6畳間のお姫さま

黒巻雷鳴

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姫君降臨

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 おひめさまが蛇口じゃぐちをひねってえたマグカップを水道水すいどうすいけると、にぶ物音ものおと浴室よくしつのほうからこえてきました。

 お風呂ふろ掃除そうじでもしているのかな?
 足音あしおとしのばせるようにして、おひめさまはそちらへとゆっくりかいます。すると、物音ものおとがまたこえてきました。

「おかあさん」そうドアしにこえをかけようとした、まさにそのときです。おひめさまは、異変いへんづきました。

 浴室よくしつからこえてきたのは掃除そうじをしている物音ものおとではなく、なにかをむさぼるような……けもの獲物えもの咀嚼そしゃくしているおとのようにこえたのです。

 ありないはなしでしたが、もしかしたら自分じぶん母親ははおや化物バケモノわれているのではないかと、おひめさまは真剣しんけんかんがえていました。創作物そうさくぶつぎなのかもしれませんが、いまはそうおもえる状況じょうきょうだったのです。

 おひめさまは、神妙しんみょう面持おももちで浴室よくしつのドアをしずかにけます。

 ガチャ……漫画マンガみたいな擬音ぎおんが、またみみとどきました。

 浴室内よくしつないは、清潔せいけつたもたれたままの水滴すいてきひとつない綺麗きれい状態じょうたいで、おかあさんや化物バケモノ姿すがたおと原因げんいんなどはつけられませんでした。とくにわった様子ようすはありませんでしたが、おひめさまはねんのため、もう一度いちどてからドアをめました。

 かえると、愛犬あいけんのモモが元気げんき尻尾しっぽってちかづいてきたので、おひめさまは満面まんめん笑顔えがおせてげました。ペットフードのにおいなのか、モモのくちもとはとても生臭なまぐさかったのですが、おひめさまはべつにしませんでした。

 そのままモモをきかかえて台所だいどころかうと、突然とつぜんリビングの電話でんわひびきます。

 何事なにごともないようにおん無視むししたおひめさまは、食卓しょくたく椅子いすにちょこんとすわり、モモとじゃれあいはじめました。やがて、電話機でんわきから〝ピーッ〟と発信音はっしんおんって、相手あいてからのメッセージが自動的じどうてき録音ろくおんされます。


『ガフッ、グチャッ、ジュルルル……』


 それは、浴室よくしつからこえてきた咀嚼音そしゃくおんとまったくおなじものでした。規則的きそくてきに、なにかをむさぼるようなおとつらなり……おひめさまが愛犬あいけん前足まえあしいじりながらっていると、小首こくびかしげるモモといました。

 おひめさまはモモをゆかろしてから、すたすたと2階にかい自室じしつもどります。すりをつたいながら階段かいだんのぼっている最中さいちゅう、またリビングの電話でんわひびきましたが、今度こんどはすぐにれてしまいました。

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