蒼炎のカチュア

黒桐 涼風

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第十七章 忌まわしき過去

17-12 ナギサイド

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 コルネリア軍が国境付近に現れた。そして、私は、寄り道をしてしまったが、セシルに応援を要請をするために、急いで、セシル城まで走って向かっていた。

 だけど、その心配はいらなかったようだ。既に、セシル王率いるセシル軍が出陣していたんだ。同じく、陸路で戦場へ向かっていた、ソフィアとオリーと合流して、再度カチュア達の元へ向かっていった。



 しかし、その心配はいらなかったようだ。駆けつけた時には、既にコルネリア軍は撤退していたんだ。

「よかった! 二人とも無事で!」

 メリアはアニーとギルティの無事を喜んでいる。カチュア達と別行動をしていたエドナ達と合流したッス。

「おお! ユミルちゃん! 無事でよかったな!」

 セシル王が声を掛けた瞬間。

「いやあああああ!!! 不審者ですわ!!」

 ユミルが叫び出した。あれ? 確か、ユミルは出陣するセシル王を父親って視認していたような……。

「おい! 怖がっているから」
「あ……はい……」

 ソフィアの圧が強すぎて黙り込んでしまった。

「あの……お久しぶりですね、セシル王」

 アイラさんがセシル兵に声を掛けた

「おお! 誰かと思えば、アイラくんではないか! いやあ、立派になって! どうだ? この後、一緒にお風呂でも入らないか?」

 ビリビリ!!!

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ソフィアの雷の魔術がセシル王に直撃した。

 丸焦げになったセシル王は、ばたりと倒れていった。

「懲りないな、このおじさん」
「あの人は普段、完全犯罪者のスケベオヤジですが、戦いになると、賢者のような指揮を取ることで有名ですよ」
「……想像できないな」
「まあ、その代わりようは、二重人格のようなものだから」
「しかし、サリナさん、セシル城に向かったにしては、遅かったですね。何か、あったんですか?」
「まあ、理由がある。詳しくは、後で話す」

 


 私達は、セシル軍と共にセシル城へ戻って来た。皆がぐったりしている中、私はセシル王に話しかけた。

 その隣には、カチュアとエドナもいた。二人とも疲れているはずなのに。

「セシル王に聞きたいことがある」
「君は確か、四英雄の一人サリナだったな? ユミルちゃんから聞いている。そして、かつての仲間であった、バルンクと戦っていたことも。それで、聞きたいことはなんだ? できる限りのことは話そう」
「単刀直入に聞くんだが、この国に妖精族や小人族っているのか?」
「え! どういうことですか?」

 セシル王は、しばらく、目を瞑りながら下を向いていたが、再び私の目を見て口を開いた。

「確かに、いる。居場所までは分からないが。我々セシルは、力を求める者から彼らを守るために、匿っていたんだ。そのことを知っているのは、ごく一部の者のみだ」
「そうだったんですね」
「あたしの他に妖精族がいたんですね」
「君は妖精族だったようだね。もしかして、そなたは、ディアの娘か?」

 ディアっていうのは、エドナの父親だったね。

「そうなんだよ! だけど、お父さんは亡くなったんだよ」
「そうだったのか。ディアは人間の女性の間に子を授かったと聞いていたが、其方
のことだったのか」
「あたしのお母さんは人間だったの!?」
「ああ、ある村で出会って、結ばれたそうだ。だけど、其方のお母さんは、其方がまだ赤子の時に病気で亡くなってしまったんだ。そっか、ディアにばかり、荷を背をわせてしまったな。わしは、この地から離れられないばかりに」
「何で、あんたはエドナの父親を知っているんだ?」
「わしとディアは兄弟弟子なんだ。ディアはある使命で妖精族の里から出たんだ。だけど、外の世界に不慣れだったディアは遭難して、その際、わしの魔術の師匠であったゼクゥンス師が助けてくださったんだ。それ以降、わしとディアはゼクゥンス師の元で魔術の稽古を見てもらっていたんだ」
「そうだったんだな」
「ところで、何で、この国に妖精族がいるかって聞いたんだ?」
「それに繋がることなんだが、アルタミストって、聞いたことないか?」

 それを言った瞬間、セシル王は驚いた顔をした。

「アルタミスタだと? 確か、かつて、人体実験を行っていた民を聞いている。解放軍によって潰されたらしいが……」

 そっか。現代ではそうなっていたが。

「ナギちゃん心辺りあるかしら~?」
「私とティアは厄災を倒した後、亜種達を利用した人体実験をしている民がいるのを聞いて、彼らを助けるために向かったんだ。アルタミストの連中は、禁忌とされているメリオダスの研究資料を基にした研究を、今でいうヴァルダン辺りで行っていたんだ」
「その後、亜種達は解放されたんですか?」
「わからない。解放戦争の途中で、私はバルンクと戦い、その後は封印されたんだ」
「以前、ヴァルキュリア族、封印したあなたを託したと言っていましたが、もしかして」
「その実験体として、囚われていたヴァルキュリア族だ。髪色は黒髪だったがな」
「その子孫がカチュアになるのかな?」
「そうとは言い切れないが、生まれた子に封印した私を託していたなら恐らく」
「アルタミストは何が目的だったんですか?」
「当時の帝国に宣戦布告。そのために、メリオダスの技術を使った研究をしていたんだ。恐らくその子孫のアルタミストの民が、この国に侵入していたんだ。私が殺してしまったが。そして、奴らの口からバルンクの名を出していたんだ。それも、あいつはどうやら、生きている見たいなんだ」
「何だと!? あのバルンクが!! でも、確かに……」

 また、考えているのか、目を閉じてた。

「これは、ある可能性の話だが、奴が生きているとしたら、君の様に、仮の体でいて、現アルタミストのボスの可能性がある。ただ、ボスだが、アジト奥で指揮をするだけとは思えない」
「何でですか?」
「一度は、厄災を倒した英雄で、その英雄同士殺し合った。つまり、強大な力を持っている可能性がある。そんな奴がアジトで引き篭もるとは考えにくい。分け合って、動けない体になっているとも、考えられるが」
「変装か何かして、アルタミストの活動を監視しているかも、しれないってことですか?」
「部下を使い捨ての駒にするならな。それに、部下の誰かしらが裏切る可能性を考えているかもしれない。奴だけの目的があるなら」

 成程、あいつは、あいつで、目的のために、アルタミストの連中を利用しているってことか。

 しかし、何なんだ、その目的って? やはり、ティア関係か? あいつは、ヒスイを殺してでも、ティアを手に入れようとしていたから。

「なあ。そのバルンクに特徴って何かあるか? さすがに、外見は恐らく変わっていると思うが、癖とかは、変えられないはずだ。何か、ないか? その仕草とか、口癖とか、何でもいい。少しでも情報が欲しい」
「癖って、言われても……」

 必死にバルンクの癖を思い出してみるが、なんせ、つい此間まで、記憶を失っていたから、記憶が曖昧だ。でも、バルンクのことを知っているのは私だけだ、何とか思い出さないとだ。

――死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 
――おい! やり過ぎだよ! いくら、相手が魔物でも、そこまで斬りつける必要ないだろ!

 記憶をたどると、発狂と共に、魔物相手に何度か斬りつけるバルンクを止める、ヒスイの光景が浮かんできた。

「……一つだけあった。あいつは、発狂すると、同じ行動や、言葉しか、発しなくなるんだ。狂ったように。例えば、『殺す!』を何十回叫ぶとか」
「それだけ聞くと、英雄とは思えない程、狂気じみているな」
「そう言えば、ヒスイによれば、その発狂するセリフや行動は四十九回も繰り返し行われるらしい」
「意味ありげの回数かな?」
「回数自体は偶然かもしれない。だが、私が知っているバルンクの癖だ」
「ん~。そんな狂気じみた癖を持った知り合いには、いないな……」

 「狂気じみた癖を持った」と聞いた瞬間、ふっと、ユミルを思い浮かんでした待った。

「いや! ユミルちゃんは違うぞ!! 絶対に違うぞ!!」

 セシル王も同じことを考えたみたいだな。

「それは、だいじょぶよ~。ユミルちゃんの心のままだから~」
「そっか。いつの間にか、すり替わっていなくってよかったな」
「確かにあの滅多斬りは怖いが」
「ふむ! どうやら、バルンクを見つけ出すには、カチュア殿の読心力が必要かもしれない」
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