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しおりを挟むけれどそんな平穏な日々は長くは続かなかった。
「一体どういうことなんですのっ!? どうして私がリューイッド王子と恋仲だなんてっ!?」
思いもよらぬ噂が社交界にかけ巡っていることを知り、フラウベルはその場に崩折れまるで子どものように泣きじゃくった。
「私があのリューイッド王子と実は長年想い合っていて、それをヴィアルド様が引き裂いただなんて……!! そんなこと、あるはずないのに!」
フラウベルはむせび泣いた。
フラウベルにとっては、幼い頃から行き慣れた王宮はもはや遊び場同然だ。なんなら小さい頃は国王陛下の膝の上に乗り、あごひげを引っ張って遊んでいたくらい。
当然その息子であるリューイッド王子のこともよく見知っていたし、今では同じ趣味を持つ良き友人だった。
「リューイッド王子はそりゃあ男性には違いないけど、ただのお友だちだわ!! なのに恋仲だなんて、そんなことあるはずが……!!」
王子と言うにはおっとり過ぎる心優しいリューイッドとは、なぜか恋愛小説の好みが良く合った。まさか王子が恋愛小説を読むなんて、とはじめはびっくりもしたけれど、好きなものに性別も身分も関係ない。なのにまさかその王子との恋仲を疑われるなんて。
「どうしよう……。もしこの噂をヴィアルド様が鵜呑みにしてしまったら……? 王宮に出入りして王子と頻繁に会っているのは事実だし、もし勘違いされたら……!!」
血の気が引いた顔でふらり、とよろめいた。
なんといっても相手は王族、いくら天才と謳われるヴィアルドだって身を引く可能性は十分にある。もしそんなことになったら、せっかく叶ったこの夢のような婚約話が立ち消えてしまう。
ガバリッ!!
フラウベルは勢いよく立ち上がった。
「私、覚悟を決めましたっ!! 今からヴィアルド様の元へいってきますっ!! そしてこの噂が根も葉もないものだということをはっきりとお伝えしてきますっ」
「フラウベル!? しかしもう日も暮れかけているし、せめて明日にしてはどうかね……??」
引き止める父の声には、きっと言っても無駄だろうというあきらめがにじんでいた。フラウベルはこういう子だ。思い立ったら即行動に出る潔さを持っているのだ。外見からはとてもそんなふうには見えないが。
「大丈夫です。リルに乗っていきますもの。あの子の脚なら研究所なんてあっという間に着きますし、万が一不届き者に襲われるようなことになっても逃げ切れます。もちろん護身用の武器も忘れずに持参しますわ!」
「そうか……。うん……、なら気をつけていっておいで……。しかし……くれぐれも気をつけるんだぞ!? フラウベル!!」
心配そうな父の声を背に聞きながらひらりと愛馬リラの背にまたがり、フラウベルは屋敷を飛び出したのだった。その美しい髪を風になびかせて颯爽と、ヴィアルドの元へ。
そして研究所まであとわずか、というその時。
「あれは……?? なんだか様子がおかしいわ……」
もうじき到着するはずの研究所の上空に、見たこともない暗雲が重く垂れ込めていた。
今にも世界の終わりが訪れようとしているかの如く禍々しいその光景にざわり、と胸が騒いだ。
もしやヴィアルドの身に何か起きつつあるのかも知れない。
そんな予感にフラウベルは不安を感じながら、愛馬を走らせるのだった。
その頃、国立魔防研究所ではとんでもない事象が起きていた。
空から垂れ込めるおどろおどろしい暗雲。そこから吹き下ろすすさまじい暴風。
ありとあらゆるものが吹き飛ばされ、研究所の一帯の簡素な造りの小屋などはすでに全壊状態。
なんとかその被害から命からがら逃れた者たちは、思った。
これは一体何の天変地異か。それともまさか他国からの何らかの攻撃なのか、と。
けれど人々は知らなかった。その元凶はこの研究所の最上階、つまりヴィアルドの研究室にあることを――。
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