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第16話 『忍者 VS 勇者』
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◆
勇者ユッカは驚いていた。突如、オークの背後より振るわれた白刃。おぞましいほどに殺気の込められたそれが喉元に迫り、思わず飛び退って躱してみせた。しかし、正対する忍びの手に握られているのは僅か5寸ばかりの手裏剣ではないか。
それは、すなわち、その短い間合いに入るまで存在を感知することすらできなかったということだ。そして、その薄弱な武器を持ってしてユッカを引き下がらせるほどの殺気を込められるほどの手練れ。一筋縄でいかない相手であることは明らかだ。
「一歩足らぬな」
ユッカはそう独り言ちると、更に一歩後ろへ引き下がる。互いに握るは短刀同士と言っても、それでもユッカの獲物の方が間合いはとれる。ならば、自身の有利な間合いにという算段であった。
「貴方は、いつぞやの変態……私に助太刀をすると言いました?」
突如、自身を庇うかのように剣を振るったガジュマルにトックリは疑問を抱きつつも「助太刀する」と言ったその言葉に偽りがあるようには思えなかった。なんら根拠はないが、獣の第六感がそう告げるのだ。
「お主達は、姫に良くしてくれているからな」
「姫に所縁ある者でしたか……」
トックリは、膝をつき体を起こす。しかし、全力を出し切ったためだろうか膝が震え立ち上がるには至らなかった。
「たった一人で勇者に立ち向かうなど愚かにもほどがあるぞ。それに、ワシの見立てではお主は中ボスであろう。そのような立場にある者が、何故このように前線におるのだ」
「兵はみな我が主の命で下がっています。しかし、勇者をペディランサス様の前に立たせるわけにはいかぬのです」
「なんだ、新たな通達を知らぬのか?」
トックリの頭上に疑問符が浮かぶ。
「おおい、そろそろ再開せんか」
しびれを切らした、ユッカが二人の会話に割って入ってきた。と、ほぼ同時にガジュマルの耳がピクリと動く。そして、おもむろにその視線を勇者から外しトックリへと移した。
「ほれ、お味方がやってきたぞ」
乱雑に入り混じった音と振動が、多くの魔物がいまここに殺到しつつあることを告げていた。ペディランサスの勇者撃退命令によりダンジョン内の魔物たちが一斉に動き出したのだ。事情がわからず、戸惑うトックリと対象に勇者ユッカは焦りを隠そうともしなかった。
「謀ったか、よもや、空城の計をしかけるとは! いや、魔王城一の知将と呼ばれるドラゴンが治めるダンジョン。単独で入り込むのは浅はかであったか」
ユッカは、短刀を鞘に納めると名残惜しそうに二人を一瞥した。
「次は、必ずその首落としてくれる。そちらの忍びも、覚悟しておけ!」
そう言い残し、尋常ならざる速度で駆けだしたユッカをトックリとガジュマルはただただ見守った。
「なんとかなったな……剣を交えておればワシもどうなっておったか」
「この借りは必ず返します」
ガジュマルの差し伸べた手を、トックリががしりと掴む。一体の魔物と、一人の男が種族を超えた友情が芽生えた瞬間であった。
「勇者はここかあ!!!」
「あ」
押っ取り刀で駆け付けた料理長サイクロプス《ブルーアイ》の巨体が、ガジュマルへと突き刺さる。ガジュマルの瞬発力であれば、容易に躱せたであろうその体当たり。トックリと交わした握手が、命取りとなった。
「ぐえ」
カエルが潰れたような声を漏らしたのが最期、ガジュマルはブルーアイの巨体に押しつぶされた。その様子を、黙ってみていたトックリは僅かな罪悪感を抱くも「まあ、こいつも侵入者だしいいか」と思い改めたのであった。
勇者ユッカは驚いていた。突如、オークの背後より振るわれた白刃。おぞましいほどに殺気の込められたそれが喉元に迫り、思わず飛び退って躱してみせた。しかし、正対する忍びの手に握られているのは僅か5寸ばかりの手裏剣ではないか。
それは、すなわち、その短い間合いに入るまで存在を感知することすらできなかったということだ。そして、その薄弱な武器を持ってしてユッカを引き下がらせるほどの殺気を込められるほどの手練れ。一筋縄でいかない相手であることは明らかだ。
「一歩足らぬな」
ユッカはそう独り言ちると、更に一歩後ろへ引き下がる。互いに握るは短刀同士と言っても、それでもユッカの獲物の方が間合いはとれる。ならば、自身の有利な間合いにという算段であった。
「貴方は、いつぞやの変態……私に助太刀をすると言いました?」
突如、自身を庇うかのように剣を振るったガジュマルにトックリは疑問を抱きつつも「助太刀する」と言ったその言葉に偽りがあるようには思えなかった。なんら根拠はないが、獣の第六感がそう告げるのだ。
「お主達は、姫に良くしてくれているからな」
「姫に所縁ある者でしたか……」
トックリは、膝をつき体を起こす。しかし、全力を出し切ったためだろうか膝が震え立ち上がるには至らなかった。
「たった一人で勇者に立ち向かうなど愚かにもほどがあるぞ。それに、ワシの見立てではお主は中ボスであろう。そのような立場にある者が、何故このように前線におるのだ」
「兵はみな我が主の命で下がっています。しかし、勇者をペディランサス様の前に立たせるわけにはいかぬのです」
「なんだ、新たな通達を知らぬのか?」
トックリの頭上に疑問符が浮かぶ。
「おおい、そろそろ再開せんか」
しびれを切らした、ユッカが二人の会話に割って入ってきた。と、ほぼ同時にガジュマルの耳がピクリと動く。そして、おもむろにその視線を勇者から外しトックリへと移した。
「ほれ、お味方がやってきたぞ」
乱雑に入り混じった音と振動が、多くの魔物がいまここに殺到しつつあることを告げていた。ペディランサスの勇者撃退命令によりダンジョン内の魔物たちが一斉に動き出したのだ。事情がわからず、戸惑うトックリと対象に勇者ユッカは焦りを隠そうともしなかった。
「謀ったか、よもや、空城の計をしかけるとは! いや、魔王城一の知将と呼ばれるドラゴンが治めるダンジョン。単独で入り込むのは浅はかであったか」
ユッカは、短刀を鞘に納めると名残惜しそうに二人を一瞥した。
「次は、必ずその首落としてくれる。そちらの忍びも、覚悟しておけ!」
そう言い残し、尋常ならざる速度で駆けだしたユッカをトックリとガジュマルはただただ見守った。
「なんとかなったな……剣を交えておればワシもどうなっておったか」
「この借りは必ず返します」
ガジュマルの差し伸べた手を、トックリががしりと掴む。一体の魔物と、一人の男が種族を超えた友情が芽生えた瞬間であった。
「勇者はここかあ!!!」
「あ」
押っ取り刀で駆け付けた料理長サイクロプス《ブルーアイ》の巨体が、ガジュマルへと突き刺さる。ガジュマルの瞬発力であれば、容易に躱せたであろうその体当たり。トックリと交わした握手が、命取りとなった。
「ぐえ」
カエルが潰れたような声を漏らしたのが最期、ガジュマルはブルーアイの巨体に押しつぶされた。その様子を、黙ってみていたトックリは僅かな罪悪感を抱くも「まあ、こいつも侵入者だしいいか」と思い改めたのであった。
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