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しおりを挟む眠る前に黄先生から貰った香り袋を枕元に置いてみる。
薄桃色の可愛らしい小袋の中から花の香りがして、心が落ち着くような気がした。
(また明日、黄先生に改めてお礼を言おう)
わたしを心配してくれるその気持ちが嬉しかった。
ーー天佑は今夜やってくるのだろうか?
彼がやってこない限り、わたしは彼に会えない。
逆に彼がこの部屋にやってくることを拒むこともできない。
(身分、か……)
この世界にやってきたことで、身分の差を痛感するようになった。
天佑がその気になれば、わたしなんてどうとでもできる。
実際に『鏡の国』の天佑はそのように『琴葉』へ迫ったルートだってあった。
(まぁ、そのルートはバッドエンドだったけど)
彼がハッピーエンドを迎えるためにはーーをしなければならない。
それには……そこまで考えて、止める。
もうゲームの状況と今の状況ではかなり違う。
ならば、今はちゃんと目の前に居る天佑自身のことを考えるべきだ。
(朝は、気まずい思いはしたけれど)
彼のことを怖いとも思った。
それでも彼が眠れていないのは気がかりであった。
もし、天佑がやってきたら何を話そう?
そう考えながら、目を閉じる。
(ーーああ、もう眠い)
なんだろう。今日はやけに瞼が重い。
いつも寝る時間よりも少し早く訪れた眠気。それほどまでに疲れていたのだろうか?
(匂い袋の効果かな? 天佑にも効果があると良いけれど)
そう思いながら、揺蕩う。
現実と夢が行き来する浅い眠りが心地良い。
思えば、ここに来てから常に気を張っていた。天佑の前では失敗してはならない。そうでないとバッドエンドになってしまうから、と。
でも本当は、天佑にもバッドエンドを迎えさせたくなかったのかもしれない。
(だって天佑のこと好きだったから)
ゲームを通して好きになったキャラ。
その彼に悲しい思いをさせたくなかった。
できることならハッピーエンドを迎えさせたかった。
根底でそう考えていた自分にようやく気がつく。
(わたしって馬鹿ね)
天佑が来たら、ちゃんと話そう。
わたしは『琴葉』じゃないかもしれないけれど、それでもどうすれば良いのか一緒に考えることはできるはずだ。
(起きたら、天佑と向き合うわ)
とろりとした眠気がすぐそこまで来ていた。今度こそ、それに抗わずに身を任せる。
けれどわたしは忘れていたのだ。
ここが『鏡の国の世界』であることを。
ゲームと同様に言動が一つでも間違えるとバッドエンドを迎えることを。 その言動に気をつけなければならない相手はなにも天佑だけでないことを。
理解していなかったからこそ、追い込まれるのだ。
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