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【朗読】僕の妖精
しおりを挟む「うん、今日もいい天気だ。」
5月の下旬頃、からりと晴れた空、新緑が芽吹き、太陽の光も少し暑く感じるようになった。
僕の趣味は朝に散歩をすること。いつものように午前6時のアラームで起床。
起きてすぐに着替えては、階段を駆け下りて玄関の扉を開ける。
最近は少し暑くなってきていたが、少し早い時間ということもあって、涼しく感じる。
さて、今日はどこを散歩しようか。
いつもは近くの公園の周りか、海沿いを散歩している。
だが、たまにはコースを変えてみるのもいいだろう。
そこで思いついたのは、近くの山だ。山と言っても山道は整備されていて、子供でも容易に登ることができる場所だ。
早速その山を散歩することに決めた僕は、足早に家を去った。
300mほど歩くと山道の入口が見えてきた。道がコンクリートから葉や雑草でできた道に切り替わる。僕はそれらを踏みしめ、先に進んだ。
木々の間から太陽の光が差し込んでいる。美しい緑色の木々たちを眺めながら進んでいると、遠くに人影のようなものが見えた。
白くゆらゆらとしていてはっきりとは見えないが、確かに人影だ。
他にも僕と同じようにここを散歩している人がいたのか、と思い段々とその人影に近づいていく。
しかし、妙なのだ。どれだけ歩いてもその人影をすぐ目の前にすることはできず、ただ遠くで揺らめくのを見ている他なかった。
と、急に視界が真っ白になった。
あまりの眩しさに僕は強く目を瞑った。
そして次の瞬間、目を開くとそこは、自分の家の玄関だったのである。
あまりにも不思議な出来事であったため、僕は玄関で呆然と立ち尽くしていた。
しばらくすると母が「ちょっとそんなところで何してるのよ、早く準備しないと遅刻するわよ~。」と言って僕の肩を叩いた。
今の時刻は、7時10分。
数時間は山を歩いていたように思えたが、それほど時間は経っていないようだった。
頭は混乱している。
しかし7時30分には家を出ないと間に合わないため、大急ぎで支度を済ませ、学校に向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次の日。
またいつものように6時のアラームで起きると、すぐに着替えて玄関の扉を開ける。
向かう先はもちろん、昨日の山だ。
昨日と同じように山道へと足を踏み入れる。今日は少し風が強く、木々がざわめいている。葉がひらひらと舞い降りては地面へ落ちる。それらを横目に、どんどん先へ進んで行った。
しばらくすると、いた。
人影だ。
今日も白く揺らめいている。だが、昨日と違う点があった。
昨日より少しはっきり見えるのだ。昨日までは白く揺らめく人影にしか見えなかったが、今日は白い服を着て長い髪をなびかせる少女というように認識できる。
そして僕はまたその人影、いや少女に向かって歩き始めた。
昨日とは違い姿がはっきりとしているから今日こそは近づくことができると思った。
だが、違ったようだった。やはり進んでも進んでもその少女にたどり着くことはできない。
それはまるで無限回廊を連想させるほどに気の遠くなるものだった。
そして僕はまた白い光に包まれた後、昨日と同じように家の玄関に立っていた。
どうしてだ。どうしてあの少女に会うことができないのか。
訳の分からない出来事を2日連続で経験した僕は、ひどく混乱していた。
だが、今日少しはっきりと見えた少女の姿になぜか懐かしさを覚えた。
なぜかはわからないが。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
また次の日。
もう言わなくてもわかるだろうから色々と説明は省くが、今日も山に行く。
今日こそは、今日こそはこの謎を明らかにする。
僕はまた山道に足を踏み入れ、早足で歩く。今日は風もなく穏やかな天気であるため、僕の足音や鳥の鳴き声以外に音は聞こえない。
いた。
が、今日は今までと様子が違う。
どこが違うかと言うと、いつも後ろを向いていた彼女が今日はこちらを見ていたのだ。
驚くほどに白い肌、白いワンピース。
それとは対照的に真っ黒で長い髪。
そして遠くからでもわかるほど美人だった。
僕は、息を呑んだ。
それは彼女があまりにも美しかったからではない。
僕は彼女に見覚えがあった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
小学生の頃、僕は毎日一緒に遊ぶほど仲のいい友達がいた。
女の子だったのだが、とても明るい性格で動くことが大好きな子で一緒にいてとても楽しかった。
だがその子は、生まれつき体が弱くあまり外で遊ぶのを許されてはいなかったんだ。
外で遊ぶことが出来ずに悲しそうにしている彼女をみて僕は、両親にバレないようなところで遊べばいいのではないかと考えた。
今考えてみれば、腹立たしいほどに安直な考えだった。
そうして僕は毎日、彼女を近くの山に連れていき一緒に楽しく遊んだ。
僕も楽しいし、彼女も楽しそうにしている。こんな時間がずっと続けばいいのにな、なんて思っていた。
ある日、また同じように彼女と山に行き遊んでいた時のことだ。
「今日は鬼ごっこをしよう!」
と僕が提案し、彼女も賛成したため鬼ごっこで遊ぶことになった。
僕が鬼、彼女が逃げる役。
30秒数えてから彼女を追いかけ始める。
彼女はそんなに足が速くない。僕ならすぐに捕まえられるだろう、と余裕を感じながら追いかける。
彼女は必死だった。後ろから追いかけてくる僕のことをちらちらと見ながら走っている。
だが、少し後ろを見すぎではないか?
と思った次の瞬間。
彼女は足を踏み外し、斜面に転げ落ちた。
結構な高さだった。
僕は、目の前で落ちていく彼女を見ることしか出来なかった。
その後急いで近所の人に伝え、助けを仰ぎ、救助はされたもののしばらくして
彼女は死んだ。
僕はどうしていいか分からなかった。
あまりにも衝撃的な出来事で、彼女が死んだことが信じられなくて耳を閉ざした。
忘れたい。思い出したくない。
だって僕が山に行こうなんて、遊ぼうなんて言い出さなければ彼女は生きていたのだから。
僕が、彼女を殺した。
その罪悪感から逃れるために僕は思い出さないように、忘れようとして。
いつの間にか、本当に忘れていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして、僕が殺した彼女が今ここにいる。
僕は巡り巡って復讐される時が来たのだと感じた。
当然の報いだろう。仕方の無いことだ。ただ、1度彼女に謝りたい。
そう思いながら彼女のもとへと歩み始めた。
今日は、着実に彼女に近づいている感覚がある。段々と彼女との距離は縮まっていき、あと3mほどにまで近づいて立ち止まった。
「.....かおりちゃん」
彼女はじっと僕を見つめている。
「かおりちゃん、ごめんね。かおりちゃんは体が弱いから外に出てはいけなかったのに僕は、君を連れ出した。」
「その結果かおりちゃんは足を踏み外して、この山で亡くなってしまった。僕が、君を殺してしまったんだ。恨むなら恨んでくれ、殺してくれても構わない。本当にごめんなさい。」
僕は真剣に謝罪をした。それなのに聞こえてきたのは、
「あっはははは!」
笑い声だった。
「ゆうた。」
「私は、ゆうたを恨んでなんかいない。だって、足を踏み外したのはわたしが悪いんだもん。」
「じゃあ、なんで...なんでここにいるんだ。」
「わたしね、ここで死んじゃってからまたゆうたに会いたいなーって思ってたんだ。そしたらそれが未練になっちゃったみたいで、成仏出来なかった。」
「でもゆうたってば、何年待ってもこの山に来なくて、会えないもんだから。それにやっと来た!って思ったら私の事忘れてるみたいで、会えなかった。」
「かおりちゃん...。」
「でもようやく会えたし、こうして話せたからもう未練は無くなったみたい。わたしね、ゆうたにはお礼を言おうと思ってたんだ!」
「お礼...?」
「そう。私はね、ゆうたと一緒に山に行けて嬉しかったんだよ。外に出られなかった私をああして連れて行ってくれてありがとう。私は幸せだった。」
「かおりちゃん、僕、僕もね、一緒に遊べて嬉しかった。ずっと一緒に遊びたかった。かおりちゃん....。」
「こらゆうた!今泣いちゃダメだよ。ゆうたは今お兄さんなんだよ。私よりずっと背も大きくなってて立派なお兄さんなんだから。」
「私、そろそろ行かなきゃ。未練が無くなった今、ここにいる理由もないしね。」
「かおりちゃん...!」
「ん?」
「....ありがとう。」
次の瞬間、彼女は切なげな笑みを浮かべながら、姿を消した。
きっと、成仏できたのだろう。
涙は止まらない。けどそれを必死に拭って。
「ずっと忘れててごめんね、また今度お参りに行くから。待っててね。」
と小声でつぶやき、山を去った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
5月の下旬頃、からりと晴れた空、新緑が芽吹き、太陽の光も少し暑く感じるようになった。
「今日は暑いね。」
墓石に水をかけながら話しかける。
いつか僕が年老いて死んだら、その時は君との思い出と魂とともに彼岸に渡り、また再会出来ることを願って。
「またね。」
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