9 / 37
似ていた眼差し
しおりを挟む「妾は退屈が何よりも嫌いじゃ。故に『王家が主催したお茶会に招待した子供』がそのようにつまらなそうにされては妾の沽券に関わる問題である」
「エリザベス王妃。わたしはつまらないなどと……」
「其方の主観はどうでもよい。要は妾がどう感じたかじゃ!」
きっぱりと言い切られると言葉に詰まる。
堂々とした王妃の眼差しは力強く真っ直ぐで、わたしだけを捉えていた。
(わたしにもエリザベス王妃みたいな強さがあれば、ここまでタイムリープをしなくて済んだのかしら?)
そうは思ってもそのような人物は最早わたしではなく、別人の誰かであるーーそれでは意味がないのだ。
「まだ子供のくせに其方はまるで人生に飽いた老人のような眼差しをしておる」
「わたし、がですか?」
「無自覚か? ならば尚悪いというもの。何がそんなに気に入らぬ?」
彼女の鋭い指摘はまるでわたしの心を読み取ったみたいに的確で、だからこそ答えにくい。
(だって気に入らないことなんか山程あるもの)
終わりの見えない人生を繰り返していることも、どれだけ努力したところでエドワード殿下がわたしを好いたりしないことも、望まない死を与えられることも、もう疲れた。
今まで数えることも億劫な程に経験してきたタイムリープによってわたしの心はすり減り、もうくたくただった。けれど素直にそれを吐き出したとて信じる者は誰も居やしないことをわたしは知っている。
当たり前だ。人生を繰り返しているだなんて妄言。そんなのは子供の戯言だろうと大人であれば誰もが思う。
実際に何度目かのタイムリープで両親に訴えもしたが、相手にされることなく、しつこく言い募るリリーは精神的に不安定だからと屋敷の地下に閉じ込められたこともある。
そんな経験をしてきたからこそ今更簡単に自分の事情を話すことなんか出来るわけない。口を噤むわたしに王妃はまたわたしの髪を撫ぜ、そして空いた手でわたしの手をしっかりと握った。
「……エドワードと似ておると思ったのじゃ」
「わたし、がですか?」
静かな空間でポツリと洩れた彼女の本音にわたしは眼を瞬かせる。彼女は寂しそうに睫毛に影を落とし、そして柔らかく手を揉んだ。
「ああ、やはり……其方とエドワードの眼差しはよく似ておる。人生を諦めた老人のように静かで鬱屈とした子供らしからぬ光のないその瞳。じゃからこそエドワードと相性が良いのではないかと思ったのじゃ」
「え……?」
ここにきてまさかの展開に驚いてギクリと身体を強張らせ、王妃の顔を見やれば、彼女の瞳は爛々と輝きわたしの不安はさらに増す。同時に思い出したのは今日のお茶会の目的。即ちエドワード第一王子の婚約者探し。
(やめて。何も言わないで! わたしはもう殿下と関わる気はこれっぽっちもないの。もうミアに恋焦がれる殿下を隣でなんか見たくないの!)
ドクドクと荒れ狂うわたしの胸中に彼女は一層美しく微笑むーーけれど続いた言葉は少しわたしの予想とは違っていた。
0
お気に入りに追加
401
あなたにおすすめの小説
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く
ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。
逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。
「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」
誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。
「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」
だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。
妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。
ご都合主義満載です!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
伯爵令嬢の苦悩
夕鈴
恋愛
伯爵令嬢ライラの婚約者の趣味は婚約破棄だった。
婚約破棄してほしいと願う婚約者を宥めることが面倒になった。10回目の申し出のときに了承することにした。ただ二人の中で婚約破棄の認識の違いがあった・・・。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
元婚約者が愛おしい
碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。
留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。
フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。
リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。
フラン王子目線の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる