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新しい比乃子、爆誕!

第1話 ドキドキ★モーニング

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 不快な熱気に包まれて目を覚ます。
 真っ白いクロス張りの天井が見えた。
 なにも変わらない。
 いつもと同じ、いつもの景色。
 ここは、わたしの部屋だ。

「ジャクソン伍長って誰だよ……」

 独りごちてクシュクシュに寝癖のついた髪をき上げ、ベットから降り立つ。
 目覚まし時計を確認してシャワーを浴びるのを諦めたわたしは、寝汗で濡れたTシャツやスエットのズボンを脱いで下着を替えると、壁に掛けてあった学制服を手に取った。
 高校はもちろん、かわいい制服の学校ところへ行こうと決めていた。
 中学校の先生からも「この偏差値なら問題ないでしょう」と太鼓判を押されていたので、難なくかわいい制服の高校へ無事に入学ができた。
 淡い水色のスクールシャツに深紅の小振りなリボンタイを通す。膝上十センチの赤系チェック柄プリーツスカートからは、我ながら細くて長い足が華麗に伸びる。

「よし、今日もかわいい!」

 毎朝唱える魔法の呪文。
 パイン材フレームの姿見に映るわたしが、今日もはつらつに笑ってこたえてくれた。
 そして、いつもどおりの時間に部屋のドアを開け、美味おいしそうな朝食のにおいに導かれてリビングへ向かう。
 食卓には、卵が二個の目玉焼き、大きなチーズ入りソーセージとフルーツトマトが入ったサラダ、それと、香ばしく焼かれたカリカリのクロワッサンも添えられていた。

「わーお、ボリューミー」

 着席しながらつぶやくわたしに、対面キッチンからお母さんが笑顔をのぞかせる。

「今日から比乃子ひのこちゃんは高校生なんだし、朝食はしっかりとって、栄養をつけなきゃね!」

 そう言いながらお母さんは、かわいらしくウィンクまでして、オレンジジュースの入ったコップをテーブルに置いてくれた。その瞬間、わたしの胸もとを見たような気がしたのは、絶対に気のせいじゃないだろう。
 うちのお母さんは、細身でありながらFカップもあるのに、なぜかわたしはAカップしかない。「比乃子ちゃんだって、これから大きくなるわよ。お母さんも……その……小学四年生くらいまでは、胸が全然なかったし!」などと、なんの慰めにもならない言葉をかけられて今日まで生きてきた。
 けれど、わたしが受け継いだはずの爆乳遺伝子は、いまだに片鱗すら覚醒してくれていない。
 記念すべき高校デビューの朝は、涙を浮かべながらオレンジジュースを一気飲みして開始スタートした。


     ★


 朝食で膨れたお腹のまま走りたくないから時間に余裕をもたせて家を出たけれど、エレベーターが故障してしまっているのか、何度ボタンを押してもまるで反応がなかった。

「うっそーん……」

 しょうがないので、七階から一階まで階段で降りることにする。食後の運動だと思えば、そこまで悪くないサプライズだ。

 自宅マンションから駅までの十五分間、ゆったりと朝の空気を吸いながら、何度も通いなれた道を歩く。高校生になったからか、ちょっとだけ、いつもの景色が違って見えた気がした。こうして人は、大人になってゆくのだろう。
 因みに、わたしの人生設計だと、在学中に芸能事務所にスカウトされ、アイドルグループのセンターとして長期間君臨する予定だ。
 そして、そこで渦巻く薄汚い大人たちの権力を笠に、美少女たちのハーレムを作りたい。「あなた、知ってる? この業界でスポットライトを浴びてかがやきたいなら、どうすればいいのか……わたしが教えてあげるね……クスッ♡」とか、言ったりなんかしちゃったりして、次から次へと後輩アイドルたちを毒牙にかけるんだグヘヘ。
 などと、明るい未来を想像して一人にやけるわたしを見て、ランドセルを背負った小学校低学年くらいの男の子たちが、あからさまにドン引いて全速力で逃げだす。
 いやいやいや、怖くないからね? お姉さんは、ただの通りすがりの美少女高校生ですから!
 心の中で、そう語りかけた直後だった。


 キィキィィィィィィッ‼


「ふぇ?」

 視界の隅に、大きなワゴン車が急停車したかと思えば、中から全身黒タイツ姿の男たちが次々に降りてきて、突然目の前が真っ暗になった。



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