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しおりを挟む夢を見た。
まだ小さい女の子と男の子が鏡を通じて喋り合う夢。
女の子の顔は後ろを向かれていたから分からない。
動こうとしても、なぜか動けずに、わたしはただその光景をただ眺めていることしかできなかった。
「琴葉。琴葉。今日は久しぶりに温かい食事が届いたんだ。お母様も喜んで召し上がられていたよ」
男の子が嬉しそうに女の子に話し掛ける。まだ甲高い天佑の声。琴葉、と呼ばれた女の子が相槌を打つ。
(琴葉、って……)
ドキリ、と心臓が跳ねる。
ーー本者の琴葉がこの場に居るのだ。
息を呑んで、女の子を見つめる。
(ああ。振り返ってくれたら、『琴葉』が、わたしかどうか分かるのに……!)
夢の中の出来事だ。
当てにはならない。そう思いながらも、それでも目の前にいる彼女こそが『琴葉』なのだと直感した。
(振り向いて欲しい)
けれど、事実を知るのは怖い。
相反した願いがせめぎ合う。
女の子は背中までの黒髪で、なんの特徴もなかった。だからこそ、顔を見なければ、判別が付かない。
焦燥からか手のひらには汗が溜まっていく。そして、どれほど凝視しても女の子の顔は天佑の方へ向けられたまま……二人だけの世界が構築されていた。
(動くことができたら確かめられるのに!)
痛切にそう願ったその時。
ゆっくりと女の子がこちらへと振り向く。
けれど、女の子の顔は逆光で確認することができなかった。
(どうして……!)
もどかしさに顔を歪める。
天佑の望む『琴葉』が居る。
なのにわたしは彼女が誰であるかすらも、確かめられない。
ただ金縛りにあったように、棒立ちのまま。手を伸ばすこともできなかった。
「お姉ちゃん」
不意に、女の子がわたしをそう呼んだ。
喋ろうにも、わたしは口が開けなかった。ただ、女の子だけが語り始める。
「盗み見て、答えを知ったところで、それはズルだよ。お姉ちゃんが本当に『答え』を知りたいのなら、ちゃんと自分で行動しなきゃいけない。ちゃんと自分の目で真実に辿り着かなきゃいけない」
そうだ。その通りだ。
わたしは何を甘えていたのか。
頬に一筋の涙が溢れる。自分の愚かさ。そして弱さを突きつけられたような気がして、じくじくと胸が痛む。
「大丈夫。まだ間に合う。真実から目を逸らさない限り、きっとハッピーエンドの道が開いているから」
あとはお姉ちゃん次第だよ、と女の子が続ける。
それに対するわたしの答えは……。
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