蒼炎のカチュア

黒桐 涼風

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第十九章 第一次マギ大戦

19ー12  ナギサイド

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 その夜。

 疲れて、ぐっすり寝てしまったカチュアとエドナをテントに置いて、私は夜の散歩に出かけた。

 というよりかは、逃げて来たのが、正解か。エドナが寝たら、それは、もう地獄の始まりだ。とにかく、彼女は寝相が悪い。その寝相の悪さで、現在カチュアが被害にあってしまった。エドナの寝相の悪さは怪力娘のカチュアでさえ、手に負えない程だ。助けたくっても、助けに行く側も巻き込まれてしまうため、助けることが出なく逃げてきたんだ。

 しかも、彼女の寝相の悪さで暴れた後の光景が、規制を掛けないといけないレベルになっていた。

「サリナじゃない! チーちゃんと一緒じゃないの?」

 散歩をしていると、アンリとで出くわした。

「今は一人だ。カチュアをエドナと一緒に休んでいる」
「そうですか。わたしも、そろそろチーちゃんのところに……」
「やめたほうがいい!」
「何でよ!?」

 今言っても、被害にあうからだよ! カチュアでさえ、手に負えない相手に、あんたが対抗できないからな!

 とは、いったものの。カチュアを見捨てて、逃げたと、知られたら、この女に殺されそうだな。カチュアにセクハラをしようとした輩を裁いていたからね。

 ……よーし。

「丁度良かった。アンリに聞きたいことがあったんだ」
「答えられる範囲までなら答えるよ」

 ここは、無理にでも話題を作ろう。何がいいかな? ……あれがあった。記憶を取り戻してから、気になっていたことがあったんだ。

「カチュアは自分がヴァルキュリア族って、知らなかったから、聞きようがない。少なくとも、あんたは、ヴァルキュリアの特性やその種に伝わる禁忌や伝承は、ある程度、知っているようだね」
「お母さんが亡くなる前に教えられたからね」
「私はかつて、ヴァルキュリア族と一緒に戦った、その子から、ヴァルキュリア族は世界を壊す存在が生まれるって、言われているが、それって、カチュアのような、蒼い炎が使えるヴァルキュリアのことでいいのよね?」
「……確かに、所属する国や亜種によって、ヴァルキュリアの伝承は異なる。世界を壊す存在として伝えられているのはヴァルキュリア族のみよ」
「それと、あなた達の言う空の国からこの地に降りてきた。……と言えばいいのかな? 私はこの地に降りてくる以前は勇能力は使えなかった。となると、勇能力は血統ではなく、与えられる物。勇能力は兄神から授けた物。しかし、現代、その兄神は存在しない。それにも関わらず、血統とか関係なく勇能力を持つ者が出てきている。となると、兄神の思念見たいのが、この大地に注ぎ込んでいるのでは?」
「いきなり、兄妹神の話が出て来るなんて。それはヴァルキュリアと関係する話?」
「そうだね。だって、この二人の神が光臨してから、亜種が誕生した。ヴァルキュリアもその内の一種だよね」
「……それで?」

 アンリの顔が段々険しくなってきている。私が何を話すが、悟っているみたいだ。展開は分かっていても、話は最後まで聞くようだ。

「カチュアの蒼い炎は、勇能力の力でさえ、打ち消せる。そして、その勇能力は兄神が与えられた力。その兄神が与えた力を、あの蒼い炎で打ち消せる。そして、先ほども言ったように、血縁関係なく勇能力が宿る。その仮説として、兄神の思念見たいのが、この大地に注ぎ込んでいるじゃないか。もし、それが本当なら、カチュアはその気になれば……」
「……そうよ。チーちゃんの蒼い炎を使えば、兄神の置き土産の思念を宿った大地を滅ぼすことができるのよ」
「な!」
「魔術や魔物など対魔だと思われているチーちゃんの蒼い炎だけど、本質は神殺し。正確には異能殺しかしら? 元々この世界に存在した心術は打ち消せない見たいだし。それで、その神殺しは、神の思念が宿った大地も例外じゃない」
「何で、そんなことに!?」
「全ては、人と魔族の戦い」
「人と魔族?」
「宗教国家のロランスなら伝承があるんじゃないかな?」
「いや、スイレンからはそんな素ぶりはなかったはず……」
「知っていて隠しているのか、もしくは聖王に即位した者しか伝えていなか? それとも、そもそも、伝承が失っているのか……。まあいいか」

 相変わらずの早口だ。これで、長い話を聞き取るのは、

「魔石が生きっているって話は覚えている?」
「ああ、力に心を宿るんだっけ? 心に問いかけて、力を使わせるんだったよね? 勇能力も対象内だったよね?」
「兄妹が光臨する前から、魔族が存在していました。勿論、彼らの食事である魔石もです」
「その魔族が人間を支配し始めて、人間達に救うため、兄妹神が光臨して、手を差し伸ばしたんだっけ?」
「だけど、光臨した兄妹神も地上に降り立った時、思いもしなかったでしょうね。自分達が同じ過ちを引き起こしてしまうことをなんて」
「どういうこと?」
「……魔石は元から、この世界に存在していなかったんです」
「何だって!」
「この世界は、元から魔力は存在していました。といっても、自然エネルギー見たいなものです」
「世は空気と似たようなものか」
「その魔力と心の力を融合させた魔術が心術です」
「元から存在していた力だけ?」
「心術は、現代でいう、独裁思考のお持ち主には使えなかったそうです。チーちゃんのような、穏やかな人柄が、扱えていたらしいです」
「それは都合がいいね」
「とは言っても、心術が使えない劣等感を持った方々がいたそうよ。それと、家族を人質と心術を無理やり使わせたりする輩も」
「まあ、それはいるだろうね」
「そんなある日、物凄い心術が扱う人間が現れたのです。それはとても異例だったそうです」
「どんなところが?」
「始めは、問題のない人柄だったのですが、徐々に心術を持っていることに疑問を抱く程、人格が歪み始めたのです。そして、やがて、人々に恐怖を与える存在になり替わったのです。それが、初めて現れた厄災と言われています」
「初めての厄災。でも、この地がまだ存在しているなら、その厄災は打ち破ったんだよね?」
「そうです。一応、心術という対抗手段がありましたから。だけど、厄災は倒した後、悲劇が生まれました」
「悲劇?」
「兄神が思念見たいのを、この大地に注ぎ込んだように、その倒した厄災も思念の様なものを大地にばら撒くという置き土産をしたのよ」
「それが、魔石か」
「ええ。その心術を扱う者は、もしかしたら兄妹神のような神様的な存在だったかもしれない。結果、己の持つ力に心を宿り、洗脳して、厄災を生み出したってことね」
「成程、最初の厄災が本来神的存在なら、その神が生み出した魔石は神の力。カチュアの蒼い炎は、その神の力を宿った勇能力と魔石を打ち消すことが出来るってことか」
「そうよ」

 思っていた以上に壮大な話だった。

 つまり、神殺しの力を持ったカチュアは、神の思念が宿ったこの地を滅ぼすことが出来るってことか。カチュアは、世界を壊すことはしないだろう。だけど、最初の厄災も望んで厄災になったとは思えない。人格が変わっていったらしいし。

 仮に、カチュアが世界を壊すとしたら、戦場に舞う負の気による暴走。その反動で、世界を壊すかもしれない。

「話はここまでよ。それよりも、何で無理に話題作ったの?」

 あ。バレていた見たいだ。

「まあ、聞きたかったのは本当だったみたいだから、話したけど、もう行くよ。チーちゃんのところに行くよ。何で、足止めしたかは分からないけど」

 行っちゃった。犠牲は避けられなかったか。まあいいか、死ぬわけではないから。

 私はぼーと、月を見始めた。三日月か、最後に満月見たのはいつだったけ?

「ふう。記憶を取り戻してから、バルンクに対しての憎しみをが蘇ってしまった。あの、化け物の人格を持った私に。記憶をなくした時の方が気持ちが楽だったのに。私は勇能力をなくしても、心に宿った呪縛と永遠と付き合わないといけないか。これが憎しみを抱いたまま、力を解き放った私の罪なのかな? でも、カチュアはもっと辛いはずだ。私のこの負の感情を読めているからね。私はカチュアの傍にいていいのか?」



第十九章 第一次マギ大戦 完
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