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悪の秘密結社〈スカルコブラー〉
第23話 ドゥアイ・ヴァーク・ハーツ
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白神博士の指示のもと、戦闘員の一人が時限式爆弾が詰め込まれた風呂敷を広場にゆっくりと運ぶ。
「ねえ、これで本当にバスを地上まで吹き飛ばせるの?」
身近な火薬類といえば、花火セットしか知らない。この爆弾がどれほどの破壊力を持っているのか、わたしには見当がまるでつかなかった。
そもそも冷静に考えると、こんな御歳暮の特盛りみたいなサイズで回転寿司店を爆破させること自体が怪しい。
「爆弾は、ソレ用に使うんじゃないのよねぇー」
「えっ? じゃあ、なんのために……」
意味深に含み笑いをみせた白神博士は、広場中央に置かれた風呂敷へと優雅に歩いて近づいていく。
その時に初めて、彼女が穿いているショーツのお尻部分がTバックだったことに気がついた。もう手遅れかもしれないけれど、カッパたちに悪影響が及ばないことを祈るばかりだ。
「これはね、大爆発が路線バスに与える影響を最小限に抑えるために使うのよ」
形が綺麗なお尻を(わたし限定で)見せつけるようにして、ゆっくりと艶かしく時限式爆弾を拾い上げた白神博士は、両手にそれぞれ爆弾を持ったまま、真剣な顔で説明をしてくれた。
「大爆発?」
「そう、ドゥアイ・ヴァーク・ハーツ」
大爆発をなぜか英語っぽく発音しているけど、わたしはもちろん無視をする。
そんなわたしに白神博士は、もう一度「ドゥアイ・ヴァーク・ハーツ」と表情を変えずに言った。
当然、それもシカトしてやった。
「ドゥアイ・ヴァーク・ハーツ……」
今度は聞こえるか聞こえないかの小声でつぶやいてきたので、しょうがないからショートコントに付き合ってあげることにする。
「……そのドゥアイ・ヴァーク・ハーツは、どうやって起こすの?」
「大爆発はね、比乃子ちゃんがやるのよ。そう……〝自爆〟をしてね!」
急に普通の発音に戻しやがった白神博士の口から、耳を疑うような発言が飛び出てきた。
自爆のパワーワードからは、負のイメージしか想い描けない。
うら若きアイドル候補生の純粋無垢で可憐な美少女を簡単に自爆させる物語──それが『比乃子★えくすぷろーじょん』です。
「つまり、その……え? それじゃあ、わたしに死ねって言うの? 冗談じゃないわよ!」
頭にきて白神博士の胸ぐらを掴もうとしたけれど、相手が下着姿なので掴めるところは大きな乳肉くらいしかない。そんなことをしても博士が喜ぶだけなので、代わりに掛けている眼鏡のレンズを指で摘まんで指紋をたっぷりと付けてやった。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
案の定、本気で怒りはじめた白神博士は、レンズを綺麗にしようと両手の時限式爆弾を放り投げて眼鏡を外す。
女優でも十分に通用する美貌の持ち主なのに、その中身が真性ド変態なのが残念でならない。つか、爆弾を放り投げるなよ!
「DD、ハンカチ持ってない?」
「ソーリー、博士。オレはハンカチやティッシュを持ち歩かない主義なんだ。眼鏡クリーナーと専用のクロスならあるんだが……クソッ!」
「いいのよ、気にしないで。下着姿のあたしが全部悪いんだから」
結局、白神博士は戦闘員からハンカチを借りて眼鏡のレンズを拭いていた。
とにかく、ここから脱出する手段は、わたしが自爆するしかないらしい。
いまだに自分が不老不死とは信じられない。
けれども、変態たちに感化された思考回路が、自爆の選択肢に導かれていく。
「ねえ、白神博士。本当にわたしの身体は大丈夫なのよね?」
「えっ? あー、うん。大丈夫じゃないのぉ?」
綺麗に指紋を拭きとった眼鏡を掛け直しながら、白神博士が適当に返事をしやがる。
「……さっさと済ませて、早くお家に帰りたいんですけど」
「あー、うん。早く帰れるわよ」
身につけている下着の位置をただしながら、やっぱり適当に返事をしやがる白神博士のお尻を、わたしは容赦なく全力でひっぱたいてやった。
「あー、うん。ありがとうございます」
にも関わらず、特になんの反応もしない彼女に、不思議とわたしの決して小さくはない胸に切なさが込み上げてくる。
「オッケー! 脱出準備はできたぜ、白神博士!」
いつの間にかジャクソン伍長が、路線バスの車内にカッパたちを誘導し終えていた。
「それじゃあ、始めましょうか」
その言葉と同時に、力強いエンジン音が工事現場に響き渡る。と、白神博士とジャクソン伍長は、本気のダッシュでバスに乗り込んでいった。
「あっ……ねえ、待ってよ!」
続けて乗ろうとしたわたしの目の前で、バスの乗車口が普通に閉まる。嫌な予感しかしない。
「比乃子先生、よろしくお願いします!」
声がした方を見上げれば、白神博士と小さなカッパが、車窓から仲良く並んで顔を出している。ますます嫌な予感しかしない。
「よろしくって……」
「早く爆発してください!」
「はぁ!?」
「ドカンと一発、かましちゃってください!」
「どうやって大爆発すればいいのよ!? わたし、やり方なんて知らないし!」
「うふふ、ノープロブレム♡」
白神博士がニッコリと満面の笑みをみせた直後、数百メートル先の標的を狙うスナイパーみたいな鋭い目つきに早変りする。
そして、わたしのアイドル総選挙1位レベルの愛らしい顔面めがけて、硬式の野球ボールをおもいっきり投げつけた。
大爆発。
足もとの世界では、大きな国道沿いの一角が黒煙と炎を吹き上げ、次々と爆発を繰り返している。
そしてなぜか、一台のおんぼろなバスが立ち昇る煙の中から急に飛び出してきて、そのすぐ真横に落下して停車した。
あっ……危ない……。
早く逃げて……。
不思議な浮遊感のなかで、わたしは声を出そうとした。
けれども、なんの言葉も発することができない。
やがて、おんぼろなバスはゆっくりと動き始め、市街地ではなく山がある方へと走っていった。
よかった……無事みたい……。
『比乃子さん』
誰かに呼ばれた気がして、声のほうへ振り返る。
そこには、金色に輝く光に包まれた、カッパによく似た生き物が宙に浮かんでいた。
『我々の仲間を助けていただき、ありがとうございました』
カッパの仲間──そう言われても、わたしはなにも思い出せなかった。
『せめてもの御礼として、比乃子さんの身体は復活後、現在よりも数ランク上の美尻になっているはずです。キャッホイ♪』
美尻って……。
いや、むしろ胸を大きくしてくださいよマジで……。
『えっ? いやぁ~、我々は尻フェチでして♪ そっち関係のリクエストしか、そのう……なんか、すみません』
おまえらのフェチズムで、ひとの身体を勝手にいじるなよ……。
『あっ、もう時間です! 比乃子さん、本当にありがとうございましたっ!』
カッパが深々とお辞儀をした次の瞬間、視界いっぱいに真っ白な光が広がっていった──。
「ねえ、これで本当にバスを地上まで吹き飛ばせるの?」
身近な火薬類といえば、花火セットしか知らない。この爆弾がどれほどの破壊力を持っているのか、わたしには見当がまるでつかなかった。
そもそも冷静に考えると、こんな御歳暮の特盛りみたいなサイズで回転寿司店を爆破させること自体が怪しい。
「爆弾は、ソレ用に使うんじゃないのよねぇー」
「えっ? じゃあ、なんのために……」
意味深に含み笑いをみせた白神博士は、広場中央に置かれた風呂敷へと優雅に歩いて近づいていく。
その時に初めて、彼女が穿いているショーツのお尻部分がTバックだったことに気がついた。もう手遅れかもしれないけれど、カッパたちに悪影響が及ばないことを祈るばかりだ。
「これはね、大爆発が路線バスに与える影響を最小限に抑えるために使うのよ」
形が綺麗なお尻を(わたし限定で)見せつけるようにして、ゆっくりと艶かしく時限式爆弾を拾い上げた白神博士は、両手にそれぞれ爆弾を持ったまま、真剣な顔で説明をしてくれた。
「大爆発?」
「そう、ドゥアイ・ヴァーク・ハーツ」
大爆発をなぜか英語っぽく発音しているけど、わたしはもちろん無視をする。
そんなわたしに白神博士は、もう一度「ドゥアイ・ヴァーク・ハーツ」と表情を変えずに言った。
当然、それもシカトしてやった。
「ドゥアイ・ヴァーク・ハーツ……」
今度は聞こえるか聞こえないかの小声でつぶやいてきたので、しょうがないからショートコントに付き合ってあげることにする。
「……そのドゥアイ・ヴァーク・ハーツは、どうやって起こすの?」
「大爆発はね、比乃子ちゃんがやるのよ。そう……〝自爆〟をしてね!」
急に普通の発音に戻しやがった白神博士の口から、耳を疑うような発言が飛び出てきた。
自爆のパワーワードからは、負のイメージしか想い描けない。
うら若きアイドル候補生の純粋無垢で可憐な美少女を簡単に自爆させる物語──それが『比乃子★えくすぷろーじょん』です。
「つまり、その……え? それじゃあ、わたしに死ねって言うの? 冗談じゃないわよ!」
頭にきて白神博士の胸ぐらを掴もうとしたけれど、相手が下着姿なので掴めるところは大きな乳肉くらいしかない。そんなことをしても博士が喜ぶだけなので、代わりに掛けている眼鏡のレンズを指で摘まんで指紋をたっぷりと付けてやった。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
案の定、本気で怒りはじめた白神博士は、レンズを綺麗にしようと両手の時限式爆弾を放り投げて眼鏡を外す。
女優でも十分に通用する美貌の持ち主なのに、その中身が真性ド変態なのが残念でならない。つか、爆弾を放り投げるなよ!
「DD、ハンカチ持ってない?」
「ソーリー、博士。オレはハンカチやティッシュを持ち歩かない主義なんだ。眼鏡クリーナーと専用のクロスならあるんだが……クソッ!」
「いいのよ、気にしないで。下着姿のあたしが全部悪いんだから」
結局、白神博士は戦闘員からハンカチを借りて眼鏡のレンズを拭いていた。
とにかく、ここから脱出する手段は、わたしが自爆するしかないらしい。
いまだに自分が不老不死とは信じられない。
けれども、変態たちに感化された思考回路が、自爆の選択肢に導かれていく。
「ねえ、白神博士。本当にわたしの身体は大丈夫なのよね?」
「えっ? あー、うん。大丈夫じゃないのぉ?」
綺麗に指紋を拭きとった眼鏡を掛け直しながら、白神博士が適当に返事をしやがる。
「……さっさと済ませて、早くお家に帰りたいんですけど」
「あー、うん。早く帰れるわよ」
身につけている下着の位置をただしながら、やっぱり適当に返事をしやがる白神博士のお尻を、わたしは容赦なく全力でひっぱたいてやった。
「あー、うん。ありがとうございます」
にも関わらず、特になんの反応もしない彼女に、不思議とわたしの決して小さくはない胸に切なさが込み上げてくる。
「オッケー! 脱出準備はできたぜ、白神博士!」
いつの間にかジャクソン伍長が、路線バスの車内にカッパたちを誘導し終えていた。
「それじゃあ、始めましょうか」
その言葉と同時に、力強いエンジン音が工事現場に響き渡る。と、白神博士とジャクソン伍長は、本気のダッシュでバスに乗り込んでいった。
「あっ……ねえ、待ってよ!」
続けて乗ろうとしたわたしの目の前で、バスの乗車口が普通に閉まる。嫌な予感しかしない。
「比乃子先生、よろしくお願いします!」
声がした方を見上げれば、白神博士と小さなカッパが、車窓から仲良く並んで顔を出している。ますます嫌な予感しかしない。
「よろしくって……」
「早く爆発してください!」
「はぁ!?」
「ドカンと一発、かましちゃってください!」
「どうやって大爆発すればいいのよ!? わたし、やり方なんて知らないし!」
「うふふ、ノープロブレム♡」
白神博士がニッコリと満面の笑みをみせた直後、数百メートル先の標的を狙うスナイパーみたいな鋭い目つきに早変りする。
そして、わたしのアイドル総選挙1位レベルの愛らしい顔面めがけて、硬式の野球ボールをおもいっきり投げつけた。
大爆発。
足もとの世界では、大きな国道沿いの一角が黒煙と炎を吹き上げ、次々と爆発を繰り返している。
そしてなぜか、一台のおんぼろなバスが立ち昇る煙の中から急に飛び出してきて、そのすぐ真横に落下して停車した。
あっ……危ない……。
早く逃げて……。
不思議な浮遊感のなかで、わたしは声を出そうとした。
けれども、なんの言葉も発することができない。
やがて、おんぼろなバスはゆっくりと動き始め、市街地ではなく山がある方へと走っていった。
よかった……無事みたい……。
『比乃子さん』
誰かに呼ばれた気がして、声のほうへ振り返る。
そこには、金色に輝く光に包まれた、カッパによく似た生き物が宙に浮かんでいた。
『我々の仲間を助けていただき、ありがとうございました』
カッパの仲間──そう言われても、わたしはなにも思い出せなかった。
『せめてもの御礼として、比乃子さんの身体は復活後、現在よりも数ランク上の美尻になっているはずです。キャッホイ♪』
美尻って……。
いや、むしろ胸を大きくしてくださいよマジで……。
『えっ? いやぁ~、我々は尻フェチでして♪ そっち関係のリクエストしか、そのう……なんか、すみません』
おまえらのフェチズムで、ひとの身体を勝手にいじるなよ……。
『あっ、もう時間です! 比乃子さん、本当にありがとうございましたっ!』
カッパが深々とお辞儀をした次の瞬間、視界いっぱいに真っ白な光が広がっていった──。
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