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第2幕
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わたしの肩が揺さぶられる。
まだ眠っていたい、どうか起こさないで。
だけど、それは許されない。
なぜなら、きょうから高校の新学期が始まるからだ。
「希望、起きなさい!」
わたしの肩になれなれしく触れているのは、年齢がそんなに離れていない義理の母親だ。
「ん……うるさい……もう少し寝かせてよ……」
「希望、いいかげんに起きなさい! お父さんも朝御飯を食べないで待っててくれてるんだから!」
掛け布団を掴む動きが相変わらずしつこい。そろそろ起きなきゃ、今度は父親を呼んで部屋に戻ってくるはずだ。
「わかったって……起きればいいんだろ……」
渋々起きあがったわたしの寝癖頭を、義母が「早く早く!」とせかして手櫛で整えようとしてくる。
「おまえ、やめろよマジで! 勝手に他人の髪に触るなって!」
大声で怒鳴りながら睨みつけてやれば、そんなわたしに怯んだのか、血相を変えて一歩だけ後ずさる。
ざまあみろ。
このままどこか遠くへ行ってしまえ。
「は、早く支度を済ませて下りてらっしゃい……!」
視線を合わさずにそう言うと、遠くへ行く代わりに部屋を逃げ出していった。
「チッ、うっせーんだよ」
突然現れたかと思えば、勝手に妹を産みやがって──高校を卒業したら、絶対にこんな家を出ていってやる。
だらだらと故意に時間をかけて登校の準備を終えてから一階のダイニングキッチンに着いた頃には、誰の姿も見えなくなっていた。
あの女は妹を連れて保育園へ、父親は遠距離通勤だから駅にもう向かっているはずだ。
冷めてしまったフレンチトーストに噛じりつきながら、一人物思いに耽る。
元々病弱だったお母さんは、わたしを産んですぐに亡くなってしまった。
そして、ひとまわり以上歳が離れた姉は、わたしと同じ高校生の時に行方不明になってしまったままだ。
当時は警察や学校関係者、町内会の人たちも手伝って探してはくれたみたいだけど、十年以上経った今でも、まったく消息が掴めないままだった。
失踪した理由はわからない。けれども、きっとなにか、人には言えない特別な事情があったに違いない。
そうでなければ、あんなに優しい加奈子お姉ちゃんが、わたしを置いて居なくなるなんてあり得ないからだ。
今もどこかで無事に暮らしていて、もしかすると、わたしを連れ出してくれるかもしれない。
そう信じて、そう願ってわたしは、この家で孤独にきょうも生きていた。
朝食の後片付けを簡単に済ませてから、玄関に置いておいた黒いリュックサックを背負う。
通学用に大きめのサイズを買ったけど、中身がごちゃごちゃしてしまうのが悩みの種だ。やっぱり小物を仕分けられるヤツを選ぶべきだったと、今さらながら後悔しても遅い。つぎからは気をつけて、もっと慎重に選びたいと思う。
「ふうっ……」
スニーカーの紐を結び終えて立ちあがり、その場で振り返る。
わたしの後ろには、同じ高校の制服を着た加奈子お姉ちゃんが立っていた。
不思議な話だけど、小さな頃からわたしにだけは、行方不明になったお姉ちゃんの姿が見えている。
もちろん、父親やほかの誰にも話したことはない。もしも人に話したら、この素敵な現象が、魔法が解けるように消えてなくなってしまうんじゃないかなって、そう思っているからだ。
「いってきます!」
いつもどおりお姉ちゃんのまぼろしに笑顔で手を振ってから、玄関のドアを開ける。
空は快晴で、雲ひとつ見えない。
きっとこの広い青空の下で、加奈子お姉ちゃんは元気に過ごしていることだろう。
そしていつの日か必ず、姉妹一緒に仲良くまた暮らせるはずだ。
まだ眠っていたい、どうか起こさないで。
だけど、それは許されない。
なぜなら、きょうから高校の新学期が始まるからだ。
「希望、起きなさい!」
わたしの肩になれなれしく触れているのは、年齢がそんなに離れていない義理の母親だ。
「ん……うるさい……もう少し寝かせてよ……」
「希望、いいかげんに起きなさい! お父さんも朝御飯を食べないで待っててくれてるんだから!」
掛け布団を掴む動きが相変わらずしつこい。そろそろ起きなきゃ、今度は父親を呼んで部屋に戻ってくるはずだ。
「わかったって……起きればいいんだろ……」
渋々起きあがったわたしの寝癖頭を、義母が「早く早く!」とせかして手櫛で整えようとしてくる。
「おまえ、やめろよマジで! 勝手に他人の髪に触るなって!」
大声で怒鳴りながら睨みつけてやれば、そんなわたしに怯んだのか、血相を変えて一歩だけ後ずさる。
ざまあみろ。
このままどこか遠くへ行ってしまえ。
「は、早く支度を済ませて下りてらっしゃい……!」
視線を合わさずにそう言うと、遠くへ行く代わりに部屋を逃げ出していった。
「チッ、うっせーんだよ」
突然現れたかと思えば、勝手に妹を産みやがって──高校を卒業したら、絶対にこんな家を出ていってやる。
だらだらと故意に時間をかけて登校の準備を終えてから一階のダイニングキッチンに着いた頃には、誰の姿も見えなくなっていた。
あの女は妹を連れて保育園へ、父親は遠距離通勤だから駅にもう向かっているはずだ。
冷めてしまったフレンチトーストに噛じりつきながら、一人物思いに耽る。
元々病弱だったお母さんは、わたしを産んですぐに亡くなってしまった。
そして、ひとまわり以上歳が離れた姉は、わたしと同じ高校生の時に行方不明になってしまったままだ。
当時は警察や学校関係者、町内会の人たちも手伝って探してはくれたみたいだけど、十年以上経った今でも、まったく消息が掴めないままだった。
失踪した理由はわからない。けれども、きっとなにか、人には言えない特別な事情があったに違いない。
そうでなければ、あんなに優しい加奈子お姉ちゃんが、わたしを置いて居なくなるなんてあり得ないからだ。
今もどこかで無事に暮らしていて、もしかすると、わたしを連れ出してくれるかもしれない。
そう信じて、そう願ってわたしは、この家で孤独にきょうも生きていた。
朝食の後片付けを簡単に済ませてから、玄関に置いておいた黒いリュックサックを背負う。
通学用に大きめのサイズを買ったけど、中身がごちゃごちゃしてしまうのが悩みの種だ。やっぱり小物を仕分けられるヤツを選ぶべきだったと、今さらながら後悔しても遅い。つぎからは気をつけて、もっと慎重に選びたいと思う。
「ふうっ……」
スニーカーの紐を結び終えて立ちあがり、その場で振り返る。
わたしの後ろには、同じ高校の制服を着た加奈子お姉ちゃんが立っていた。
不思議な話だけど、小さな頃からわたしにだけは、行方不明になったお姉ちゃんの姿が見えている。
もちろん、父親やほかの誰にも話したことはない。もしも人に話したら、この素敵な現象が、魔法が解けるように消えてなくなってしまうんじゃないかなって、そう思っているからだ。
「いってきます!」
いつもどおりお姉ちゃんのまぼろしに笑顔で手を振ってから、玄関のドアを開ける。
空は快晴で、雲ひとつ見えない。
きっとこの広い青空の下で、加奈子お姉ちゃんは元気に過ごしていることだろう。
そしていつの日か必ず、姉妹一緒に仲良くまた暮らせるはずだ。
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