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5章 過去との再会
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湯気をもうもうと上げてぐつぐつと沸騰したスープの中で煮込まれる、たくさんの野菜たち。
大和が持ってきた大量の野菜は、大和の手によって大鍋にこれでもかとたくさん放り込まれ、ぐつぐつとおいしそうに煮えていた。その大鍋たっぷりの野菜スープを、時折味をみながら大和がこれまた大きなしゃもじでかき混ぜる。
それを、先ほどから入れ代わり立ち代わり、興味津々に鼻をひくひくさせながら子どもたちがのぞき込んでいた。
「まだお前らは体が治り切ってないからな。そういう時はゆっくり時間をかけて煮込んでやるとトロットロにやわらかくなってとびきりうまいし、消化にもいいからな」
大和が、にこにこと笑みを浮かべながら子どもたちに話しかける。
子どもたちはと言えば、大和の顔を嬉しそうににこにこと見上げて感嘆の声を上げる。
「こんな野菜どうやって作ったの? 大和兄ちゃんってすげえなぁ」
「あたちもやしゃい、作るー!」
大和のまわりをちょこちょこと駆け回る子どもたちは、皆嬉しそうだ。すっかり人気者になった大和の周りからは、一時も子どもたちが離れようとしない。
もちろんおいしい匂いにつられて、と言えなくもないけれど。
「椿! うちの野菜はな、貴族様のお屋敷にも卸してるんだぜ。味が濃くてうまいって評判なんだ。食ったらきっと驚くぞ! たっぷり作ってやるから、楽しみにしておけよ!」
自慢げな大和がそう言えば、美琴がそれに目を輝かせて反応する。
「ぜひ今度雪園家にも配達してくださいな! 屋敷の皆にもぜひ食べさせてあげたいわ!」
美琴もすっかり大和のことを気に入ったようだった。そしてそれは椿自身も同じだった。
「おうよ! ついでに知り合いの貴族様にも宣伝しといてくれよな。損はさせないからさ!」
「はい! 任せてくださいっ」
大和のその熊のような巨体と明るく屈託のない性格と豪快な笑い声は、周囲を明るくする。まるでさんさんと大地を照らす、あたたかな太陽のように。
思わぬ流行り病ですっかり沈み込んでいた孤児院の空気は、今ではすっかりと明るいものに変わっていた。
大和の作ってくれた大鍋いっぱいの野菜スープは、あっという間にお腹をすかせた子どもたちのお腹に収まった。もちろん椿と美琴、院長たちのお腹にも。
一口それを口に運んだ瞬間に、大和がどんなに誇りを持って生き生きと野菜作りに取り組んでいるのかが分かった。
きっとどの野菜も、誰かのお腹をおいしく満たし幸せにできますようにと願いながら、一生懸命作っているのだろう。毎日汗水をたらして、あたたかい晴れの日も雨の日も、時には嵐のような荒れた日や照りつける過酷な太陽の下でも。
トロトロにやわらかく煮込まれた大和の野菜たちは、どれも幸せな味がした。その味は疲れた体にぐんぐんと染み渡り、そのまま体中を巡り力がみなぎる気がした。
「本当においしかったわ。大和って、野菜だけじゃなく料理も上手なのね」
「そりゃあ百姓だからな。作った野菜をどうやったら皆にもっとおいしく食べてもらえるか、どんな料理ならうんと生かせるかを一緒に宣伝すれば、野菜の売上も変わるってもんさ」
どうやら大和は、野菜作りの才能だけではなく商才もあるらしい。
椿がすっかりたくましく成長したかつての孤児仲間を感心して見つめていると、大和の向かいでじっとその話に聞き入っていた明之が口を挟んだ。
「……なぁ、大和さん。俺さ、将来どんな仕事に就くかまだ悩んでるんだけど。今度農場を見せてもらっちゃだめかな。なんかさ、自分のこの体を使って何かを作り出して誰かに提供するのって、すごいいい仕事だなって」
明之の目がきらきらと輝いていた。
その言葉に、大和は一瞬驚いた様子だったけれどすぐににかっと笑い、うんうんとうなずいた。
「だろ? 大変だけど、おもしろい仕事だぞ。こいこい! いつでもこい! 仕事ならいくらでもあるからな。お前も一緒に働いてみるか!」
かっかっかっと豪快な笑い声を上げる大和の顔は、どこか誇らしそうででも少し照れくさそうで。
「やる! 俺、頑張るよ! 一緒に働かせてくださいっ。俺もこんなすごい野菜作って、どんどん売り込むからさ!」
気づけばすっかり意気投合した二人に、小さな子どもたちがぽかんと口を開けて見ていた。
どうやら明之は、自分の進みたい道の光を見つけたらしい。その顔は生き生きと輝いていて、もうどこにも悲壮感や諦めのような感情は見えない。
大和が運んできてくれたのは、野菜だけではなかった。
椿は大和と再会したことで、自分の今までが決して罪悪感や後ろめたさを隠すためのものではなくて、誰かを幸せにしたいという純粋な思いだったことに気がつくことができた。そして明之は、自分の進むべき道を見つけた。
ずっと望んではいけないと心の中で抑えつけていた欲や思いが、今は自然と湧き上がってくる。もしかしたらそれは、とても人間臭くて時に暴走することもあるものなのかもしれないけれど。でも幸せになりたいと願って生きることは、きっと何よりも大切な欲なのだと、とても自然な感情なのだと、今はわかる。
それを教えてくれた大和に、気づくきっかけをくれた吉乃に、そして何より自分を取り囲むたくさんの愛情に胸が熱くなる椿なのだった。
大和が持ってきた大量の野菜は、大和の手によって大鍋にこれでもかとたくさん放り込まれ、ぐつぐつとおいしそうに煮えていた。その大鍋たっぷりの野菜スープを、時折味をみながら大和がこれまた大きなしゃもじでかき混ぜる。
それを、先ほどから入れ代わり立ち代わり、興味津々に鼻をひくひくさせながら子どもたちがのぞき込んでいた。
「まだお前らは体が治り切ってないからな。そういう時はゆっくり時間をかけて煮込んでやるとトロットロにやわらかくなってとびきりうまいし、消化にもいいからな」
大和が、にこにこと笑みを浮かべながら子どもたちに話しかける。
子どもたちはと言えば、大和の顔を嬉しそうににこにこと見上げて感嘆の声を上げる。
「こんな野菜どうやって作ったの? 大和兄ちゃんってすげえなぁ」
「あたちもやしゃい、作るー!」
大和のまわりをちょこちょこと駆け回る子どもたちは、皆嬉しそうだ。すっかり人気者になった大和の周りからは、一時も子どもたちが離れようとしない。
もちろんおいしい匂いにつられて、と言えなくもないけれど。
「椿! うちの野菜はな、貴族様のお屋敷にも卸してるんだぜ。味が濃くてうまいって評判なんだ。食ったらきっと驚くぞ! たっぷり作ってやるから、楽しみにしておけよ!」
自慢げな大和がそう言えば、美琴がそれに目を輝かせて反応する。
「ぜひ今度雪園家にも配達してくださいな! 屋敷の皆にもぜひ食べさせてあげたいわ!」
美琴もすっかり大和のことを気に入ったようだった。そしてそれは椿自身も同じだった。
「おうよ! ついでに知り合いの貴族様にも宣伝しといてくれよな。損はさせないからさ!」
「はい! 任せてくださいっ」
大和のその熊のような巨体と明るく屈託のない性格と豪快な笑い声は、周囲を明るくする。まるでさんさんと大地を照らす、あたたかな太陽のように。
思わぬ流行り病ですっかり沈み込んでいた孤児院の空気は、今ではすっかりと明るいものに変わっていた。
大和の作ってくれた大鍋いっぱいの野菜スープは、あっという間にお腹をすかせた子どもたちのお腹に収まった。もちろん椿と美琴、院長たちのお腹にも。
一口それを口に運んだ瞬間に、大和がどんなに誇りを持って生き生きと野菜作りに取り組んでいるのかが分かった。
きっとどの野菜も、誰かのお腹をおいしく満たし幸せにできますようにと願いながら、一生懸命作っているのだろう。毎日汗水をたらして、あたたかい晴れの日も雨の日も、時には嵐のような荒れた日や照りつける過酷な太陽の下でも。
トロトロにやわらかく煮込まれた大和の野菜たちは、どれも幸せな味がした。その味は疲れた体にぐんぐんと染み渡り、そのまま体中を巡り力がみなぎる気がした。
「本当においしかったわ。大和って、野菜だけじゃなく料理も上手なのね」
「そりゃあ百姓だからな。作った野菜をどうやったら皆にもっとおいしく食べてもらえるか、どんな料理ならうんと生かせるかを一緒に宣伝すれば、野菜の売上も変わるってもんさ」
どうやら大和は、野菜作りの才能だけではなく商才もあるらしい。
椿がすっかりたくましく成長したかつての孤児仲間を感心して見つめていると、大和の向かいでじっとその話に聞き入っていた明之が口を挟んだ。
「……なぁ、大和さん。俺さ、将来どんな仕事に就くかまだ悩んでるんだけど。今度農場を見せてもらっちゃだめかな。なんかさ、自分のこの体を使って何かを作り出して誰かに提供するのって、すごいいい仕事だなって」
明之の目がきらきらと輝いていた。
その言葉に、大和は一瞬驚いた様子だったけれどすぐににかっと笑い、うんうんとうなずいた。
「だろ? 大変だけど、おもしろい仕事だぞ。こいこい! いつでもこい! 仕事ならいくらでもあるからな。お前も一緒に働いてみるか!」
かっかっかっと豪快な笑い声を上げる大和の顔は、どこか誇らしそうででも少し照れくさそうで。
「やる! 俺、頑張るよ! 一緒に働かせてくださいっ。俺もこんなすごい野菜作って、どんどん売り込むからさ!」
気づけばすっかり意気投合した二人に、小さな子どもたちがぽかんと口を開けて見ていた。
どうやら明之は、自分の進みたい道の光を見つけたらしい。その顔は生き生きと輝いていて、もうどこにも悲壮感や諦めのような感情は見えない。
大和が運んできてくれたのは、野菜だけではなかった。
椿は大和と再会したことで、自分の今までが決して罪悪感や後ろめたさを隠すためのものではなくて、誰かを幸せにしたいという純粋な思いだったことに気がつくことができた。そして明之は、自分の進むべき道を見つけた。
ずっと望んではいけないと心の中で抑えつけていた欲や思いが、今は自然と湧き上がってくる。もしかしたらそれは、とても人間臭くて時に暴走することもあるものなのかもしれないけれど。でも幸せになりたいと願って生きることは、きっと何よりも大切な欲なのだと、とても自然な感情なのだと、今はわかる。
それを教えてくれた大和に、気づくきっかけをくれた吉乃に、そして何より自分を取り囲むたくさんの愛情に胸が熱くなる椿なのだった。
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