蒼炎のカチュア

黒桐 涼風

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第二十章 悪女の素顔

20-8 ナギサイド

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 部屋の扉を開けた先には、女王様の様な、服装と雰囲気を持った女性が立っていた。

 女王様は、女王様でも、サドの方の女王様だ。てか、誰に伝わるんだ? 伝わるとしたら、アイラか。いや、アイラが、八人の空の勇者と呼ばれていたのが八歳の時だから、多分、知らない。知っていたら怖いわ。教育によろしくありません。

 でも、あくまで、雰囲気。見た目で判断してはいけない。その代表がカチュアだから。

「久しぶりだな、ネール」
「あらあら~。どこかで、見たことがあると思ったら、アイラじゃない。しばらく見ないうちに、かっこよくなっちゃって」
「久しぶりといいたいところだけど……、ネール、お前、敵味方関係なく毒を巻き散らかして、何がしたいんだ?」
「随分とクールになっちゃって。一応、私は、帝国の将をあなた達の敵よ。手違いで、帝国軍に毒が巻かれちゃったけど、毒物の効力はまじかで見られてたから、まあいいわ」

 全面撤回! やっぱり、サドでした! というか、マッドサイエンティストですか? ……だから、誰に伝わるんだよ!

 そして、こいつがネールか。

「あんたは、いつの間にか、嫌らしい喋り方をするようになったね。敵に容赦なく痛めつけるところは変わっていないけど」

 わ~。これ、もしかして、八歳の子供の前で、相手を痛めつけている所を見られているってことだよね? 子供に変な所見せるなよ。

「あら? 噂の蒼い髪の綺麗なお嬢さんはここにはいないのね? 指名手配の元王女のリリカと、セシル王国のユミル様、そして、ユンヌの子がいるのに」
「妾をわざと忘れていやがるだろ?」
「あら、皇女様、お久しぶりですね」
「お前がゲス兄に付くなんて思いもしなかった。親父の命令すら従わないお前が、何の目的もなくゲス兄に付くのは考えられない。何が目的だ?」
「言うと思う?」
「……言わないだろうな」
「ネールって言ったな」

 今度は私がネールに話しかける。

「あら? あなた、どこかで見たことがあるような……」
「サリナって、聞き覚えはあるか?」
「サリナ? ああ、あの四英雄の? 同僚だった、バルンクは闇堕ちしちゃった見たいだけど」
「バルンクを知っているのか?」
「ええ」

 バルンクが闇堕ちしたっていうことに引っかかる。私がこの時代で聞いたバルンクは英雄のまま、伝わっている。仲間殺しは伝わっていないのに。となると、アルタミストに手を組んでいるバルンクを、この女が知っている可能性がある。

「教えてもらっい! あんたが知っていることを!」
「……どうでもいい」
「え?」

 ネールは右手のは短剣を持ち、左手には、獣の爪の様な三本の刃が付いた籠手を装着した。

「どうでもいい。連中のことなんか。今は、邪魔なあんたらをここで始末するだけよ」
「気を付けて! 奴の武器には、毒物の匂いがするわ」

 リリカの警告と同時に、ネールから黒い靄が現れた。恐らく、闇の魔術だ。

 その黒い靄が私達目掛けて、襲い掛かってきた。

「何なんだ? これは?」

 ぐ! 苦しい。意識が、飛んで行くようだ。

 シャキーーーーン!!!

「しまった!」

 黒い霧の中で、ネールの鉤爪の籠手による攻撃をもろに受けてしまった。

「ぐ!」

 確か、あれには、毒があるって言っていたような……、あれ? そう言えば。

「皆んな、無事か?」

 黒い靄がなくなると、私の傍に、マリンがいた。だけど……。

「これは、魔物ですか?」
「毒尾の狐とかいう名の狐型の魔物だ」

 ユミルと、アイラ、ロゼッタ、リリカは体が大きい狐五体に囲まれていた。

「精神ダメージを与えるおまけ付きの、目くらましよ、あの魔術は。さすがに、アイラを含む大勢の相手なんてできないから、私は、この実験体の魔物を招集してもらうわよ」

 この目くらまし!? 目くらましにしては、殺意高いよ! これ!

 しかし、魔物相手か。魔物を使うなんて、ここには、ネール以外の人間はいないのか?

 しかも、あれって、毒尾の狐だよな? ティアが危機感を感じられない命名にしようとして、私が『九尾の狐でいいじゃない』って、いったら、ティアに『尻尾が四本しかない』って指摘されてしまった。じゃあ、あの尻尾には、毒があるから、『毒尾の狐でいいじゃないか』となって、あの狐の魔物は毒尾の狐という名になったんだ。ティアは不満そうだったけど。

 現に、あの尻尾、角のように硬くって、毒があるんだ。それをもろに受けたバルンクが、その毒で死にそうになったんだ。幸い、ティアの解毒の治癒術で大事にはならなかったけど。

「それよりも、サリナは無事か? ネールの攻撃を受けたじゃない」

 そっか。そうだった。けど、血が出ていない。それに、毒があるっていったけど、現時点で、毒による症状が出ない。

 あ! そもそも、この体は私のじゃないんだ。ミラの手によって作られた人形の体だった。人形だから、斬られても出血はしないし、毒も通さない見たいだ。

「私は大丈夫だ。よくよく考えて見れば、この体は作り者だった」
「まあ、無事ならいいんだけど……」
「しかし、どうする? 見事に分散されてしまったよ」
「くっ! アイラ! ロゼッタ! 狐の相手は任せた! ネールは妾とサリナが相手になる」
「分かった、気を付けてください」

 どうやら、私とマリンで、ネールを相手にするのか。まあ、妥当かな、この毒使いの相手は、毒が利かない、私とマリンで相手にする必要がある。

 毒尾の狐にも、毒はあるが、少なくとも、このネールよりかは厄介な魔物ではない。それに、奴らの毒は、治癒術の解毒なら対処できる。ネールが使う毒が、治癒術の解毒で対処できるか分からない以上、毒尾の狐はアイラ達に任せた方がいいかもしれない。

「そうと決まれば、いるよ、マリン」

 とはいえ、勇能力を失った私は、勇能力者相手にできるだろうか? 

「いくぜ、ネール!」

 マリンは収納魔術で己の武器である大鎌を取り出した。

 カキン! カキン! カキン!

 マリンの鎌と、ネールの短剣と鉤爪のぶつけ合い、鉄と鉄がぶつけ合う音が鳴り響いている。

 グッサ!

「ぐ!」

 マリンはネールの攻撃を受けてしまった。一見、マリンは、ネールの攻撃を受け止めているように見えたが、ネールの方が速さが増していた。マリンのはその速さについて来れずに、ダメ―ジを受けてしまった。

 だが。マリンがはメージを受けながら、ネールの顔を鷲掴みをした。

「よくもやったな! これでも、喰らえいやがれ!」

 ネールを掴んだ手から、黒い光線が放出された。黒い光線と共に、ネールが吹き飛んで行った。

 ネールは飛ばされたが、空中で体制を整えて、上手く着地した。

 ダメージを受けつつ、カウンターを決めるなんて危なかっしいな。

 カチュアの体から独立したとはいえ、全盛期以前のように戦うことはできないが、戦の経験は活かせるところ見せてやるよ。

 私は指を回しながら、水の魔術で、氷のリングを構成し、その氷のリングをネールに目掛けて投げつけた。

 ネールは向かってくる、氷のリングを短剣で向かい打とうとするが。

 パッキーーーン!!!

 氷のリングが短剣の刃に当たると、短剣の刃の部分が、真っ二つに折れていった。まあ、あのリングは熊型の危険種なら、体を両断にできる程、殺傷力はあるからね。

「そこだ!」

 マリンは鎌で、ネールの懐に攻撃した。普通なら、体を両断にできるが、ネールの勇能力の持ち主。障壁で守られている以上、ネールに傷一つ付かないのよ。

「やるわね。さすがは、次期皇帝に、賢者と、言われることはあるわね」

 まあ、私の戦い方は本来、賢者と思えない程の、接近戦で戦うスタイルなんだけどね。

「しかし、あなた達の家系も呪われているわね。同じ過ちを繰り返すなんて」
「叔父とゲス兄のことだろ?」
「あら? 気づいていたのね?」
「察しは付いていた。妾の母上の兄、妾にとって、叔父にあたる野郎が、悪帝だとな」

 悪帝だと? 確か、悪帝って、二十年前の悪政を働いていたらしい。アイラやシグマ、そして目の前にいるネール含む、八人の空の勇者によって倒された。

 今の話からして、マリンは、その悪帝の姪だと言うのか?
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