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似ていた眼差し
しおりを挟む「妾は退屈が何よりも嫌いじゃ。故に『王家が主催したお茶会に招待した子供』がそのようにつまらなそうにされては妾の沽券に関わる問題である」
「エリザベス王妃。わたしはつまらないなどと……」
「其方の主観はどうでもよい。要は妾がどう感じたかじゃ!」
きっぱりと言い切られると言葉に詰まる。
堂々とした王妃の眼差しは力強く真っ直ぐで、わたしだけを捉えていた。
(わたしにもエリザベス王妃みたいな強さがあれば、ここまでタイムリープをしなくて済んだのかしら?)
そうは思ってもそのような人物は最早わたしではなく、別人の誰かであるーーそれでは意味がないのだ。
「まだ子供のくせに其方はまるで人生に飽いた老人のような眼差しをしておる」
「わたし、がですか?」
「無自覚か? ならば尚悪いというもの。何がそんなに気に入らぬ?」
彼女の鋭い指摘はまるでわたしの心を読み取ったみたいに的確で、だからこそ答えにくい。
(だって気に入らないことなんか山程あるもの)
終わりの見えない人生を繰り返していることも、どれだけ努力したところでエドワード殿下がわたしを好いたりしないことも、望まない死を与えられることも、もう疲れた。
今まで数えることも億劫な程に経験してきたタイムリープによってわたしの心はすり減り、もうくたくただった。けれど素直にそれを吐き出したとて信じる者は誰も居やしないことをわたしは知っている。
当たり前だ。人生を繰り返しているだなんて妄言。そんなのは子供の戯言だろうと大人であれば誰もが思う。
実際に何度目かのタイムリープで両親に訴えもしたが、相手にされることなく、しつこく言い募るリリーは精神的に不安定だからと屋敷の地下に閉じ込められたこともある。
そんな経験をしてきたからこそ今更簡単に自分の事情を話すことなんか出来るわけない。口を噤むわたしに王妃はまたわたしの髪を撫ぜ、そして空いた手でわたしの手をしっかりと握った。
「……エドワードと似ておると思ったのじゃ」
「わたし、がですか?」
静かな空間でポツリと洩れた彼女の本音にわたしは眼を瞬かせる。彼女は寂しそうに睫毛に影を落とし、そして柔らかく手を揉んだ。
「ああ、やはり……其方とエドワードの眼差しはよく似ておる。人生を諦めた老人のように静かで鬱屈とした子供らしからぬ光のないその瞳。じゃからこそエドワードと相性が良いのではないかと思ったのじゃ」
「え……?」
ここにきてまさかの展開に驚いてギクリと身体を強張らせ、王妃の顔を見やれば、彼女の瞳は爛々と輝きわたしの不安はさらに増す。同時に思い出したのは今日のお茶会の目的。即ちエドワード第一王子の婚約者探し。
(やめて。何も言わないで! わたしはもう殿下と関わる気はこれっぽっちもないの。もうミアに恋焦がれる殿下を隣でなんか見たくないの!)
ドクドクと荒れ狂うわたしの胸中に彼女は一層美しく微笑むーーけれど続いた言葉は少しわたしの予想とは違っていた。
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