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36 (side:エドモンド)
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自分の掌にスッポリと収まっている『魔女の秘薬』を握り締める。美しく装飾された硝子瓶の中にあるその薬の効能は眉唾ものだ。
本来の自分であれば、鼻で笑う程度のもの。それを自分の汗で滑り落とさないようにぎゅっと掴んでいるのだから、なんて愚かな存在に成り下がったのだろうと思う。
(第一、こんな得体の知れないものフィオナに飲ませようなんてどうかしている)
そっと瓶の蓋を開ける。少し薬草の匂いはするが、きつくもない。ハーブティーに混ぜると気付かれないのではないかと思うほど。
その事実に気付いて、グラグラと理性が揺れる。こんなものに頼るなんてどうかしている。けれどその薬の効能はどこまでも自分に都合が良いものだからこそ、頭を悩ませた。
ーーこれを彼女が飲めば……。
いっそのことコレは僕が飲めば良いのではないかとも考える。しかし、もし効能が本当であったとしたらと思うとどうにも踏ん切りが付かず、諦めきれなかった。
甘美な誘惑は日に日に理性を溶かす。
眠れないほどに頭を悩ませて、ほんの少し睡魔に負けると夢の中に現れるのは、薬の効いた彼女の姿。それに驚いて飛び起きる。
心臓がバクリバクリと音を立てて、慌ただしく鼓動していた。
(……僕は何を考えている?)
冷静になろうと自分の部屋を抜け出して、フィオナが眠っている部屋に音を立てないようにドアを閉めて、こっそりと入る。
ここ最近では薬を持っている後ろめたさから、ろくに彼女の顔を見ていない。深夜だから、寝つきの良いフィオナのことだ。今は深い眠りに落ちていることだろう。
だから、今日は彼女の寝顔を見て、すぐに自室に戻ろうと思った。
案の定、彼女は眠っていた。いつもであれば、フィオナが起きないようにその寝顔を見るだけに留まっていた。だというのに、気付いたら彼女の柔らかい頬を撫でてしまう。
まろい感触は楽しむと、ふにゃりと彼女が微笑む。まるで警戒心のないその微笑みはずっと自分が欲しかったものだ。
初めて会った時以来、自分に向けられてこなかった笑みが今ようやく向けられているのだという事実に、ゴクリと喉を鳴らす。
(彼女が薬を飲めば、手に入るのではないか?)
甘い誘惑が強烈に自身を揺さぶる。
頭を横に振ってその誘惑に抗おうとしても、彼女の微笑みが頭から離れない。
そして数日の葛藤の末、僕は愚かにもとうとう欲望に負け、彼女に薬を飲ませてしまったのだ。
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