比乃子★えくすぷろーじょん! ~悪の大幹部でもアイドルになれますか?~

黒巻雷鳴

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新しい比乃子、爆誕!

第6話 地下訓練場

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「おい、おまえ──」

 ああ……とうとう正体がバレちゃった!

「そのタイツの肩部分の色あせ具合い……おまえ、改造人間だな!」

 ええっ?! そっちなの!?
 それで改造人間ってわかるんだ!?
 凄くね!? それって凄くね!?

「だったら、世間にどれだけの改造人間がいるんだよ!」

 わたしはツッコミもかねて、ジャクソン伍長の頬を全力でビンタした。
 だけどそれは残像で、ジャクソン伍長のいやらしい笑顔と共に消えてしまう。

「えっ……なに? ウソでしょ!?」
「フッフッフ、こっちだぜシスター」

 背後から不気味な声が聞こえたかと思えば、わたしのナイスバディは背中からバーベルみたく軽々とジャクソン伍長の頭上高くまで持ち上げられる。

「きゃあ?! ちょっ……どこ触ってんのよ、このスケベ変態野郎!」
「ハッハッハー! アイアム、ビッグ・マグナーム!」

 高らかに笑うジャクソン伍長は、持ち上げたわたしをそのまま何度か上下に動かし、三メートル先のスカルコブラー総統めがけて豪快に投げ落とした。

「きゃあああああああッ!」
『なっ、なんでぇぇぇぇぇッ!?』

 女子トイレ前の狭い空間に、鈍い音と悲鳴が同時に響き渡る。
 幸い、スカルコブラー総統のやわらかな胸がクッションになって、わたしは大怪我をしないで済んだ。オッパイの大切さと偉大さに感謝。

たたた……なんなのよ、もう……地味にお腹が痛いし」

 わたしの下敷きになって動かなくなった銀仮面の両眼が、チカチカと赤く明滅している。
 どうやら、なにかの機能がぶっ壊れたみたいだ。

「これ以上手荒い真似はしたくないぜ。シスター、おとなしくしてもらおうか」
「ちょっと……やめ……痛いってば!」

 気を失っているスカルコブラー総統をそのままに、ジャクソン伍長は、嫌がるわたしをエレベーター前まで強引に連れていった。
 夢なのに全身がめっちゃ痛い。
 もしかしたらこれは現実で、本当にわたしは改造人間にされたのかもしれない。
 ジャクソン伍長の右手親指が金属パネルにポチッとれると、エレベーターが静かに作動して扉がひらく。

「やめ……痛いってば、もう!」

 わたしの腕を強く引きながら先に乗り込んだ真顔のジャクソン伍長が、今度は地下十階のボタンを押した。

(地下十階って……マジかよ……)

 この謎の施設は、思いのほか大きな建物のようだ。

 こんなふざけたやつらなのに、一体どこからこんな資本が集まるんだろう。
 考えてみれば、悪役って、みんなお金持ちじゃないだろうか。
 地球侵略が目的の宇宙人だって、遠路はるばるやって来るんだし、富裕層としかとても思えない。
 指令を受けた軍隊だったとしても、潤滑な経済力があってこその特殊任務なんじゃないかな。だからきっと、その惑星ほしのやつらはパリピに違いない。

 そんなどうでもいい妄想を膨らませていると、エレベーターが止まって扉がふたたび開いた。

「うわっ……なによ、これ!?」

 思わず声が漏れたわたしをよそに、ジャクソン伍長は無理矢理に腕を引いて前へと進む。
 そこにあったのは、どこまでも果てしなく広がる無機質な景色。
 天井も見上げる首が痛くなるほど高く、地下十階のそこはまるで、首都圏外郭放水路のような大きな空間だった。

「ここは、訓練場だ」

 わたしの顔を見ることもなく、なんかカッコ良く告げるジャクソン伍長。

「訓練場……」

 嫌な予感が頭をよぎる。
 次の瞬間、ジャクソン伍長がわたしの右手首を両手で掴んだかと思えば、砲丸投げの選手のようにクルクルとその場で大回転し、か弱いわたしを訓練場の中央へとぶん投げた!

「えっ────きゃあああああああああぁぁぁ! んべぶるっペポッ?!」

 宙を舞ったわたしのナイスバディが容赦なく床に叩きつけられ、勢いもそのままに無様に転がる。めくれ上がったタイツ生地のマスクが鼻や口を塞いで、窒息死しそうになった。

「ンフ……ガッ………………ぷはあっ!」

 全身が激痛に襲われる。それでもマスクを外して一命を取り止めたわたしは、このままでは殺されると思い、なんとか起き上がって必死に武器を探した。
 周囲にはなにもなかったので、腰ベルトにある革製のポーチを開けてみる。中には五十円玉と十円玉の小銭が九十円分と、個包装の大根しょうがのど飴が一粒だけ入っていた。

「なによこれ……おばあちゃんの鞄の中身かよ!」

 こんなんで、屈強なジャクソン伍長相手に戦えるはずがない。

 万事休す。

 きっとこれから、身につけている黒タイツがビリビリに破かれて、エッチな物語のヒロインみたく、股関節の可動ギリギリのところまで両足を強引に広げられたり、ゲス顔をした不特定多数の戦闘員に向けて、お尻を突き出した恥ずかしい格好をさせられたりするんだ。
 敗北はまさに、乙女の貞操の危機を意味していた。

「さあ、本気を出してもらおうか」

 ゆっくりと近づいてくるジャクソン伍長。冷徹な靴音が、二人きりの訓練場に木霊する。

「本気って……あの、わたしはただの美少女高校生なだけで……ううっ……一体あなたたちは、なんなんですか!?」

 精一杯の大声を張り上げたら、自然と涙がにじんだ。
 こんなんじゃない。
 わたしの高校生活は、こんなんじゃない。
 なんで頭のおかしいやつらに拉致られて、改造までされなきゃいけないのよ。
 だんだんと怒りが込み上げてきて、とうとう涙がこぼれ落ちた。

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