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 初夜を迎えなかったこと以外、ゲームの大筋通りに進んでいる。
 それに気付いたわたしは自身の行動が見えざる神の手に動かされていたような不愉快さに、扉を睨む。


(ゲームの強制力が働いているみたいで気持ち悪いわね)


 まずは落ち着いて考えようと、長椅子に浅く座る。
 次いでベルを鳴らして、使用人を呼ぶ。
 すぐさまやってきたメイドにお茶を飲みたいとせがんで、彼女の動きを観察する。
 紅茶の用意をするため部屋を退出したメイドはユリウス同様、施錠することはなかった。
 その様子から、既にユリウスが使用人達に対し、部屋の鍵についてなんらかの通達を出したことを知る。 


(随分と仕事が早いのね)

 彼を相手に皮肉めいたことを思うのは、自分自身がゲームのヒロインそのものとして動いている既視感への焦りゆえか。
 どちらにしろこれでは八つ当たりだ。
 ひとまず落ち着こうと深呼吸をして、こめかみを揉む。
 そうしている内に運ばれた紅茶にミルクを入れ、次いで砂糖をたっぷりと入れて、それを飲む。


(このままゲームのシナリオ通りに進むとなるとまずいわね)

 とりあえず状況を整理しよう。
 まずユリウス・エルガーという人物は主人公がノーマルエンドを迎えた時にのみ、現れるキャラクター。
 終盤にのみ、それも部分的に絞られて現れる隠しキャラゆえ、他の攻略キャラよりも情報が薄い。
 そしてユリウスのルートも監禁エンドの一択のみだ。
 その彼のシナリオを思い返す。



***

 学園に居る間に異性と仲を深めようとしたが、彼らとの関係は『友情』で終わってしまった。
 ゆえに約束通り両親が決めた相手と結婚することになった。
 けれど、結婚は書面上のみ。式も挙げずに、その相手の屋敷に直接向かうのは意外であると感じていた。

 執事によって通されたのは広い屋敷の奥まった場所にある部屋だった。そこに通されるとガチャリと外側から鍵が掛けられる。


(なんで、鍵なんか……)

 不審に思ったリーシャが部屋を見渡せば、窓が一つもないことに気が付く。
 閉じ込められたのだと知り、本能的な恐怖から扉を叩いた。


『どうしてわたしをここに閉じ込めるの。お願いだから出して頂戴!』

 何度も、何度も、叩いては叫ぶ。
 だというのに、誰もやってこなかったことに絶望が胸に広がる。


(わたしはただ嫁いできただけなのに……)


 その相手が誰か知らされていない。両親が頑なに秘匿していたから。それゆえなんの情報もないまま、愚かにもここに来てしまった。


(けれど、急にわたしを閉じ込めようとしている相手なんて聞いていないわ)

 こんなことなら学園に居る間、もっと死に物狂いで結婚相手を見つけるべきだった。 
 後悔からボロボロと涙が頬に流れる。
 だが、それを優しく拭き取ってくれる相手なぞ、ここには誰も居やしないのだ。

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