蒼炎のカチュア

黒桐 涼風

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第十三章 三姉妹

13ー13 ナギサイド

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 ドラゴンを倒したカチュア達はロンド村の宿で泊まらせてもらっていた。

 皆が同じ部屋で集まっている中、マリンとアイラだけは別の部屋にいる。無理もない。あのドラゴンは魔物化した、マリンの父親で、その父親は死んでしまったんだ。マリンは相当ショックを受けたから、心が落ち着くまで、アイラの付き添いで別部屋で休んでもらっている。

「マリンさん大丈夫でしょうか?」
「今は一人にしておこう」
「まさか、皇帝様がドラゴンになってしまうなんて」
「ナギさんの魔物化といい、シグマ様の異変といい、やはり勇能力に関係が……。確かに、今思えば、勇能力を持った人は大半、昔と現在では、性格が異なる者が多いです」
「シグマ様、左腕の調子が悪かったように見えたのは、そう言うことだったのですね」

 私の活躍した時代でも、魔物化に関して謎が多かった。現代と共通していることと言えば、魔石を魔道具として使わず、直接使ってしまったことだけだ。

 でも、勇能力を持ったものが、性格が歪んでいくと言われたら納得いく。バルンクがそうだった。勿論、私も……。

「ミラちゃん。そろそろ、知っていることを、教えてもらっていいかな?」

 人形から外に出ているミラに話を振る、カチュア。でも、なんで、ミラに聞くんだ?

「何のことですか?」
「勇能力のこと、知っているでしょ~?」
「それは……」

 カチュアは気づいていたのか。ミラが勇能力と魔物化の関係のことを。でも、それなら、アンリに聞いた方がいいのでは? なんか、彼女も魔物化に関して知っているみたいだったし。

「チーちゃん。これに関しては、禁句とされているの」
「禁句?」
「まるで、この事実を無かったかのように、真実を知った者を消すような輩がいるんです。だから、禁忌とされています。このことを知っているのは、人里から離れた亜種しか知りません」
「ちなみに、わたしも、姉貴から聞かされているから知っている」

 成程、人里から離れて暮らしている、小人族のミラがその禁句を知っている可能性があるってことか。後、ヴァルキュリア族のアンリとリリカも。カチュアは知らないみたいだけど。

「ん~、もし、知ったら、その人達を倒すだけよ~」
「チーちゃんも、相変わらずね。それなら、逸れ者のわたしが」
「ん~。でも、お姉ちゃん、喋るの速いから、上手く聞き取れないわ~」
「チーちゃん、酷い!」
「じゃあ、わたしが説明するよ。お姉ちゃんよりかは、わかりやすく説明できるから」
「ん~。でも、リリカちゃんは話が長いから、上手く聞き取れないわ~」
「えー! チーお姉ちゃん、酷ーい!」

 二人ともカチュアに断られて撃沈しているよ。彼女に振られたような、ショックがこれでもかってぐらい、わかりやすくリアクションを取っているよ。

 だから、カチュアはアンリに説明求めなかったのか。アンリは喋るのが速いし、リリカは話のテンポはいいが、長いから、カチュアは二人のトークペースに、ついてこれないからか。あれ? まともに、説明とか、聞いたことあったけ?

「分かりました。なら、ミラが説明します。……結論からいいます。そもそも、勇能力を才能や自身の能力という、考えをする自体間違えなんです」

 いきなりの衝撃発言に、呑気な性格以外の方々は驚いていた。

「どういうこと?」
「今回の皇帝が魔物化してしまった原因となった魔石も言えることなんですが、は、性質的にはなんです」
「き、寄生蟲!? それって、体に侵食するって、こと?」
「そもそも、この世界の仕組みは、力にも、心が宿るのです」
「つまり、勇能力は生きている?」
「はい、そうです。心を宿した力は、生物としての機能が備わっているのです。ですが、それは人にとって、質の悪い生体なんです」
「……というと」
「人の心に声を掛け、力を使わせて、馴らして力を高めていくんです。でも、それは、所詮、外部の力。器つまり、人としての器と合うはずがありません。元の人格を壊したり、人の体では、抑えきれない程の力を付けさせ、最終的には、体を乗っ取る。でも、個人差があります。魔物になっても自我を保つ者もいれば、その逆もあります」
「もしかして、魔物化は、その力をより効率よく引き出すための姿なの?」
「はい。ただ、その世界の仕組みで、さらに、悲劇を産んだのです」
「ここまでの話を聞くと、それは、兄神が与えたと言われる勇能力のこと?」
「はい。勇能力は元々は人間を支配する魔人族に対抗するため、兄神が与えたもの。だけど、兄神には、誤算がありました」
「この世界の仕組みを理解していなかった」
「そうです。兄神が与えた勇能力も例外では、ありません。兄神が人に与えた力、勇能力にも、心を宿してしまったのです」

 やりきれない話だ。人々から守るための与えた力なのに、その与えたもで、悲劇を生んでしまったなんて。

「そんな力をカチュアさんは凌駕しているのですよね? でも、亜種と呼ばれる方々には、何も、影響はありませんよ。勇能力じゃないとはいえ、彼らには、各亜種としての能力が備わっている。心を宿した力との違いはあるの?」
「この世界には、本来、己の魔力と心をエネルギーにした、魔術、心術というものが存在していました。先ほど、力に心を宿すと言いましたが、己の魔力に宿している心は自分自身。外部からの力ではないから、寄生虫としての性質はなりたてません」
「心術。そんなものが存在していたんですね」
「ですが、その心術も、時が経つにつれて、使える者が減りました。いいえ、違う型で、心術は残っているのです」
「それが亜種だというのか」
「妹神が降臨することで、体と心術が融合したと言われています。詳しくは分かりませんが。兄妹神がいなくなってから、新しい亜種が誕生しないと言われています」
「成程ですね。その話だけで、推測すると、カチュアさんの蒼い炎は、心術の一種ということになりますね。そして、その蒼い炎は、他者の体を支配する力から、解放することができる。現に、アイラさんは、勇能力が使えなくなったから。亜種はそもそも、支配されていないから、カチュアさんの蒼い炎の影響は受けなかった」
「そうですね。蒼い炎は魔物の体を灰にすることも可能なのは、恐らく、元々は退魔の心術だったからだと、思います。……ミラが知っているのは、もう、これくらいです」
「大体、わたしと姉貴の知っていること全部話してくれたね」

 思っていた以上に壮大な話だったか。となると、あいつは……。

「でも、それと、命を狙われるのは、どーしてかしら~」
「奴らは、勇能力の持ち主を魔物化させようとしている。つまり、その仕組みが知られてしまったら、実行しにくくなる。それに、それが、民衆に知られて、迫害を受ける可能性があります。それよりも、英雄として、祀られた方が、この事実を隠せる」
「確かに、勇能力の持ち主が魔物化した話は聞かねぇ。でも、今考えて見れば、アイラは魔物化はしていなかったが、暴れていた」
「そういうことか。確かに、ガロンなど、人が変わった事例がある」
「奴らは、力を使って行くたびに、成長していく、そのためには、力を使わせないといけない。だから、洗脳する」
「人が変わっていく原因ですか」
「親父は知らないうちに、その連中の計らいで人格を変えてしまっていたのか」
「魔道具はだいじょぶなの?」
「それに関しては問題ないです。魔道具に使われる鉱石は、その寄生蟲を抑制できるのです」
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