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6話
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「回りくどい話はなしにして、結論から言うことにします。わたしとあなたは、この世界の住人ではありません。」彼女はまっすぐに酒飲みの目を見つめてそう言った。酒飲みは青く光る瞳が真剣に馬鹿げたことを言うので、少したじろいだ。
ワタシトアナタハコノセカイノジュウニンデハアリマセン。
酒飲みの脳内でサリーが言った言葉がカタカナ表記で変換され、酒飲みの頭の中で上手く解釈することができない。
「サリーさん、急になにを言っているんだ。俺はこの国に税金を納めて、保険料を支払って生活している立派な国民だよ。ほら、住所だってある。」酒飲みはズボンのポケットから財布を取り出し、健康保険証を見せる。顔が笑っているので、どうやら酒飲みはサリーが言ったことを冗談だと判断しているようだ。サリーは表情を変えないまま、話をつづける。
「“国”の話ではなく、“世界”の話です。この星には無数の世界が並列して存在しています。獣や魚、虫、モノ、そして“神”の世界。私たちは神の第2世界である“妖精界”の住人です。」
国。世界。妖精界。
急にアカデミックな単語と見知らぬ単語が可愛らしいサリーの口元から発せられたことが、何だか奇妙に思われた。酒飲みは先ほどまでとは別の人間と話しているように感じる。自分自身を見てくれていたという喜びから一転、戸惑いの気持ちが酒飲みの心に広がっていく。
「妖精?妖精というのは西欧諸国で作り上げられた空想上の生物じゃないか。小説や映画にもよく出てきている。」
「作り上げられたのではなく、実際にこの世界に存在するのです。私たちは人間たちの言うところの“神”の一種ですが、神が単独であらゆる世界の住人と会話できるのと違って私達にはそれができません。私はユキの守護妖精としてこの世界に留まることが出来ています。ちなみに私もこの国の健康保険証はもっていますよ、偽造ですが。」サリーはコートのポケットからカードを取り出すと、酒飲みの前でひらひらと振ってみせた。
「・・・おれには到底信じられない話だ。百歩譲ってあんたが妖精だということを認めるとしよう。だが俺には両親がいて、何十年も人間として生きてきた記憶がある。今更そんなことを言われても、受け入れられるものじゃないぜ。」
実際のところを言えば、酒飲みはサリーのことも本物の妖精だと思っているわけではなかった。会話下手なじぶんのために作り話で場を盛り上げてくれていると、半ば本気で思っていた。
「もちろん急にこんなことを言っても信じてもらえるとは思っていません。なのでこの場所に来てもらったのです。ああ、あのベンチに座りましょうか。」サリーが緑色に塗装された品の良いベンチを指さす。ちょうど歩き疲れてきたところだったので、酒飲みも賛同して一緒に腰かける。
「ユキさんは、あんたが妖精だということを知っているのかい?」サリーの話は突飛だったが、公園を一周した時点で酒飲みが提供できる話題はとっくに尽きてしまっていたので、素直に彼女の話を聞くことにした。
「初めて会った頃から、私はユキの“しもべ妖精”です。神のような力を持たない妖精が人間界に来るときは、人間の“しもべ”になる必要があるのです。どの人間のしもべになるかは選ぶことは出来ませんが、美しい心をもつ12歳以下の子供の元に召喚されることが決まっています。」
「じゃあ、“ニュンフェ”でユキさんが話していたサリーさんとの出会いというのは・・・」
「そうです。人間の姿に変身し、私は妖精界から人間界であるユキの部屋に召喚されました。大抵の人間の子供は驚いてしまって説明がとても大変だと聞いていたのですが、ユキは初めから興味津々で話を聞いてくれて、不安で泣きながら説明するわたしの存在をすぐに認めてくれました。」サリーはその時のことを思い出すかのように目を細め、夕陽を見つめている。
「それから私は、ユキのしもべ妖精として彼女と一緒に生活をしてきました。妖精界と人間界では時の流れが違っていて、人間界の1年は妖精界の1日となります。私がこの世界にきてから15年が経つので、妖精界では15日の日々が過ぎています。」
「そうなのかい。だが、あんたはどうしてこの世界にやってきたんだ?」酒飲みは夕陽に照らされたサリーの横顔を眺めながら問いかける。彼女は酒飲みの顔をじっと見つめた後、少し瞼を閉じてからこう言う。
「あなたに会うためです。」彼女の顔は真剣そのもので、その表情の隅にはどこか暗い光があった。
ワタシトアナタハコノセカイノジュウニンデハアリマセン。
酒飲みの脳内でサリーが言った言葉がカタカナ表記で変換され、酒飲みの頭の中で上手く解釈することができない。
「サリーさん、急になにを言っているんだ。俺はこの国に税金を納めて、保険料を支払って生活している立派な国民だよ。ほら、住所だってある。」酒飲みはズボンのポケットから財布を取り出し、健康保険証を見せる。顔が笑っているので、どうやら酒飲みはサリーが言ったことを冗談だと判断しているようだ。サリーは表情を変えないまま、話をつづける。
「“国”の話ではなく、“世界”の話です。この星には無数の世界が並列して存在しています。獣や魚、虫、モノ、そして“神”の世界。私たちは神の第2世界である“妖精界”の住人です。」
国。世界。妖精界。
急にアカデミックな単語と見知らぬ単語が可愛らしいサリーの口元から発せられたことが、何だか奇妙に思われた。酒飲みは先ほどまでとは別の人間と話しているように感じる。自分自身を見てくれていたという喜びから一転、戸惑いの気持ちが酒飲みの心に広がっていく。
「妖精?妖精というのは西欧諸国で作り上げられた空想上の生物じゃないか。小説や映画にもよく出てきている。」
「作り上げられたのではなく、実際にこの世界に存在するのです。私たちは人間たちの言うところの“神”の一種ですが、神が単独であらゆる世界の住人と会話できるのと違って私達にはそれができません。私はユキの守護妖精としてこの世界に留まることが出来ています。ちなみに私もこの国の健康保険証はもっていますよ、偽造ですが。」サリーはコートのポケットからカードを取り出すと、酒飲みの前でひらひらと振ってみせた。
「・・・おれには到底信じられない話だ。百歩譲ってあんたが妖精だということを認めるとしよう。だが俺には両親がいて、何十年も人間として生きてきた記憶がある。今更そんなことを言われても、受け入れられるものじゃないぜ。」
実際のところを言えば、酒飲みはサリーのことも本物の妖精だと思っているわけではなかった。会話下手なじぶんのために作り話で場を盛り上げてくれていると、半ば本気で思っていた。
「もちろん急にこんなことを言っても信じてもらえるとは思っていません。なのでこの場所に来てもらったのです。ああ、あのベンチに座りましょうか。」サリーが緑色に塗装された品の良いベンチを指さす。ちょうど歩き疲れてきたところだったので、酒飲みも賛同して一緒に腰かける。
「ユキさんは、あんたが妖精だということを知っているのかい?」サリーの話は突飛だったが、公園を一周した時点で酒飲みが提供できる話題はとっくに尽きてしまっていたので、素直に彼女の話を聞くことにした。
「初めて会った頃から、私はユキの“しもべ妖精”です。神のような力を持たない妖精が人間界に来るときは、人間の“しもべ”になる必要があるのです。どの人間のしもべになるかは選ぶことは出来ませんが、美しい心をもつ12歳以下の子供の元に召喚されることが決まっています。」
「じゃあ、“ニュンフェ”でユキさんが話していたサリーさんとの出会いというのは・・・」
「そうです。人間の姿に変身し、私は妖精界から人間界であるユキの部屋に召喚されました。大抵の人間の子供は驚いてしまって説明がとても大変だと聞いていたのですが、ユキは初めから興味津々で話を聞いてくれて、不安で泣きながら説明するわたしの存在をすぐに認めてくれました。」サリーはその時のことを思い出すかのように目を細め、夕陽を見つめている。
「それから私は、ユキのしもべ妖精として彼女と一緒に生活をしてきました。妖精界と人間界では時の流れが違っていて、人間界の1年は妖精界の1日となります。私がこの世界にきてから15年が経つので、妖精界では15日の日々が過ぎています。」
「そうなのかい。だが、あんたはどうしてこの世界にやってきたんだ?」酒飲みは夕陽に照らされたサリーの横顔を眺めながら問いかける。彼女は酒飲みの顔をじっと見つめた後、少し瞼を閉じてからこう言う。
「あなたに会うためです。」彼女の顔は真剣そのもので、その表情の隅にはどこか暗い光があった。
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