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道なき密林の中
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各部隊が川を渡っている中、 泳ぎの下手な牛は川の流れに負け、その半数が溺れ死んだ。
川を渡った後、草木が生い茂るジャングルに入って、目標であるインパールを目指し、直線距離、数百キロもの足場の悪い道に加え、二千メートル級の山々を上り下りしながら、進軍する。
これまでに経験したことのない厳しい道のりである。
考えただけで気が遠くなりそうだ。だが、そう考えるために使う気力が特に無駄ではないかと感じるほどだ。
本来ならば何トンもの重量がある大砲等の重火器や、その他の武器弾薬などは運送用トラックを使って運ぶのが一般的だが、密林の中は、トラックが通れるほどの満足な道は中々存在せず、それぞれをできる限り分解して人力や馬や牛を利用して運んだ。可能な範囲でトラックを使用したが、あまりにも道が悪い時は、トラックまで分解して運ぶ始末であった。
ぬかるむ足下を踏ん張りながら長々とした泥道を進む有様である。
また、傾斜の大きい崖の道に差し掛かることが多々あり、途中、重い荷物を背負った牛や馬が足を滑らせて、鳴きながら落ちる光景がたびたびあった。
兵士たちはそれを見慣れた表情をして、それを眺め、牛や馬の命よりも落ちた大事な荷物に気を向けた。
疲労を感じる中、小隊長を務める部下のアンドウが私に喋り掛ける。
「少佐、想像以上の酷さですね。よくまぁこんなジャングルを進んで作戦を遂行しろと上層部も杜撰な命令したものです。理解に苦しみます。こんなんではインパール着くに前に倒れてしまいますよ。」
「口を慎め、軍隊は上の命令を厳守してこそはじめて成立する組織である。そんなんでは帝国軍人として失格だぞ。」
「申し訳ありません」
「まあ貴様の気持ちも正直理解できる。確かにこの状況じゃそう思っても仕方がないな。ははは」
少し引きつったアンドウの顔が緩んだのを見て、私は場を和ませようとアンドウに世間話をかけた。
「アンドウは子供はいるのか?」
「はい、正確にはまだ女房の腹の中ですが。」
アンドウは自然な笑みを浮かべた。
「そうか、それは楽しみだな。ははは」
「はい、どんな顔をしているか気になってしょうがないです。」
この言葉に私はアンドウの胸の底にある心境を感じることができた。それは考えれば考えるほど、深くなり、アンドウに対する同情の念が湧いてきた。
そして私はアンドウに再び問いかける
「死にたくないだろう。」
私はあえてアンドウの顔を見ず、樹木の方を眺めてそう言った。
少し時間をおいて彼は言った。
「・・・、いえ、私は栄光ある帝国陸軍のいち戦士であります。国家のためを思えば、死など取るに足りません。」
「そうか、・・・」
彼の心の中の本音はできることなら生きて帰りたいと思っているだろう。しかし軍人そしての自分がそう思うことを許さないでいる。今の会話からそう想像できた。
私も彼と同じ軍人でもあり、父親でもある。それ故に、彼の気持ちは、痛いほどわかる。
そして私は彼に語りかけた。
「生き残ることも一つの勝利である。士官学校時代の頃一緒だった同期の日露戦争に参加した父親の言葉だ。」
「なるほど」
そう言って彼は自身の心と会話をするように静まり返った。
川を渡った後、草木が生い茂るジャングルに入って、目標であるインパールを目指し、直線距離、数百キロもの足場の悪い道に加え、二千メートル級の山々を上り下りしながら、進軍する。
これまでに経験したことのない厳しい道のりである。
考えただけで気が遠くなりそうだ。だが、そう考えるために使う気力が特に無駄ではないかと感じるほどだ。
本来ならば何トンもの重量がある大砲等の重火器や、その他の武器弾薬などは運送用トラックを使って運ぶのが一般的だが、密林の中は、トラックが通れるほどの満足な道は中々存在せず、それぞれをできる限り分解して人力や馬や牛を利用して運んだ。可能な範囲でトラックを使用したが、あまりにも道が悪い時は、トラックまで分解して運ぶ始末であった。
ぬかるむ足下を踏ん張りながら長々とした泥道を進む有様である。
また、傾斜の大きい崖の道に差し掛かることが多々あり、途中、重い荷物を背負った牛や馬が足を滑らせて、鳴きながら落ちる光景がたびたびあった。
兵士たちはそれを見慣れた表情をして、それを眺め、牛や馬の命よりも落ちた大事な荷物に気を向けた。
疲労を感じる中、小隊長を務める部下のアンドウが私に喋り掛ける。
「少佐、想像以上の酷さですね。よくまぁこんなジャングルを進んで作戦を遂行しろと上層部も杜撰な命令したものです。理解に苦しみます。こんなんではインパール着くに前に倒れてしまいますよ。」
「口を慎め、軍隊は上の命令を厳守してこそはじめて成立する組織である。そんなんでは帝国軍人として失格だぞ。」
「申し訳ありません」
「まあ貴様の気持ちも正直理解できる。確かにこの状況じゃそう思っても仕方がないな。ははは」
少し引きつったアンドウの顔が緩んだのを見て、私は場を和ませようとアンドウに世間話をかけた。
「アンドウは子供はいるのか?」
「はい、正確にはまだ女房の腹の中ですが。」
アンドウは自然な笑みを浮かべた。
「そうか、それは楽しみだな。ははは」
「はい、どんな顔をしているか気になってしょうがないです。」
この言葉に私はアンドウの胸の底にある心境を感じることができた。それは考えれば考えるほど、深くなり、アンドウに対する同情の念が湧いてきた。
そして私はアンドウに再び問いかける
「死にたくないだろう。」
私はあえてアンドウの顔を見ず、樹木の方を眺めてそう言った。
少し時間をおいて彼は言った。
「・・・、いえ、私は栄光ある帝国陸軍のいち戦士であります。国家のためを思えば、死など取るに足りません。」
「そうか、・・・」
彼の心の中の本音はできることなら生きて帰りたいと思っているだろう。しかし軍人そしての自分がそう思うことを許さないでいる。今の会話からそう想像できた。
私も彼と同じ軍人でもあり、父親でもある。それ故に、彼の気持ちは、痛いほどわかる。
そして私は彼に語りかけた。
「生き残ることも一つの勝利である。士官学校時代の頃一緒だった同期の日露戦争に参加した父親の言葉だ。」
「なるほど」
そう言って彼は自身の心と会話をするように静まり返った。
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