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数日後、酒飲みは駅にきていた。
酒飲みは駅という場所が好きだった。多くの人間が行き交い、出会いや別れを繰り返すその場所には、多くの物語があるものだ。
駅前のベンチに腰掛けて辺りを見ていると、それらを観察し、想像することができるのだ。スーツを着たあの若者は就職活動中だろうか、緊張した顔でスタスタと歩いていく。コンビニエンスストアから出てきた家族はテーマパークにでも行くのだろうか、全員が同じセーターを着て仲良く笑っている。
改札前の若いカップルは遠距離恋愛中なのだろうか、周りを気にする様子もなく強く抱きしめあい、その後手を振りあう。まるで何冊もの本を読むように、酒飲みは長い時間人々の物語を想像していた。客観的に想像した彼らの物語はそれなりに山あり谷ありではあるものの概ね幸せな結末を迎えていたのは、彼自身の性格によるものだろう。
「すみません、お待たせしました」
空想の世界に入っていた酒飲みは、隣に座った女性の存在に気づきもしなかった。声をかけられてようやく現実に引き戻される。
「わっ驚いた。いつからそこに」
「少し前からです。いつ気づいてくれるのかな、て思っていました」そう言って彼女は金色の髪を揺らしてクスクスと笑う。
「申し訳ない、サリーさん。椅子に腰かけて人々を見ていると、どうも自分の世界に入ってしまうみたいで」酒飲みは頭を掻きながら何度も謝る。
「いいんです。素敵なことを考えているんだろうなと思って、ずっと横顔を眺めていました。」
「何もそんな・・・。」と酒飲みは口ごもる。
サリーはこの間会ったときよりずっと親しげな笑顔を見せる。今どきの若い女性というのは、みんな慣れるのが早い生き物なのだろうか、と彼は思う。サリーは白のチェスターコートに緑色のマフラーを首に巻き、細身のジーンズは全体のシルエットを綺麗に見せている。
公園を歩く予定だからなのか、足元を見るとラフなスニーカーを履いていて、金色の髪が服装によく似合っている。顔立ちの清楚さからか、明るい服装をしているにも関わらず全体として落ち着いた印象に見えた。
「もう少しここで休みますか?」サリーは首を傾げ、酒飲みの目を見つめて言う。ユキもそうだが、彼女たちはよく人の顔を覗き込むようにして話をしてくる。透き通るような白い肌と海のようなブルーの瞳が美しい。目以外の全てのパーツが小さく、触れると壊れてしまいそうな儚さを感じる。
「いや、行きましょう。こんなところで話し込んでいては風邪を引いてしまいます。」酒飲みは彼女の瞳をずっと見つめていたいという思いに駆られたものの、頭を振って立ち上がった。
「ええ、分かりました。」
二人はマスターが組んでくれたプラン通り、公園へ向かって並んで歩き出す。
酒飲みは駅という場所が好きだった。多くの人間が行き交い、出会いや別れを繰り返すその場所には、多くの物語があるものだ。
駅前のベンチに腰掛けて辺りを見ていると、それらを観察し、想像することができるのだ。スーツを着たあの若者は就職活動中だろうか、緊張した顔でスタスタと歩いていく。コンビニエンスストアから出てきた家族はテーマパークにでも行くのだろうか、全員が同じセーターを着て仲良く笑っている。
改札前の若いカップルは遠距離恋愛中なのだろうか、周りを気にする様子もなく強く抱きしめあい、その後手を振りあう。まるで何冊もの本を読むように、酒飲みは長い時間人々の物語を想像していた。客観的に想像した彼らの物語はそれなりに山あり谷ありではあるものの概ね幸せな結末を迎えていたのは、彼自身の性格によるものだろう。
「すみません、お待たせしました」
空想の世界に入っていた酒飲みは、隣に座った女性の存在に気づきもしなかった。声をかけられてようやく現実に引き戻される。
「わっ驚いた。いつからそこに」
「少し前からです。いつ気づいてくれるのかな、て思っていました」そう言って彼女は金色の髪を揺らしてクスクスと笑う。
「申し訳ない、サリーさん。椅子に腰かけて人々を見ていると、どうも自分の世界に入ってしまうみたいで」酒飲みは頭を掻きながら何度も謝る。
「いいんです。素敵なことを考えているんだろうなと思って、ずっと横顔を眺めていました。」
「何もそんな・・・。」と酒飲みは口ごもる。
サリーはこの間会ったときよりずっと親しげな笑顔を見せる。今どきの若い女性というのは、みんな慣れるのが早い生き物なのだろうか、と彼は思う。サリーは白のチェスターコートに緑色のマフラーを首に巻き、細身のジーンズは全体のシルエットを綺麗に見せている。
公園を歩く予定だからなのか、足元を見るとラフなスニーカーを履いていて、金色の髪が服装によく似合っている。顔立ちの清楚さからか、明るい服装をしているにも関わらず全体として落ち着いた印象に見えた。
「もう少しここで休みますか?」サリーは首を傾げ、酒飲みの目を見つめて言う。ユキもそうだが、彼女たちはよく人の顔を覗き込むようにして話をしてくる。透き通るような白い肌と海のようなブルーの瞳が美しい。目以外の全てのパーツが小さく、触れると壊れてしまいそうな儚さを感じる。
「いや、行きましょう。こんなところで話し込んでいては風邪を引いてしまいます。」酒飲みは彼女の瞳をずっと見つめていたいという思いに駆られたものの、頭を振って立ち上がった。
「ええ、分かりました。」
二人はマスターが組んでくれたプラン通り、公園へ向かって並んで歩き出す。
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