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ようこそケツバット村へ
【黒鉄孝之、浅尾真綾(5)】
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旅館の駐車場付近に辿り着く頃には、青空もすっかりと茜色に染まっていた。チェックイン時に決めておいた夕食の時間までそんなに余裕が無かったふたりは、麻美に手短に別れを告げて先へと急ぐ。
ふたりの部屋は2階だった。そのため、何かと階段を上り下りする必要があり──この旅館は3階建てなのでエレベーターが無かった──急いでいる今は、とても不便に感じられた。食事も部屋食ではなかったけれど、1階の食事処が個室らしいので、その点は気にならなかった。
フロントで鍵を受け取り、小走りで大階段を上り始める。
やがてすぐに、うしろからついてきていた真綾が「きゃっ」と小さく悲鳴を上げた。驚いて孝之が振り返ると、真綾の背後には金子の息子・敦士の姿が見えた。
「ねえちゃん、ええ尻してまんなぁ」
敦士が満面の笑みで真綾の尻を両手を使って撫でまわす。
悲鳴の理由を悟った孝之は、敦士を怒鳴りつけようとしたが、そのまえに真綾が「もう、ダメでしょ! 悪い子ね!」と、笑顔で目の前にある小さな両のほっぺたを軽い力でグイグイ摘まんでたしなめる。
敦士も笑顔のまま「痛ってぇー!」と頬をさすり、それから食事処があるほうへと元気よく走り去っていった。
「おのれクソガキ……こっちはまだ一度もさわってないのにッ……!」
早熟の少年の背中を見送りながら、嫉妬に狂う孝之の心の声が思わず洩れる。するとすぐさま、真綾は手を伸ばして孝之の右頬をめいっぱいの力でつねった。
孝之も「痛ってぇー!」と頬をさすってみせたが、真綾は「全然かわいくないから」と冷たくあしらい、先に大階段を上っていってしまった。
2階通路へと消えるデニム生地に包まれた形の良い美尻をうらめしそうに見上げていると、追いついた麻美が微笑みながら話しかけてくる。
「あら孝之君、歯が痛いの?」
右頬に手をあてて固まる理由を訊ねられ、苦笑いを浮かべることしか孝之はできなかった。
「もう、彼女と仲良くしなきゃダメよ。せっかくの楽しい旅行なんだから」
「あっ……はい、すんません。あの、麻美さんも2階ですか?」
「ううん、3階の突き当りの部屋なんだ」
確かそこは、客室露天風呂が付いている部屋で、孝之たちが泊まる部屋よりも1人あたりの料金が3万円ほど高かった。彼女の同伴者は自分と違ってよほど裕福で、麻美のことを大切に扱っているんだなと、孝之は思った。
「えっ、すごいじゃないですか! いいなぁ、露天風呂付きの部屋に泊まれて」
「別に……フツーに大浴場にも行くつもりだし……なんなら、真綾ちゃんも連れて入りにくれば?」
その言葉に一瞬、真綾と麻美のふたりと混浴する自分の姿を思い浮かべてしまう孝之。
表情に出てしまったのか、麻美は一瞬のうちに冷ややかな目つきへと変わり、「エッチなことなら、彼女とだけしなさい」と孝之の左頬を軽くつねって穏やかに叱りつけた。
ふたりの部屋は2階だった。そのため、何かと階段を上り下りする必要があり──この旅館は3階建てなのでエレベーターが無かった──急いでいる今は、とても不便に感じられた。食事も部屋食ではなかったけれど、1階の食事処が個室らしいので、その点は気にならなかった。
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やがてすぐに、うしろからついてきていた真綾が「きゃっ」と小さく悲鳴を上げた。驚いて孝之が振り返ると、真綾の背後には金子の息子・敦士の姿が見えた。
「ねえちゃん、ええ尻してまんなぁ」
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悲鳴の理由を悟った孝之は、敦士を怒鳴りつけようとしたが、そのまえに真綾が「もう、ダメでしょ! 悪い子ね!」と、笑顔で目の前にある小さな両のほっぺたを軽い力でグイグイ摘まんでたしなめる。
敦士も笑顔のまま「痛ってぇー!」と頬をさすり、それから食事処があるほうへと元気よく走り去っていった。
「おのれクソガキ……こっちはまだ一度もさわってないのにッ……!」
早熟の少年の背中を見送りながら、嫉妬に狂う孝之の心の声が思わず洩れる。するとすぐさま、真綾は手を伸ばして孝之の右頬をめいっぱいの力でつねった。
孝之も「痛ってぇー!」と頬をさすってみせたが、真綾は「全然かわいくないから」と冷たくあしらい、先に大階段を上っていってしまった。
2階通路へと消えるデニム生地に包まれた形の良い美尻をうらめしそうに見上げていると、追いついた麻美が微笑みながら話しかけてくる。
「あら孝之君、歯が痛いの?」
右頬に手をあてて固まる理由を訊ねられ、苦笑いを浮かべることしか孝之はできなかった。
「もう、彼女と仲良くしなきゃダメよ。せっかくの楽しい旅行なんだから」
「あっ……はい、すんません。あの、麻美さんも2階ですか?」
「ううん、3階の突き当りの部屋なんだ」
確かそこは、客室露天風呂が付いている部屋で、孝之たちが泊まる部屋よりも1人あたりの料金が3万円ほど高かった。彼女の同伴者は自分と違ってよほど裕福で、麻美のことを大切に扱っているんだなと、孝之は思った。
「えっ、すごいじゃないですか! いいなぁ、露天風呂付きの部屋に泊まれて」
「別に……フツーに大浴場にも行くつもりだし……なんなら、真綾ちゃんも連れて入りにくれば?」
その言葉に一瞬、真綾と麻美のふたりと混浴する自分の姿を思い浮かべてしまう孝之。
表情に出てしまったのか、麻美は一瞬のうちに冷ややかな目つきへと変わり、「エッチなことなら、彼女とだけしなさい」と孝之の左頬を軽くつねって穏やかに叱りつけた。
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