問が一つ。
今までの人生でエリザベス王妃はエドワード殿下の交友関係に口を噤んできた。だというのに、どうして今回は自らお茶会に参加して、わざわざ『友人になれ』と頼んできたのだろうかということだ。
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