蒼炎のカチュア

黒桐 涼風

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第七章 守るべきもの

7-7 レオサイド

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「さて、さて、やりますか」

 この、蒼の髪と瞳を持った女性の名前は、確か……、カチュアだっけ? あの伝説の女将軍のような、見た目をしたうえ、……乳デケェな! スイレンより乳デケェの初めて見たな! あの、ちっこい女の子も体格に似合わず、大きかった。世界は広いな。

 しかし、妙な匂いだ。確かに人間の匂いだが、どこか違う。それに、一見、おっとりした表情だが、力強さと、脅威を感じる。正直、敵にはしたくない。戦えば、負けるのはあたしの方だ。

 この子……カチュアに敵として、認識されなくって、よかった。

「いいか! 本気でやれよ! 手加減していたら、奴らに感づかれてしまう」

 ほんとは、かったるいが仕方がない。

 だが、何でだろう。普段はダラダラと過ごすのが好きな、あたしだが、カチュアとの手合わせが楽しく感じる。

 あたしは懐に閉まっていた、爪の付いた籠手を取り出し、手にはめた。獣人族といっても、獣の様な耳と尻尾を生やしても、獣のような、鋭い牙と爪は生えていないんだ。身体能力は人間よりかは高いが。

「分かったわ~。なるべく本気で戦うわ~」

 本気で戦えとは言ったが、本気で戦ったら、たぶん、あたし死ぬな。でも、手を抜いたらバレてしまう。あいつに火の粉が降りかからないために、本気で戦って、敵を欺かないと。

「じゃあ、早速」

 あたしはカチュア目掛けて、爪による攻撃を仕掛けた。しかし、カチュアは剣で受け止めた。

 信じられない。あたしの力強さは、獅子と同等。それを簡単に受け止めるなんて。

 だが。

 あたしは、カチュアの剣を受け止めながら飛んだ。そして、カチュアの脳天目掛けて、踵落としで仕掛ける。

 しかし。カチュアは剣を持っていない左手で、あたしの足を掴んだ。本当に信じられない。一応、脚力も獅子並みだが、それを受け止めるなんて。しかも、素手で。

 カチュアは横に一回転して、あたしを投げ飛ばした。

 飛ばされたあたし。このまま、飛ばされれば、壁にぶつかる。飛ばされている状態で、体制を整えて、壁に激突ではなく、平地の上でうまく着地したように、重力を無視して、壁に両足を乗せた。

 勢いよく、壁を蹴り、爪を立てて、カチュアの方へ飛んで向かった。

 だけど、やはり、剣で止められてしまう。そして、剣で力一杯押して、あたしは、また飛ばされてしまう。

 再び、飛ばされた、あたしは壁や床へと飛ばされる。ぶつかる前に宙で体制を整えて、着地に成功し、直様、カチュアの方へ飛んで行った。それから、この繰り返し。徐々に加速はしているが、それでも、カチュアは、あたしの攻撃を受け止め続けている

 足場に着くたび、ヒビが入ったような音がしすような……気のせいか?

 このまま、続けても、キリがない。あたしは宙で体制を整え、うまく着地した。今度は別の攻撃方法で。

「これならどうだ!?」

 拳に、目に見えるエネルギーを集め凝縮し、相手に叩き込む技、闘技。その闘技をカチュア目掛けて拳を向ける。

 だけど、カチュアはそんな、闘技を素手で受け止めた。

 ガォォォォーーー!!!

 いや、違う。当てた時に、獣の遠吠えのような音がカチュアの拳にも鳴り響いた。

 闘技同士がぶつけ合い、あたしは力で負けて、飛ばされた。勢いがあって、床に転がった。

 ようやく、止まっり、ゆっくりと立ち上がっていった。

「あんたの、それは、まさか闘技か?」 
「よく分からないけど、そーらしいわ~」

 闘技は獣人族の身体能力の高さが、あってこそ扱える技。人間が身体能力の魔術で能力を高めても、使用後はひどい筋肉痛、最悪の場合は肉が引きちぎれてしまうらしい。

 闘技を問題なく使えてしまう。それはつまり。

「……人間らしからぬ匂いがすると思ったが、やはり、あんたは人間ではないようだな」

 始めは勇能力の使い手だと思ったが、素の力のようだ。だけど、獣人族以上の力を持つ人間なんて、まずいない。となると、彼女は特殊体質を持った人間か、もしくは何かしらの亜種。

 その亜種に心当たりがある。会ったことないが。

 あたしの感が当たれば……当たってほしくない。

「わたしはヴァルキュリア族と言うらしいわ~」

 やっぱりか! てか、あっさり、正体明かしたよ。この人。

「え!? 『話していいのか』って、だいじょぶよ~」
「誰と話しているんだ?」
「わたしの中にいる子よ~」
「何言っているんだ?」
「え!? それも『話していいのか』って、だいじょぶよ~」

 一人芝居が始まった。変な子だな。

 それにしとも、ヴァルキュリア族って、本当にいるのか。伝説の女将軍のような容姿に、伝説の亜種の、伝説のコンボだ。ヤバイ。本当の本当に敵じゃなくってよかった。

 でも、好機として、捉えるべきかな? 獣人族同時の演習試合では、獅子としての力が強すぎて、圧勝しすぎ、力の底が把握できないままでいた。これは自分の限界を知るチャンスか?

「正直、驚いたが、あたし達のやることは変わらない。行くぞ!」

 彼女が強いのは納得だ。だけど、確か、ヴァルキュリアの伝承は人間を含めた亜種ごとで伝わり方が違うはず。

  獣人族では戦闘力が高い。ただ、単純に兵器並みの戦闘力の高さを持って、生まれるわけではない。確かに五感が優れているなど、戦いに有利な機関が発達しているのは確か。

 それに加えてスイレンから聞いた話では確か……。成程、通りで、あたしの本心が分かったはずだ。

 全く、力の原料がそれだったら、支配なんてない世の中になっていたのに。なんせ、上に立つ人間の殆どが、カチュアのような、お人好しだから。

「闘技が使えるのは驚いたが、それでも、引けないな」

 あたしは拳全体ではなく、手の平に闘技の燃料となるエネルギーを集めた、そのエネルギーは球体になった。

「本家の力、見せてやるよ。気功弾」

 あたしはエネルギーの球体、「気功弾」をカチュア目掛けて、投げつけた。

 ガォォォォーーー!!!

 カチュアは闘技であたしの気功弾を打ち消した。

「ここまで、いくと、魔術よね~」

 言いたいことはわかる。もはや、闘技は獣人族版魔術と言っていい。エネルギー源の違いはあるが。

「続けていくぜ」

 あたしは連続で気功弾を放つ。

 カチュアは闘気で目の前に現れた気功弾を打ち消した。

「はあ、はあ、はあ」

 化け物か? あたしは息切れしているのに対して、カチュアは息切れをしていない。あたしと同等に闘技を使っていたのに。

「へぇ~、やるわね」
「ありがと~」
「お! 閃いた!」
「どーしたの?」
「歌だ。歌詞を作るのは趣味でね」
「あら~、聴かせて~」
「いいぜ! 戦いながら! いくぜ!」

 あたしは爪の籠手を取り外した。このではないからだ。

 そして、あたしの拳から、火が噴き出てきた。

「あたしは火系の魔術を扱うのよ、まあ、獣人族は魔術が苦手な亜種だが、身体強化が主な魔術だ。そして」

 火のせいで、わかりにくいが、闘技を使うためのエネルギーが拳に凝縮していった。

「魔術の付着と闘技は合わせることができる。いくぞ、歌いながら」

 やる事は変わらない。カチュアとの戦いを楽しむまで。そこにあたしの歌が加わる。

 カチュアはあたしの歌に合わせて、剣を振るっている。

 まるで、ロランス聖国で開催される歌劇の役者見たいだ。リアルだが。

 あちら、こちらで壁や天井、床が「ピキピキ」と音を立てながら、壊れているような。気のせいか?

「おい! 何だんだよ! あれは!」
「やり過ぎだろ!」
「天井が崩れる!!!」
「誰が止めろ!!!」
「だめだ! あの戦いに巻き込まれたら確実に死ぬ」
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