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1章 春
3話
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作業の途中から十文字も加わり、朝早くから懸命に作業をしていたので、昼前には倉庫の片づけがおわった。
午後になるときちんと整理された倉庫に、ドサドサドサッと大量の本や参考書が詰め込まれた。片づけが終わって数時間も経たずにこう詰め込まれると、片づけ損だという気持ちになる。僕と十文字は予約の入っているお客用と大学への納品用に本の仕分けをした。
僕は大学一年生の秋からこの書店で働きはじめたので、この作業は二度目となる。
「だいたい片付いたな。ちょっと休憩するか」
十文字書店の店長、十文(じゅうもん)字(じ)秀(ひで)隆(たか)はそう言ってペットボトルを渡してくる。長く伸ばした金髪をオールバックにして後ろで縛っており、肌は浅黒い。身長が高く大柄なので、見た目はまるでチンピラである。
「羽衣ちゃんは、学校に行ったんですか?」
片づけの途中で羽衣ちゃんの、いってきまーす、という声が聞こえた。平日なので、学校に行ったのだろうと思っていた。
「いや、今日は学校の建立記念日なんだ。友達の家に行くって出かけたよ。最近友達とあそんでばっかりでさ、おれなんか相手にしてくれないのよ」
「店長が忙しいから、気をつかっているんじゃないですか?」
十文字は、愛娘の羽衣ちゃんをとても可愛がっている。
羽衣ちゃんが生まれたころに彼女の母親、つまり十文字の奥さんは病気で亡くなったそうだ。僕がこの書店にはいって半年ほど経ったころ、十文字が話してくれた。
きっと十文字は、羽衣ちゃんにだけは母親がいないことでさみしい思いや悲しい気持ちを感じてほしくないのだ。だからこそ、十文字は羽衣ちゃんをとても可愛がっているのだと僕は思っている。
可愛がっているというか、溺愛している・・・とてつもなく。
「まさか、男じゃないだろうな」
「小学三年生ですよ」
「羽衣は可愛い。どこからどう見ても可愛すぎるだろ。野蛮な男どもが羽衣を見て好きにならないはずがないんだ」
六藤知らないのか、最近の子どもはマセてるらしいぞ、と十文字はまくしたてる。僕は彼が真剣な顔で語っている姿をみて、また始まった、とため息をつく。
「心配しすぎじゃないですか?」
「なんだと。娘を心配し、娘を愛する父親がいて何が悪い」
「娘の恋愛に首をつっこもうとするのがよくないって言っているんです」
「なに!まさか羽衣は恋をしているのか。六藤、貴様なにを知っている!」
「そういう話じゃありません!」
十文字がクワッと目を開き詰め寄ってくるので、思わず大きな声で反論する。もし親バカ全国大会があるのなら、彼はきっと良い所まで上りつめるだろう。
午後になるときちんと整理された倉庫に、ドサドサドサッと大量の本や参考書が詰め込まれた。片づけが終わって数時間も経たずにこう詰め込まれると、片づけ損だという気持ちになる。僕と十文字は予約の入っているお客用と大学への納品用に本の仕分けをした。
僕は大学一年生の秋からこの書店で働きはじめたので、この作業は二度目となる。
「だいたい片付いたな。ちょっと休憩するか」
十文字書店の店長、十文(じゅうもん)字(じ)秀(ひで)隆(たか)はそう言ってペットボトルを渡してくる。長く伸ばした金髪をオールバックにして後ろで縛っており、肌は浅黒い。身長が高く大柄なので、見た目はまるでチンピラである。
「羽衣ちゃんは、学校に行ったんですか?」
片づけの途中で羽衣ちゃんの、いってきまーす、という声が聞こえた。平日なので、学校に行ったのだろうと思っていた。
「いや、今日は学校の建立記念日なんだ。友達の家に行くって出かけたよ。最近友達とあそんでばっかりでさ、おれなんか相手にしてくれないのよ」
「店長が忙しいから、気をつかっているんじゃないですか?」
十文字は、愛娘の羽衣ちゃんをとても可愛がっている。
羽衣ちゃんが生まれたころに彼女の母親、つまり十文字の奥さんは病気で亡くなったそうだ。僕がこの書店にはいって半年ほど経ったころ、十文字が話してくれた。
きっと十文字は、羽衣ちゃんにだけは母親がいないことでさみしい思いや悲しい気持ちを感じてほしくないのだ。だからこそ、十文字は羽衣ちゃんをとても可愛がっているのだと僕は思っている。
可愛がっているというか、溺愛している・・・とてつもなく。
「まさか、男じゃないだろうな」
「小学三年生ですよ」
「羽衣は可愛い。どこからどう見ても可愛すぎるだろ。野蛮な男どもが羽衣を見て好きにならないはずがないんだ」
六藤知らないのか、最近の子どもはマセてるらしいぞ、と十文字はまくしたてる。僕は彼が真剣な顔で語っている姿をみて、また始まった、とため息をつく。
「心配しすぎじゃないですか?」
「なんだと。娘を心配し、娘を愛する父親がいて何が悪い」
「娘の恋愛に首をつっこもうとするのがよくないって言っているんです」
「なに!まさか羽衣は恋をしているのか。六藤、貴様なにを知っている!」
「そういう話じゃありません!」
十文字がクワッと目を開き詰め寄ってくるので、思わず大きな声で反論する。もし親バカ全国大会があるのなら、彼はきっと良い所まで上りつめるだろう。
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