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新しい比乃子、爆誕!

第7話 大幹部と乙女なわたし

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「オレたちは秘密結社〈スカルコブラー〉。世界征服を目前に控える、悪のスーパースターなのさ」

 ジャクソン伍長の瞳が不敵な笑みと共に、深紅の妖しいかがやきを放つ。
「ターミ〇ーターかよ」とツッコミを入れようか迷ったけど、やめておいた。

「秘密……結社……」

 本当にそんなのがあったんだ。
 言われてみれば何日か前に、〝悪の組織と戦う正義の味方〟ってタイトルの動画がY〇uTubeにアップされて、特撮系のマニアックなネット掲示板でちょっとした話題になっていた。

「ヘイ、シスター。おまえも改造人間なら、おとなしく従ってスカルコブラー総統に忠誠を──」

 喋り終えるよりも速く、わたしの会心の飛び膝蹴りがジャクソン伍長の顔面に炸裂する。
 その衝撃で首があらぬ方向へと曲がったジャクソン伍長は、そのまま数歩うしろによろけてから、大の字になって倒れた。

「ふうっ……」

 乱れた右サイドの髪を耳に掛けながら、わたしはゆっくりと立ち上がる。
 小学生の頃から、通学途中に小鳥たちが頭上で「おはよう比乃子ちゃん♪」の挨拶をしてくる幻聴に悩まされ続けるくらいに純情可憐な乙女のわたしが、ここまで暴力的になるなんて絶対にあり得ない。やっぱり、狂暴で凶悪な改造人間にされたのは間違いがないみたいだ。
 エレベーターを見ると、まだ開いたままで、そこからなんとか逃げられそうだった。

「──さてと、帰りますか!」

 お尻に食い込んだ下着ショーツの位置を黒タイツの上からそっと直す。と、

「ぐが……ぐががががごがご……」
「……はい?」

 立ち去ろうとするわたしの背後から奇妙な声がしたので、恐る恐る振り返ってみる。
 もがき苦しむジャクソン伍長の全身から煙が吹き出し、その姿を変えようとしていた!

「うっわ、キモっ!」
「ぐががが……ガガガ……ガルルルルッ!」

 ジャクソン伍長の姿が、水をぶっかけたドライアイスみたいな白煙に包まれて完全に見えなくなる。そして、野郎のうめき声が獣の唸り声に変わっていった。

「ええっ!? ちょっ……ええっ!?」
「ガルルルルッ! ガァァァァァァァッ!!」

 やがて煙の中から、黒豹の顔をした古代ローマの戦士みたいな鎧を身につけた大男が現れる。なんなのよ、これ!? スーパーイリュージョン的なマジック!?

「我こそは〈スカルコブラー〉の大幹部、バトルパンサー!」

 さらに明度を増した両眼の輝きは、燃えさかる炎のように真っ赤だった。大きく開かれた口からも、鋭い牙をつたってよだれが滴り落ちる。
 まさに悪役……まさに改造人間……最悪な展開に、全身が強張って動けない。
 変身するなんて聞いてないし!
 絶対に素手で勝てっこないじゃないのよ!

「あの……DDさん? き、機嫌をなおしてくれYO!」

 なんとかこの場を乗り切りたいわたしは、ラッパーみたく両手を交差させながら腰も上下に動かしていた。
 恥ずかしさはない。
 ただ、必死だった。
 単純に生きておうちに帰りたかった。

「ガルルルル……シスター、お遊びはこれまでだ。おまえも変身して、早く勝負をつけようぜ」
「へ、変身なんてしたことないし! お化粧だってケバくないし!」

 涙目で後退あとずさりながら、ボクサーみたく身構えてみる。
 こんなことなら小学生の時にピアノや水泳じゃなくて、なにか格闘技や暗殺術を習っておくんだったと超後悔した。

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