６畳間のお姫さま

お姫さまの嗜み

１

　そんなある日ひのことです。眠ねむりから目覚めざめたお姫ひめさまは、白しろいふわふわのベッドからのんびり降おりて、細ほそくて綺麗きれいな素足すあしを桃色ももいろの絨毯じゅうたんに着つけました。

　まだ眠ねむたそうにして目めをこすりながらあたりを見渡みわたすと、きょうも室内しつないは、なにも変かわらない景色けしきでした。窓まどは花柄はながらの遮光しゃこうカーテンと純白じゅんぱくのレースカーテンに覆おおわれていて、外そとの世界せかいからの光ひかりが閉とざされています。まさに、遮断しゃだんされておりました。

　お姫ひめさまは誰だれに言いわれるでもなく、そっと立たち上あがってから部屋へやの中央ちゅうおうまで歩あるき、スルリと、優雅ゆうがにパジャマを脱ぬぎ始はじめます。

　なにせ、お姫ひめさまです。寝巻ねまき姿すがたのままでは、はしたないのです。ただ、脱ぬいだパジャマをベッドに投なげ捨すてるので、はしたないことには変かわりありませんでしたが……

　パジャマを脱ぬぎ終おえたら、次つぎは部屋着へやぎに着替きがえます。白しろいクロスの壁かべに掛かけてある、私立しりつ中学校ちゅうがっこうのセーラー服ふくへと着替きがえるのです。

　もちろん、お姫ひめさまは中学校ちゅうがっこうへ行いったことなどありません。不服ふふくでしたが、お姫ひめさまは自分じぶんの強つよい意思いしで行いかないのです。でも、着きないでいるとセーラー服ふくがかわいそうなので、せめてもと思おもい、この学生服がくせいふくをお姫ひめさまである自分じぶんの部屋着へやぎとしていました。

　着替きがえを済すませれば、今度こんどは姿見すがたみの前まえで、腰こしまで伸のびている黒髪くろかみを丁寧ていねいにお気きに入いりのヘアブラシで整ととのえます。そのヘアブラシは、今いまは遠とおく離はなれて暮くらしているお父とうさんが買かってくれたもので、大好だいすきな犬いぬのキャラクターが描えがかれていました。

　何度なんども何度なんども、納得なっとくがいくまで丁寧ていねいに髪かみをとかしたお姫ひめさまは、それから勉強机べんきょうづくえに向むかいます。

　それは、きのうと同おなじく、日記にっきを書かき綴つづるためでした。