戦火の花火

愚弱 偽長

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第1章

希望の蕾

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戦争とは実に愚かでそれでいて、とても偉大な行為である。
私は昔、戦争を毛嫌いしていた。今、大衆は昔の私と同じように人が大量に死に、文化が大量に喪失するその戦争というものを嫌い、絶対悪としている。しかし、現代の技術、それが支えるこの生活がその戦争によって生み出されたものだということも避けがたい真実だ。それを我々は受け入れなければならない。我々の先祖が、英霊たちが戦争で戦わなければ、今の我々たちは存在しないのだから。
そう、だから私は悪魔に敬意を表する。かつて凡人だった、悪魔に。

戦争は突然始まったわけではない。小さな争いがつもり、そして、満杯のコップに一滴の水滴が落ちた時、戦争が始まる。それは私たちが12歳の時だった。

ガサガサと音を立てながら公共放送しか流れないラジオが語りだす。
『忌まわしいオルドビス王国が我がシルル王国の北方基地に対して爆撃するという暴挙に対して我が偉大なる国王はオルドビス王国に宣戦布告するという大いなる決断をいたしました。作戦102では完勝し、我が国は大きく戦線進めています。そして、・・・・・』
戦争が始まった。それは朝のラジオニュースで伝えられた。

学校で2人の少年が話している。
「ついに戦争が始まったか、オルドビスは国土がうちより大きい。うちの軍じゃ、必ず負ける。この戦争で父親も、兄貴も招集されるかも知らないのに。負け戦で死ぬのはあまりに不憫だ」
「おい、プロ。そんなこと教師や憲兵に聞かれたら終わりだぞ」
「戦争なんて馬鹿のやることだ。俺は戦争には行かない」
「行かないって言ったって国から招集状が来ればいかなきゃ行けない。逃れることはできないんだよ」
「ケン、それがあるんだよ。この前家の近くのぼろ屋敷の新聞を漁ってたら、見つけたんだ。その方法を」
「えっ!!!!!」
「そこ、静かに、授業中ですよ」
教師が鋭い目つきで2人を見る。
「「すいません」」
「それでその方法って?」
「文化人として偉大な成果を残すことだ。文化人として偉大な成果を残せば、永世中立国のデボン共和国に文化交流の一環として、移住できる。デボン共和国はうちの最大の貿易国だから、もしデボン共和国に認められ、移住させることを申し込まれれば、うちの国は断ることはできない」
「それって毎年どのくらいの人が選ばれるんだ?」
「少なくとここ2、3年は選ばれていない。俺が見つけたのは4年前だ」
「それって相当きつくないか?その制度終わってるかもしれないし」
「でも、やるしかない。もし選ばれれば、お前の家族も一緒に引っ越そう」
「俺も戦争をしたくない。そうしてくれると助かるよ」
「一緒にこんなくそみたいな状況を抜け出そう」
「でも、文化といっても色々あるだろ?なにで勝負するんだ?」
「当然、小説だ」

帰りの道では作戦会議をした。
プロ・キシマは知っている情報をすべて話した。
見つけられた前例は2つ、4年前と6年前の記事。4年前に移住した人は人形作家。100年前使われていたが、今は失われたロストテクノロジーを復活させた。6年前は画家で、世界三大画家の子孫でその家に代々伝わる技術を完璧に使いこなし、現代美術と融合させた。どちらも作家でないうえ、素人が選考理由を少し聞いただけでそのすごさがわかるほどだ。ケンタ・ウリはそれを聞いて、さらに自分が思ってたよりもその戦争から逃れる方法が絶望的なのを悟った。
「まず作家が選考対象かもわからないのか」
「いや、選考対象に作家が入ってないわけがない。デボン共和国建国12英雄の中の3人も作家が含まれるうえ、デボン内でもっとも発達している文化活動は文学だ」
「でも、それは選考基準が高い可能性もあるってことだよな?」
「ああ」
「そんな・・・」
「だから、期限は俺たちが15歳になるまでの3年間だ。そして、おまえには以前選ばれた作家の作品を探してきてほしい」
「わかったけど、どこで探せばいいの?」
「大きな図書館だ」
「どこにそんなのあるのかな」
「ひとまず学校の図書館で探そう」

2人の通う学校は田舎のため土地が有り余ってる。そのため学校が大きく、学校が大きければ当然、図書館も大きい。探し物をするにはうってつけだった。
「広すぎて見つけられなくない?」
「あたりをつけよう」
「なにに?」
「デボン共和国への移住について書かれているものが欲しい。国家間の交流についてまとめられている資料を探そう」
「わかった」

放課後のわずかな時間を使って探すためかなりの日数を要した。1週間が過ぎた時だった。
「見つけた」
今までもその移住について書かれた文献を見つけたが、内容が探しているものについてではなかったり、抽象的だったりと的を得ない文献ばかりだった。
「今回はしっかり移住について詳しく書かれてるぞ」
「本当か?」
あまりに空振りが多すぎてケンタも半信半疑になっていてが、プロの持ってきた文献に目を通し、その考えを改めた。
そこには2人が知りたい情報が数多く乗っていた。
《文化的発展の著しいデボン共和国の文化研究省によって選ばれた者にはデボン共和国の文化発展、そしてデボン共和国と我がシルル王国をより強固にするためにデボン共和国にて、文化活動を行わせる。C140年から始まった取り組みで不定期に行われる。文化活動というのは絵画、彫刻、演劇、小説など多岐にわたる。》
「とりあえず、小説で選考を狙うってのは間違ってる道ではなさそうだね」
「ああ。それだけでも大きな成果だよ」
「この本はこれ以上詳しい内容ないの?」
「ああ、これしかない。あまり成果が出ないから、ここからは分担作業で行こう。俺が作家活動に取り組むから、お前は前言った通り以前選ばれた作品を探してくれ」
「それ見つけてどうするの?」
「選考の傾向を知るんだ」

そこから2週間2人はそれぞれの作業に取り組んだ。特に進展のないまま過ぎていた日常に暗雲が立ち込める出来事が起きた。
「憲兵だ。危険書物の蔵書の疑いありとの報告があり、調査しに来た」
憲兵による2人の住む村への危険書物の捜索が行われた。
「なんで憲兵が来たんだ・・・」
「誰かにバレたんだ、俺たちのやろうとしていることが」
「でも、ばれたらまずいようなことはしてないだろ」
「そのはずだけど、戦争が始まった今、国としては1人でも人員が欲しいはずだ。その中、他国に移住できるように画策しているのは国としてはおもしろくないんだろう。それに本来なら国同士の結び付きを強めるためのものなら、大々的にやるはずだし、もっと多くの人知っているはずだ」
「でも、誰にバレたんだろ。教師かな?」
「その可能性が一番高いな」
「学校での活動がしにくくなったね」
「そうだな。これからの活動方針も見直さないとな」
「情報をどこで調べるかだよね」
「ああ、どうしようか」
「プロー」
「母親だ。行かないと。夜にこれからのこと考えておく。明日思いついたこと言うから、ケンも考えておいてくれ」
「わかった」

「今日学校遅れてきてどうしたの?」
「・・・」
「来た後、教師にも呼ばれていたし、教師から移住の件何か言われた?」
「いや、違うんだ」
「じゃあ、何があったの?」
「昨日、憲兵が家の中の捜索と一緒に父親と兄貴の徴兵状を持ってきたんだ」
「そんな・・・」
「そして、その後、父親に俺と母親の2人で疎開することを勧められた」
「勧められたってことはまあ決まってないんでしょ?じゃあ、すぐに断ってそれで」
「ごめん。言い方を間違えた。もう決まってるんだ。その勧められたってのはほとんど命令だから」
「・・・行くのか」
「ああ、子供にこれからを決める選択肢なんて待ってない」
「これからの・・・じゃあ、計画は白紙か・・・」
「いや、そんなことない。むしろ、進んだといってもいい」
「進んだ?どういうこと?」
「疎開先の学校も図書館が大きいところなんだ」
「じゃあ、調べものができるのか」
「そうだ」
「それなら、計画が一気に進む。で、俺は何をすればいいんだ」
「俺が必ず2年以内に成功させる。3年とは言わない、2年だ。それまで教師にも憲兵にも目を付けられないようにしといてくれ」
「俺ができることはないのか」
「そんなことない。せっかく成功しても、おまえが捕まってるんじゃ意味がないだろ」
「確かにそうだな」
深刻な話をして暗くなっていた2人の間に笑いが起こり、明るい今まで通りの雰囲気が戻ってきた。
しかし、もう一度顔を引き締めて、プロがケンタのほうを向き言った。
「手紙は検閲が入る。もし、進捗状況を送ったら、検閲で捕まるかもしれない。だから、進捗に関してはたまにしか言えない。だから、信じて待っていてほしい。頼む」
「ああ、プロ。俺はお前をずっと信頼してる。お前小さいころから天才だった」
「ありがとう。任せろ」
2人熱い握手を交わした。その後はたわいもない話をして帰った。

そして、プロが旅立った。今生の別れではないと2人は知っているのでいつもの学校帰りの帰り道かのように別れた。

プロの疎開先バックスはケンタと一緒に育ったバニーから汽車で丸2日もかかる。プロはバックスについたとき長旅で疲れていたため、朝についたが丸1日寝てしまった。

「プロ、今日から学校でしょ」
「今日から?」
「学校は2日以上休んじゃいけないのよ」
「それもう過ぎてね?」
「疎開届けだしたから、休みは昨日の1日だけよ。だから今日から学校には行かないといけないの」
「めんどくさ」
「何言ってるの。あなたのお父さんもお兄さんも頑張ってるんだから、あなたも頑張りなさい」
「わかったよ」
プロも父親と兄の話には弱い。プロは嫌々学校に向かうことにし、準備を始めた。

学校に着き、新しい教師の品定めをプロはし始めた。
「無害そうではあるな」
そんなこと考えながら教師の後を追い、新しい教室に向かう。

「皆さんおはようございます。今日は皆さんの新しい仲間が来ました。プロ・キシマ君です。仲良くしてくださいね」
「よろしくお願いします」
「「「「「よろしくお願いします」」」」」
戦争は始まってるとはいえ、本土の被害はほとんど0なため疎開は珍しく、プロを見るほかの生徒は期待のまなざしを向けた。
「プロ君へ何か質問ある人はいますか?」
一斉にたくさんの手が上がる。教師は困ったように頭をかいた。
「プロ君、指名して質問をいくつか答えてあげてください」
「はい、じゃあ、そこのひと」
プロは何人かの質問に答え、席についた。
「隣の席だね。プロ君よろしく」
「よろしく。えーっと」
「サミーだよ。サミー・クライブ。これからよろしく。どの辺に越してきたの?」
「エル通りのところ」
「ほんと?私もその近く。一緒に帰ろ。そっちのほう誰も帰る人いないんだよね」
「そうなの?あの辺住宅街なのに」
「まあ住んでる人はいるんだけど、一緒に帰るほど仲のいい人はいないんだよね」
「そういうことね。俺は今日初めて話したのに一緒に帰っていいの?」
「なんかプロ君は私と同じ匂いを感じたんだよね」
「匂い?」
「うん。失礼を承知で言うけど、プロ君って騒がしいタイプの人じゃないでしょ?」
「まあ、そうだね」
「私も同じタイプだから、なんか気が合いそうだなって思ったの」
「馬が合いそうだなって思ってもらえたのね」
「そう!しかも、プロ君、友達100人タイプじゃないでしょ?」
「うん、そうだけど」
「私も一緒。周りがそういう人だとおちつくから。仲良くしていきたいなって思ったの」
「確かにね。だけど、失礼を承知で言うけどっていうのは1つ目の性格についての質問じゃなくて、2つ目の性格についての質問に着けた方がいいと思う」
「確かにね」
「真似した?」
「した」
二人は笑い合いその後も話続け、一緒に帰った。新しい土地でケンタのような仲のいい友達ができるのは半分あきらめ気味だったプロだったが、サミーと別れた後、バニーよりも暮らしやすくなることはなくとも、悪くはないバックスでの暮らしがプロには想像ができ、安堵した。

次の日からはサミーの友達も紹介してもらった。
「ピンクよ。よろしくね」
「よろしく」
「趣味は何?私の趣味は裁縫なのポーチを作ったりしてるし、たまに服も作ってるのよ。まあ服の切れ端とかで作るから大したものではいけどね」
「裁縫が趣味なんだ。手先が器用なんだね」
「うん。まあそういっても、サミーには及ばないけどね。サミー天才だから」
「そんなことないよ。今はピンクのほうが全然うまいよ。頑張ってるもん」
「ありがと!!」
「サミーも手先が器用なんだね」
「まあ、人並程度にね」
「またまた、謙遜しちゃって」
そんな会話をしつつ、授業までの間だったりの隙間時間にサミーの友達を何人か紹介してもらった。サミーの友達は昨日話した通り友達100人のタイプではない人が多かったが、そうではなく顔が広いタイプの人もいた。サミーの紹介じゃなくても、そのようにたくさんの人と話をしていると周りの人間も次第にプロに興味を示し、話しかけられはじめ、多くの友達ができた。しかし、サミーが言った通りプロの仲良くなった友達の中ではプロと同じ方向に帰る人はおらず、サミーと2人で帰ることになった。

「今日、たくさん友達出来てよかったね」
「うん。サミーのおかげだよ」
「そんなことないよ。プロ君の力だよ。そういえば、なんで引っ越してきたの?」
「疎開っていうんだよ。俺のいたところは軍港があったから、戦争に巻き込まれる可能性があったんだよ。だから、それを避けるためにここに越してきたんだ」
「そうなんだ。でも、そうしたら、お父さんの仕事とか探すの大変だったんじゃない?ここは住宅街でお店とかはあるけど、会社はないじゃん?」
「父親は徴兵された。そして、兄貴も」
「・・・そっか。頑張ってるんだね」
「ああ。・・・そういう頑張りいらないんだけどな」
「戦争反対なの?」
「い、いや、そんなこと・・・。もし、そういったらどうする?」
「私のお父さんは憲兵やってるんだ」
「・・・そっか」
「でも、私も戦争は反対。お父さんのことは嫌いじゃないし、お父さんの仕事も否定しないけど、戦争で周りの人が死ぬのは見たくない」
「サミーのお父さんは憲兵なんでしょ?憲兵は戦争には行かないからそこは大丈夫なんじゃない?」
「うん。まあ、そうだけど、そうじゃないの」
「どういうこと?」
「その周りっていうのは友達の家族も含まれるの。プロ君のお父さんやお兄さんも含まれるんだよ」
「どうして?俺の父親が死のうが、兄貴が死のうがサミーには関係ないように思えるんだけど」
「ううん。関係あるよ。もし、プロ君のお父さんやお兄さんが死んじゃったら、プロ君悲しむでしょ。私は友達の悲しんでる姿が見たくないの」
「サミーは本当にいいやつだね」
「そんなことないよ。これはわがままだから。周りの人みんな、笑顔がいいっていうわがまま。わがままな人は嫌い?」
「うーん。そのはずだったけど、そういう綺麗なわがままなら、好きだから、わがままな人も案外嫌いじゃないのかも」
「そういってくれると嬉しい。でも、そんな方法はないけどね」
「うん。確かにそんな方法はないけど、それができるかもしれない方法ならある」
そして、プロはサミーにデボン共和国への移住の話を知っている限り話した。偶然廃墟の新聞を漁ってたらその情報を見つけたことから憲兵の捜索きて、そのタイミングで父親と兄が徴兵され疎開したことまで。
「そんな方法があるんだね。初めて知った」
「憲兵が1つの村をわざわざ、まるまる捜索するくらいだから、それを挑戦しようとすることも、そもそも知られること自体も嫌がっているんだと思う」
「そっか。じゃあ、あんまりたくさんの人には言わない方がいいことだね」
「そうだね。人の口には戸は立てられないからね」
「それなのに、そんな話私に話していいの?私のお父さん憲兵なんだよ?」
「信用できると思ったから」
「ありがとう、そう言ってもらえるとうれしい!他にもこの話知っている人はいるの?」
「こっちにはいない。故郷に1人いる。一緒に計画している友達」
「さっきの話にいた人か。故郷の友達は今何してるの?」
「危ないから今は身を潜めてもらってる」
「そうだね。それがいいかもね。憲兵まで来てるから相当警戒されてるだろうしね」
「その意味では俺も警戒されてるかもしれないけどね」
「まあ、もう引越したし、大丈夫じゃないかな。これからはどうするの?」
「前やっていた通り昔の受賞作品を調べつつ、本を少しづづ書いてく感じかな」
「その調べる作業私がやってもいい?」
「いいっていうか。本当に嬉しい提案だけど、親にバレたら大変なことになるかもよ?」
「それでもいい。でも、その代わりに、もしそれに成功したら、私の家族も一緒に連れて行って」
「ああ、約束する」

それからサミーに過去の当選作品の捜索を任せてプロを作品作りに専念した。プロが考えていたよりも小説の作成は難しく、書いては消し、書いては消しを繰り返し、1作品目を書き終えた頃には半年が過ぎていた。初めて書いた小説であるにも関わらずプロはこの作品に自信があった。
「やっと書き終えたよ」
「おつかれさま。どう?出来栄えは」
「結構自信があるよ。早速明日にはこの作品を出版社にもっていこうと思うよ」

翌日、2人で出版社に向かった。
「素人の作品だね。申し訳ないけど、この作品はうちでは出版できないね」
プロは今までの人生で行ってきたことの多くに才能があった。しかし、作家としての才能は凡人並みだった。プロも創作活動中に気付いていた。今までとは明らかに違う感触にプロの作り上げた作品は素人の傑作に過ぎなかった。プロはその事実に気づきたくなくて、自然とありもしない自信があるように感じていた。その事実を改めて伝えられる形になった。

帰り道、サミーはプロの様子をうかがいながら話しかけた。
「ダメだったね」
「うん。いや、ごめん、正直わかってたんだ」
「自信あったんじゃいの?」
「いや、あると思いたかったんだと思う。この作品以上にいいものを書ける気がしなかったんだよ。だから、これがだめなら正直俺には無理だと思った」
「じゃあ、もうあきらめるの?」
「いや、だから、俺も成長する必要があると思った。今まではやってきたことの大体に才能があったから少しの努力である程度できたけど、もうそれじゃだめだ。今まで楽してきた分、今回は死力を尽くすことにしたよ。今日でその覚悟決まった。今まで逃げてきた道に踏み出す覚悟が」
「私も学校の図書館は調べ終わったから、町の図書館に行くよ。2人でこれからもがんばろね」
「ああ。てか、もう調べ終わってたんだ」
「うん。プロ君が書き終わったのと同じくらいのタイミングでね」
「改めてこれからもよろしく」
「よろしく」

サミーは学校の図書館はすべて調べたがあまり成果はなく、町の図書館で調べることにした。町の図書館といっても大きさは国立図書館並に大きく、田舎の土地の安さの利点生かされたものだ。サミーはその大きさによる蔵書数と蔵書数故の検閲が行き届いていないことに目を付け、ここならある可能性が高いと思い、捜索に踏みだした。プロは今まで以上に作家活動に精を出した。学校外の時間をすべて当てるだけでなく、学校にいる間も構想を考えるなど生活のすべてを作品作りに割いた。最初は編集者から直しすらもらえなかったが、次第にアドバイスまでもらえるようになってきたが、まだ書籍化にすらこぎつけてもいなかった。

プロが引っ越してから1年が過ぎようとしているころ、戦争は激化し、都会などではすでに民間人にも被害が出始めていた。戦争は既にオルドビス王国とシルル王国との2国間の戦争ではなくなっていた。オルドビス王国側にペルム共和国が、シルル王国側にカンブリア帝国がつき、その両国の参戦により小国間でもいさかいを生み、世界中を巻き込む戦争になっていた。

その頃、プロはやっと書籍化の目途が立った。2か月近くを修正作業などに費やし、ついに出版した作品の売り上げはよくなかった。しかし、そのタイミングでサミーも大きな成果を出した。
「やっと当選した作品見つけたよ、しかも、2つ」
「よし。ありがとう。じゃあ、今夜実際に読んでみる。わかったことは明日伝える」

学校の前に少し集まることにした。
「読んでみてどうだった?」
「まあ、すごくレベルが高いのはわかったけど、行けないレベルではないと思った」
「本当?あとどのくらいで行けそうかはわかった?」
「それは正直わからない。単純に作品としてのレベルが高いのもそうなんだけど、ジャンルが全然違うんだよね、今まで書いてたものと」
「そんな・・・」
「でも、今までのすべてが無駄になるわけじゃないから」
「そうだよね。それに目標が変わるわけじゃないしね」
「うん。あと1年で成功させてみせるよ」

しかし、ジャンルの違いは大きく引っ越して2年になるころまでに書き上げたすべての作品が書籍化にすら至らず、空振りに終わった。そして、約束の期限に間に合わないことを悟ったプロは来年中には必ず成功させ、移住の権利を手に入れ、ケンのもとに戻るということ、引っ越してからはサミーという人に手伝っていもらっていることを手紙で送った。1か月後、ケンから返事があり、それまで待っているから、めげずに頑張ってほしいということが書かれていた。

そこから半年、ついに書籍化され、高い売り上げが出た。そして、そのまま2作目も書籍化。それも好成績を出したため、正式に出版社の作家にプロはなった。勢いに乗ったプロが出した3作目はシルル王国の中でも歴史上5番目に入る売り上げを見せ、ついにデボン共和国の目に留まった。
プロはデボン共和国の大使館に招かれた。その場にはデボン共和国大使とシルル王国の外交官がいた。
「本日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「本日の会合の目的はシルル王国外交官ワーナーが説明させていただきます」
会合は穏やかなムードで始まった。
「本日、プロ・キシマさんにお話ししたいことは国定文化人への登録の勧誘です」
「国定文化人とは何でしょうか?」
プロはそう疑問を持ちつつもかすかな希望を持った。
「国定文化人とはデボン共和国と我がシルル王国をつなぐ架け橋の1つである文化の育成のための制度で、この国定文化人に選ばれた人には兵役の免除が約束されます。どうですか?」
プロは落胆を隠すのがやっとだった。プロの想像していた移住とはまた違う制度がプロには適用された。しかし、まだ希望もあった。もし国定文化人が移住の前段階なら、大きな一歩ともいえる。プロは何も判断材料がないため、その楽観的とも言える考えにすがった。
「お受けいたします。これから国定文化人としてシルル王国の文化の発展に寄与させていただきます」
その時、プロはデボン共和国大使がなぜもの場にいるのか疑問に思った。そして、楽観的とも言える考えに少し根拠が加わったのを感じた。しかし、プロはその考えがあっているという答えが欲しかったプロは思わず質問をした。
「すみません。シルル共和国大使様、ご質問よろしいでしょうか」
「大丈夫ですよ」
「この国定文化人というのはシルル王国の合意もあってなされるものなのですか?」
「そうです。それゆえ私がこの場にいるのですよ」
プロはここで今ようやく移住への第一歩が踏み出されたのだと確信した。もうすでに引っ越してから3年が経とうとしていた。ケンとの約束はこの時には移住の権利を手に入れるというものであったが、その道が恐ろしく険しいものであることがようやく第一歩を踏み出したプロにはわかった。しかし、その目標が気が遠くなる程の距離にあるものではなくなったということでひとまず故郷に帰り、ケンのもとに訪れることにした。
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