ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

黒巻雷鳴

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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

どこまでも続く世界

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 あれから、ウエストポーチにしまっていたお金で王都へ無事に帰れたまでは良かったんだけど、やっぱりパパにめちゃくちゃ怒られて大喧嘩になった。
 言い争いが絶頂に達して親子の縁が切られそうになったまさにそのとき、後任の光の女神が現れてパパを説得してくれた。
 赤ちゃんの父親が光の勇者だと知った途端、手のひらを返したみたいに態度を急変させたのには呆れたけど、たったひとりの肉親だし、和解できて本当に良かったと現在いまは心から思う。

 ミメシスも、王都での生活に慣れたようで──とくに甘い物には目がない──いつもどおりのあの調子で、毎日を安穏と暮らしている。
 生命力が人間並みにしかないらしく、あたしたちと同じように年齢を重ねて成長し、今ではその美貌もあってか、月に五回くらいは求婚目的に野郎どもがうちへ押しかける始末だ。

 そしてあたしは、無事に元気な男の子を出産した。
 名前はロキ。
 ミメシスが名付け親で、時には父親代りに、時には姉として、彼女はロキを厳しく育ててくれている。
 そんなロキの性格はちょっとおとなしいほうで、母としては将来的に、少しいろいろと不安ではあった。
 なぜなら──。

「きゃっ?! トカゲだぁ!」

 穿いている魔法衣のミニスカートに忍び寄る一匹のトカゲに驚いたロキが、木のベンチから飛び上がる。なにも付いていないスカートの裾を、ペチペチと何度も狂ったように平手ではたきまくった。

「なんだ、凶悪なトカゲ型モンスターかと思えば……なんとも情けない」

 有名店のシュークリームを両手にひとつずつ持つミメシスはそう言うと、残念そうに目をつむり、小顔を左右に振ってから右手のシュークリームにかじりついた。

 快晴の昼下がり。あたしたち家族は、王立公園へピクニックに来ていた。
 ……って、説明がまだ足りないから補足すると、十三歳のロキは、女の子と同じ服装と髪型を好む、ちょっと変わった男の子に成長していた。
 そこいらの小娘よりは全然可愛いから別にいいんだけど、でもまあ、母としては、ほんのちょっぴり息子の将来が心配でもあったりする。

「死にさらせ、このエロトカゲがぁぁぁぁぁぁ!!」

 全力でなんの罪もないちっちゃなトカゲを棍棒こんぼうで殺しにかかるのは、ロキと幼馴染みの少女セリアだ。
 セリアはロキのことが盲目的に大好きで、例え動植物でもちょっかいを出してくるものには容赦はしなかった。

「ちょっとセリア! かわいそうだから、それくらいにしてあげなさいよ!」
「……オホン。ロアお母様がそうおっしゃるのなら♡ ふん! 特別に見逃してやるんだから、さっさと失せろやエロトカゲ!」
「お母様言うな。ごめんね、トカゲちゃん。さあ、あっちにお行き」

 助けた御礼のつもりなのか、トカゲちゃんは頭を上下に二回振ると、俊敏にベンチから立ち去っていった。

「ロキ、大丈夫? どこか怪我してない? ここが恥ずかしいなら、あっちの茂みでお医者さんごっこする?」
「ちょっとセリア! 大事なひとり息子を白昼堂々と誘惑しないでくれる!?」
「誘惑ではありません、ロアお母様! これは愛のあるセッ●ス・アピールですわ!」
「うわ……大声で、うわ……家族連れがたくさん来てる公園なのに、うわ……」
「ふ、ふたりとも喧嘩はやめてよぉ~。ミメシスお姉ちゃんも、なんとか言って止めてよぉ~」
「お姉ちゃんではない。まあ良いではないか、いつものことだ」

 我関せずといった表情のミメシスが三つ目のシュークリームに手を伸ばすと、急に好天の青空が夜のように暗くなった。

「みゃ? なによこれ……きょうって、皆既日食だっけ?」
「ううん、違うと思うよ。それだったら、魔法学院で教わるはずだもん」
「……ハッ!? もしやこれは、光の女神がわたくしたちに一刻も早くスケベしろとおっしゃっているのでは!? ロキ、近くの宿屋まで猛ダッシュですわ!」
「んなわけないでしょ、このエロ娘!」
「ふたりとも、またぁ~」

 ロキがふたたび慌てふためく。
 ミメシスが四つ目のシュークリームを頬張った次の瞬間、大空に巨大な人影が映し出された。
 浅黒い肌をしたその男は、深紫こきむらさきの鎧を身につけ、顔は黒い髭モジャで頭から二本の角が生えた強面だった。
 もうすでに嫌な予感しかしない。
 絶対に悪者でしょ、この髭オヤジ!

『地上界に住まう者たちよ、よく聞け。我が名はカタストロ、魔界の新たな覇王なり。魔界はすでに我が手の中にある。次は、貴様らの世界をいただくとしよう……フッフッフ、ガッハッハッハッハ!』

 一方的な宣言を終えた幻影は、あっという間に消えて空も明るくなった。
 覇王カタストロ……これって、超ヤバい展開なんじゃないの!?

「……ミメシス!」
「わかっている。だが、おまえはダメだ。今度死ねば、魂が無になってしまうからな」
「うくっ! そうよね……それがなければ、あたしもまだまだ戦えるんだけど……」
「戦う? 戦うって、どうしてママが戦わなくっちゃいけないの?」
「え? どうしてって……いやいやいや、光の戦士であるあたしが、カタストロをやっつけに行くパターンでしょこれ!」
「光の……戦士?」

 あっ、そうだった。
 ロキには一度も説明してなかったんだ。
 あたしが光の戦士だったことも、そして、この子の出生の秘密も──。


     *


 その日の夜。王様にお城まで呼び出されたあたしたち三人は、謁見の間で光の女神から御告げを受け、ロキとミメシスが冒険の旅へ向かうようにと正式に王様から命ぜられた。
 あたしも旅の同行を進言してみたけれど、やっぱり、あの理由で光の女神に断られてしまった。

 そしてさらに次の日の朝──。
 旅支度を終えた息子たちに、わが家の正門前で別れの挨拶をする。

「気をつけてね、ロキ。辛くなったら、いつでも帰ってきていいんだからね? あ、御守りはちゃんと持った?」
「う、うん。ボク……がんばるよ……」

 ずいぶんと顔色が優れない。
 今にも吐きそうなくらい青ざめている息子の様子に、できれば代わってあげたいと、母として心から願う。
 でもね、ロキ……。
 あなたは光の勇者の息子でもあるんだから、みんなのために頑張らなきゃダメなのよ……。

「ミメシス、ロキのことお願いね」
「もちろんだ。この生命いのちに代えても、ロキを必ず守る」

 できたてのチュロスをかじりながら、真顔で答えるミメシス。
 いろいろと不安になってきたけど、彼女ならきっと大丈夫だって信じてる。

「……ねえセリア、なんであんたも旅立つのよ?」
「昨晩、夢の中で光の女神様から覇王討伐の旅に同行せよと神託がありましたの。それになによりも、王立魔法学院でロアお母様以来の天才魔術士とうたわれるこのわたくしが仲間になれば、まさに虎に翼! 鬼人族オーガに肉棒ですわ!」
「そんな卑猥で凶悪な武器、淫獣しか使わないわよ!」

 フル装備で着飾るセリアが、自慢げに腰に手を当ててつま先立ちをしてから、パタンと踵で着地する。
 でも、本当にこの子の魔力や能力はあたしに匹敵するくらいに超有能だから、仲間になるのは頼もしいかもしれない。戦闘に限ってだけど。

「よひ、ひふほロキ!」

 食べかけのチュロスをくわえながら、声高らかにミメシスが先導する。
 その後ろを、片腕に抱きついたセリアを剥がそうと努めるロキが少しずつ前に進んでいった。

「本当に大丈夫かしらね、あの子たち……」

 大きなため息のあと、三人の小さくなった背中に向けて、あたしは無意識に笑顔をつくった。
 そして──思い出す。
 若かりし頃の冒険の数々を。
 苦楽をともにした、仲間たちとの遠い記憶を。

「………………よし! やっぱあたしも旅に出るかぁ! おーい、みんなー! ちょっと待ってよー!」

 あたしは走る。
 久し振りに走る。
 着のみ着のままで、冒険の旅へと出発する。

 あたしたちが住む世界では、平和な時間ときはそう長く続かない。
 けれども、勇者様が必ず現れて、混沌とした世界を絶対に救ってくれる。
 言わずもがな、これも七不思議のひとつだ。










 ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。─完─

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