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 フィオナに触れられるのは僕にとって天上の喜びだ。雪のように白い肌がしっとりと汗で濡れた艶やかさも、遠慮がちに口から溢れる甘い声も、律動するごとに自分に縋る小さな手も、なにもかも愛らしくて仕方がない。出来ることならば、余すことなく観察して深く心に刻みたいものだと思う。
 しかし彼女からすれば、自分が嫌っている男に身体を差し出さなければならないのは、男の僕が想像する以上に苦痛なものだろう。
 だから会話もなく、必要最低限の触れ合いに留めていた。


 そんなことをするくらいであれば、最初から触れない方が良い。結婚して、独占する権利を得たのだ。大人しくそれで満足すべきだ。
 頭ではそう理解している。けれど一度触れてしまったことで、タガが外れたかのように、心が彼女を求めてしまうのだ。


 結婚して横に居てくれるだけで良い。最初はそう思っていたくせにいざ彼女が隣に居ると僕を見て欲しい、俯かないで笑って欲しい、少しで良いから僕を好いて欲しいと願うようになる。
 

(……なにを愚かなことを。フィオナが想いを寄せている相手はシリウス殿下だ)

 僕じゃない。フィオナは僕のことを好きになんかならない。
 心の中で何度も反芻したのは、自分への戒めのため。
 近くになった距離に勝手に勘違いしないように、日に何度も言い聞かせていても、時折どうしようもないほどに彼女への気持ちが溢れそうになった。


 どうして僕を見てくれないんです、と直接詰め寄りたくなる日もあった。
 みっともなく自分の気持ちを全てぶつけて、汚い部分を曝け出してしまいたい。
 あんな性悪殿下のことなんか諦めてください、と懇願したい。


(そもそも、なんでフィオナはシリウス殿下に惚れているんだ)


 確かに見目も良いし、女性には紳士的だが、性格は相当『アレ』だぞ。
 彼の性格のことくらい殿下と親しかったフィオナであれば、当然知っていることだろう。
 それに殿下は昔からグレイシアを好いているじゃないか。


 自分の姉を希っている男なんかいい加減諦めて、僕のことを見てくれたら良いのに。
 しかしフィオナは僕と話す時は俯いて顔を伏せているくせに、殿下と話す機会があれば、頬を染めて熱い視線で彼を見つめているのだ。


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