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何とも言えぬ後味の悪さに、皆一様に沈黙し場の空気は沈んでいた。そこに、重臣の一人が国王に恭しく声をかけた。
「陛下。用意が整いましてございます」
うむ、と小さく頷き国王がリカルドに視線を移すと、それにリカルドもまた小さく頷き返す。それは、次なる舞台のはじまりの合図だった。
高らかなラッパの音とともに会場の大きな扉がゆっくりと開き、そこから次々と他国の要人たちが華やかな衣装を身にまとい入場してくる。皆何が始まるのかとどよめき、ざわざわとその様子をうかがった。
要人たちが次々に玉座の前に歩み出て、挨拶をするための列を作る。それが一通り終わった後、国王がリカルドを呼んだ。
それに応え、リカルドがゆったりとした足取りで近づくと玉座の前にひざまずく。先ほどまでのざわめきが嘘のように、場がしんと静まり返った。
「今日この時より、我が国の次期王位継承者はこのリカルドとなる。この場を借りて、その命を与えるものとする。異存のある者はあるか! あれば今すぐに申し出よ」
国王の威厳に満ちた厚みのある声が、朗々と響いた。当然のことながら、それに異を唱える者などいようはずもない。
静寂に包まれていた会場から拍手が起こり始め、それは大きなうねりのある波のように広がり、轟音のような大きな拍手とともに満場一致で認められた。
「リカルド、そなたをこの国の未来を担う王子として正式に認める。その日までこの国のため身を粉にして大いに励め。良いな」
リカルドが恭しく首を垂れ、胸に手を当て忠誠を誓った。
「そして伯爵家長女、フローラ。ここへ」
続いて呼び出されたフローラがリカルドの少し後ろに控えると、リカルドが優雅な仕草で立ち上がりその細く小さな手を取った。
「フローラ、あなたに正式に婚約を申し込みたい。幼い頃より私はあなたを妻にしたいとずっと願ってきた。どうか私の手を取り、ともにこの国の未来を支えてはくれないだろうか」
リカルドの甘い表情をにじませた真摯なその姿に、フローラの頬が染まる。まだ恋など知らぬ幼い頃、初めてその手を握ったその瞬間に、フローラもまた唯一の人だと感じていたのだ。とうに返事は決まっていた。
フローラは、輝くばかりの笑みを浮かべて片足を引き頭を垂れた。
「謹んでお受けいたします。恥ずかしくないよう、この生涯を賭してお支えすることを誓います。リカルド王子殿下」
湧き上がる大歓声と拍手が、渦のように会場を包み込んだ。
「さあ! これからこの場はこの国の未来を祝う宴の席となる。皆存分に楽しんでいくがよい」
その一声で、楽隊が楽器を手に取り一斉に軽やかな音楽を奏で出す。
「フローラ。さぁ手を」
リカルドに誘われて、フローラは少し恥ずかしそうにけれど嬉しそうに頬を染めて中央に歩み出る。二人は観衆のあたたかい視線に見つめられながら、くるりくるりと軽やかな動きで踊り出す。
「いやぁ、この先もどうやら安泰なようですな。憂慮を見事取り払ったその手腕、見事でございました。今後とも我が国とも末永くお付き合い願いたいものですな」
「誠に。実に鮮やかでございました。我が国ともなにとぞ懇意に願います」
各国の要人たちから似たような言葉が飛び出し、国王はその胸のわずかに走る痛みを覆い隠し威厳のある表情で頷いた。
いつの世も、国が傾けば民が犠牲になる。今回の断罪は、隣国との政治問題が絡む事態にまで進んでしまったために、なんとしても隣国との悪しきつながりなどないことを各国に証明し、この国の未来が盤石であることを各国に示す必要があった。そのために痛みを伴う結果にはなったが、それも国を思えば致し方ない。
国王の視線の先で、未来の国王とその王妃が幸せそうに笑う。あの二人ならばきっとこの国を安寧に守り続けてくれるに違いないと、国王は安堵する。
一瞬も視線を外すことなく熱い視線で見つめ合うリカルドとフローラを、ミルドレッドがうっとりと夢を見るような表情で見つめる。そこに一人の青年が近づき、声をかけた。
「ミルドレッド嬢」
振り向いたミルドレッドの前に立っていたのは、すらりとした長身の銀髪の青年だった。その身なりからすぐに隣国の第二王子と気づき、ミルドレッドは慌てて腰を折った。
「はじめまして。どうか私と一曲踊っていただけませんか?」
甘く微笑まれ、ミルドレッドの顔が赤く染まった。まるで夢を見るような表情で相手を見つめたままホールへと手を引かれ、ダンスの輪に加わるとくるりくるりと踊り出す。
気づけばリカルドとフローラが、隣で踊りながらミルドレッドと隣国の第二王子に笑顔を向けていた。
「フローラお姉様!」
ミルドレッドがはにかみながら、弾んだ声でフローラに呼びかける。
「ミルドレッド。実はこの男はね、君の絵姿を見て以来ずっと君に恋焦がれていたんだよ。やっと君に会えるとそれはもううるさくて大変だったんだ。少し抜けたところもあるがいい男だし、結婚相手としてお薦めするよ」
リカルドがそう言って、からかうような表情を浮かべ笑った。
「リカルド、余計なことを言わないでくれ。本気なんだぞ」
王子が慌てたようにリカルドを制するも、その顔は赤い。それに釣られるようにミルドレッドの顔もまた真っ赤に染まる。照れ合う初々しい二人に、フローラとリカルドが邪魔をしないようにとまた離れていく。
「妹の婚礼姿も、そう遠い日ではなさそうね」
長く続いた重い役目から解放され、晴れやかな顔でフローラが笑う。
「私としてはぜひその前に、君と幸せになりたいな。私も、この日をもうずいぶん待ち焦がれていたからね」
心からの愛情をその目に乗せて熱く見つめられ、フローラは目を潤ませうなずく。
その夜、国の未来を祝う宴は遅くまで続いた。音楽が軽やかに鳴り響き、いつまでも明るい表情と笑い声とがあふれていた。
「陛下。用意が整いましてございます」
うむ、と小さく頷き国王がリカルドに視線を移すと、それにリカルドもまた小さく頷き返す。それは、次なる舞台のはじまりの合図だった。
高らかなラッパの音とともに会場の大きな扉がゆっくりと開き、そこから次々と他国の要人たちが華やかな衣装を身にまとい入場してくる。皆何が始まるのかとどよめき、ざわざわとその様子をうかがった。
要人たちが次々に玉座の前に歩み出て、挨拶をするための列を作る。それが一通り終わった後、国王がリカルドを呼んだ。
それに応え、リカルドがゆったりとした足取りで近づくと玉座の前にひざまずく。先ほどまでのざわめきが嘘のように、場がしんと静まり返った。
「今日この時より、我が国の次期王位継承者はこのリカルドとなる。この場を借りて、その命を与えるものとする。異存のある者はあるか! あれば今すぐに申し出よ」
国王の威厳に満ちた厚みのある声が、朗々と響いた。当然のことながら、それに異を唱える者などいようはずもない。
静寂に包まれていた会場から拍手が起こり始め、それは大きなうねりのある波のように広がり、轟音のような大きな拍手とともに満場一致で認められた。
「リカルド、そなたをこの国の未来を担う王子として正式に認める。その日までこの国のため身を粉にして大いに励め。良いな」
リカルドが恭しく首を垂れ、胸に手を当て忠誠を誓った。
「そして伯爵家長女、フローラ。ここへ」
続いて呼び出されたフローラがリカルドの少し後ろに控えると、リカルドが優雅な仕草で立ち上がりその細く小さな手を取った。
「フローラ、あなたに正式に婚約を申し込みたい。幼い頃より私はあなたを妻にしたいとずっと願ってきた。どうか私の手を取り、ともにこの国の未来を支えてはくれないだろうか」
リカルドの甘い表情をにじませた真摯なその姿に、フローラの頬が染まる。まだ恋など知らぬ幼い頃、初めてその手を握ったその瞬間に、フローラもまた唯一の人だと感じていたのだ。とうに返事は決まっていた。
フローラは、輝くばかりの笑みを浮かべて片足を引き頭を垂れた。
「謹んでお受けいたします。恥ずかしくないよう、この生涯を賭してお支えすることを誓います。リカルド王子殿下」
湧き上がる大歓声と拍手が、渦のように会場を包み込んだ。
「さあ! これからこの場はこの国の未来を祝う宴の席となる。皆存分に楽しんでいくがよい」
その一声で、楽隊が楽器を手に取り一斉に軽やかな音楽を奏で出す。
「フローラ。さぁ手を」
リカルドに誘われて、フローラは少し恥ずかしそうにけれど嬉しそうに頬を染めて中央に歩み出る。二人は観衆のあたたかい視線に見つめられながら、くるりくるりと軽やかな動きで踊り出す。
「いやぁ、この先もどうやら安泰なようですな。憂慮を見事取り払ったその手腕、見事でございました。今後とも我が国とも末永くお付き合い願いたいものですな」
「誠に。実に鮮やかでございました。我が国ともなにとぞ懇意に願います」
各国の要人たちから似たような言葉が飛び出し、国王はその胸のわずかに走る痛みを覆い隠し威厳のある表情で頷いた。
いつの世も、国が傾けば民が犠牲になる。今回の断罪は、隣国との政治問題が絡む事態にまで進んでしまったために、なんとしても隣国との悪しきつながりなどないことを各国に証明し、この国の未来が盤石であることを各国に示す必要があった。そのために痛みを伴う結果にはなったが、それも国を思えば致し方ない。
国王の視線の先で、未来の国王とその王妃が幸せそうに笑う。あの二人ならばきっとこの国を安寧に守り続けてくれるに違いないと、国王は安堵する。
一瞬も視線を外すことなく熱い視線で見つめ合うリカルドとフローラを、ミルドレッドがうっとりと夢を見るような表情で見つめる。そこに一人の青年が近づき、声をかけた。
「ミルドレッド嬢」
振り向いたミルドレッドの前に立っていたのは、すらりとした長身の銀髪の青年だった。その身なりからすぐに隣国の第二王子と気づき、ミルドレッドは慌てて腰を折った。
「はじめまして。どうか私と一曲踊っていただけませんか?」
甘く微笑まれ、ミルドレッドの顔が赤く染まった。まるで夢を見るような表情で相手を見つめたままホールへと手を引かれ、ダンスの輪に加わるとくるりくるりと踊り出す。
気づけばリカルドとフローラが、隣で踊りながらミルドレッドと隣国の第二王子に笑顔を向けていた。
「フローラお姉様!」
ミルドレッドがはにかみながら、弾んだ声でフローラに呼びかける。
「ミルドレッド。実はこの男はね、君の絵姿を見て以来ずっと君に恋焦がれていたんだよ。やっと君に会えるとそれはもううるさくて大変だったんだ。少し抜けたところもあるがいい男だし、結婚相手としてお薦めするよ」
リカルドがそう言って、からかうような表情を浮かべ笑った。
「リカルド、余計なことを言わないでくれ。本気なんだぞ」
王子が慌てたようにリカルドを制するも、その顔は赤い。それに釣られるようにミルドレッドの顔もまた真っ赤に染まる。照れ合う初々しい二人に、フローラとリカルドが邪魔をしないようにとまた離れていく。
「妹の婚礼姿も、そう遠い日ではなさそうね」
長く続いた重い役目から解放され、晴れやかな顔でフローラが笑う。
「私としてはぜひその前に、君と幸せになりたいな。私も、この日をもうずいぶん待ち焦がれていたからね」
心からの愛情をその目に乗せて熱く見つめられ、フローラは目を潤ませうなずく。
その夜、国の未来を祝う宴は遅くまで続いた。音楽が軽やかに鳴り響き、いつまでも明るい表情と笑い声とがあふれていた。
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