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彼女とあたしとシックス・センス

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 野球部に陸上部、サッカー部などの運動部が連なる中に、その部室はあった。
 文化部唯一の屋外部室──〈超科学研究部〉に呼び出されたのは、ふたりの女子高校生。
 桐島きりしま茉奈まな(褐色肌)と乃田のだはつ(隠れ巨乳)、共に1年生の帰宅部である。

「茉奈ちゃん、わたしたちに関係がある大事な話って、なんだろうね?」
「あたしに訊かれても困るけど……でもさぁ、3年生に呼び出しくらったらフツー断れないっしょ」

 何ひとつ身に覚えがなくても、上級生には逆らわない。円滑に学生生活を過ごすための秘訣でもある。
 先頭を行く茉奈は、適当にノックをしてから返事を待たずにドアを開けた。

「失礼しまーす……ん? 誰もいないし」

 明かりが点いたままの部室の中央には、くっつけられたニ台の折りたたみ机とパイプ椅子が左右均等に三脚ずつあるだけで、人の気配はまるでなかった。

「どうする初音? 帰る?」
「う~ん……せっかく来たんだし、中に入って少しだけ待ってみようよ」
「えーっ、早く帰ろうよぉー」

 茉奈は、眉根を寄せながら部室内に足を踏み入れると、パイプ椅子のひとつにドシンと腰掛けた。

「もう、茉奈ちゃんたら勝手に座って……」

 そう言いつつ、初音も反対側のパイプ椅子に座る。
 どうせ怒られるなら、ふたり一緒のほうがいいと考えての、彼女なりの優しさだった。

「だってさぁ、呼んどいていないなんてあるぅ? いまこの時間がもったいないつぅーの!」

 頬杖をついた姿勢のまま、気だるそうに愚痴る茉奈の様子に初音が微笑ほほえみを返したその瞬間──何かの物音が、壁際に設置されている両開きの大きなロッカーの中から聞こえた。

「……なに?」
「あのロッカーから聞こえた……よね?」
「こわっ……ラップ現象ってヤツ?」
「ええっ!? 怖いこと言わないでよぉ、茉奈ちゃん!」

 おびえるふたりは、また何かしら起きるのではないかとロッカーを凝視する。扉の張り紙には〝備品は大切にしましょう〟と書かれていた。

「あー……その、アレだよ……誰も戻って来そうにないしさ、そろそろ帰らない?」
「う……うん、そうだね」

 阿吽の呼吸で立ち上がったふたりは、パイプ椅子をもとの位置に戻してからドアへ向かおうとする。
 と、同時に、ロッカーの扉が内側から勢いよく開いた。
 そして中から現れたのは、〈超科学研究部〉3年生部長・眼火丸めかまる省子しょうこ(眼鏡)。研究部員らしく、その装いは学生服の上に純白のドクターコートを羽織っていた。

「ええっ……」
「あの……眼火丸先輩、そのう……なんでそんな所に隠れていたんですか?」
「気にするな、とくに意味はない。とりあえず、もう一度そこに座ってくれたまえ」

 お互いに顔を見合わせた茉奈と初音は、渋々、ふたたびパイプ椅子へと座る。

「先輩、あたしたちこう見えても忙しいんで、話しがあるなら手短にお願いしますよ」
「ふむ。では単刀直入にたずねるが、キミたちがいま穿いているパンツの色は、桐島が白で乃田は水色……違うか?」
「なっ?!」
「あ……あの、突然なんなんですか!?」

 赤面するふたりを見下ろす省子。意味深に口角を上げて会話を続ける。

「その様子だと正解のようだな。ふっふっふ、第一の実験は成功……と」

 満足そうにうなずきながら、省子は白衣のポケットからメモ帳とボールペンを取り出して〝パンツ○〟と記入した。

「では、次の質問だ。キミたちは恋人同士で、肉体関係があるな?」
「先輩ッ!」

 茉奈が机の天板を両手で叩いて立ち上がる。
 その眼つきは鋭く、歯も剥き出しになって全身が怒気に満ちていた。
 一方の初音は、顔を伏せているために表情は前髪に隠れてうまく読み取れない。

「さっきからおかしな事ばかり訊いてきて、あたしたちにケンカ売ってるんですか!?」
「そう怒るな桐島、説明させてくれ。これは人間の〝第六感〟を証明するために必要な実験なんだ」
「第六感? なんですか、それ?」
「我々の身体からだには視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感がそなわっているわけだが、それとは別の、第六感が存在すると言われている」
「……んん? つまり、さっきの質問といったいどんな関係が?」
「うむ。第六感はインスピレーションとも言われている。砕いて説明すると、直感だな」
「要するに、勘だけで失礼な事を訊いていたんですね? 茉奈ちゃん、帰ろう」
「あっ、おい! まだ実験の途中──」

 バタンと、大きな音をたてて部室のドアが閉められる。
 ひとり残された省子は、メモ帳に〝肉体関係○〟と書き加えた。





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