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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。
ラストバトル(2)
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穏やかな光を放つ聖剣が、呼吸するように明滅をゆっくりと繰り返しながら、その輝きを徐々に増してゆく。
それで暖をとるように、瞼を閉じるプリシラが両手を突き出した姿で魔法の詠唱を続けていた。
彼女の聖痕の力でマルスの攻撃力と光属性の力を大幅に上昇させるのが、あたしたちパーティーの……じゃなくて、あたしがいたパーティーの必勝パターンなんだけれど、なんか、いつもよりも時間がかかっているような気がする。
「まさか……ひょっとして……」
聖なる神々と精霊への忠誠を破ったから?
プリシラが赤ちゃんを身ごもっているからなの?
『グゴゴゴ……フシュルルルル……おのれ……邪魔はさせぬ……誰であろうと……邪魔は…………すべてを闇に……デレリアのもとへ……』
浮遊空間で感じるはずのない地響きが聞こえる。
「これっていったい──」その答えは、すぐにわかった。
皮膚がドロドロに溶けて眼球や臓器がほぼ剥き出し状態になっているダ=ズールが、闇の力を倍加させて身にまとっていたからだ。あまりの強大な力がゆえに、自ずと至極色の羽衣のような形で視覚化されてもいた。
「だ……大丈夫なの、これ!? マルスの奴、いつまで力を蓄えるつもりなのよ!?」
「あらあらー? おかしいですね……わたくしの計算では、とっくに決着がついてる頃なんですけど」
『……天地創造!!』
最悪のタイミングで繰り出される邪神の大技。あたしはずっと防御をしていたからなんとか持ち堪えられたけど、ほかのみんなは大ダメージを受けてしまった。
さらに最悪なことに、魔法を詠唱していたプリシラは無防備だったから、瀕死の重傷を負ってしまう。
このままだと……絶対に勝てない!
死を間近に感じるあたしの気分も最悪だった。
「ロアお嬢様、わたくしの魔力は少し残っていますので、今すぐに回復を……」
「ちょっ、ちょっと待って! あたしよりもプリシラを回復してあげてよ! ダ=ズールを倒すには彼女の力が必要なの! プリシラじゃなきゃ、絶対にダメなのよ!」
「……本当によいのですか、それで? あの女が死ねば、ロアお嬢様の恋敵は誰もいなくなりますけれど?」
「な……なにを言ってるのよセーリャ! あ、あたしはそんな……そんなことを望んでなんて……」
「おまけに、相手のお腹には赤ちゃんまで。今この機会を逃せば、一生後悔することになりますよ?」
いつもどおりの笑顔を見せるセーリャだけど、瞳の奥はなにも笑ってはいなかった。
「それでも……別にあたしは構わない。マルスがプリシラを選んだんだから……そればっかりは、あたしが口出ししても解決にはならないわよ」
正直に言えば、悔しさはある。
あたしはずっとアイツの横顔と背中を見てきた。告白できないまま、一緒に冒険の旅を過ごしていた。
けれど、どこか納得ができる自分も心の片隅でたしかに存在していた。
あのときに──いくつかの場面で〝好き〟って言えていたら、今の状況も変わっていたかもしれない。
でも、それはしょうがない事だ。あたしに勇気がほんのちょっぴりあれば良かっただけの話なんだから……。
「……かしこまりました」
セーリャがプリシラのもとへ飛んでゆく。
これでいいのよ、これで。
なにも間違ってはいないんだ。
『幻影蝶乱舞!』
「みやっ?!」
突然、何千何万もの黒い喋の大群があたしを取り囲む。
と、巨大な骨の拳が喋の群れを粉砕しながら、あたしの真横を通り過ぎていった。
「ロア、油断するな! まだ戦闘中だぞ!」
「ミメシス……助けてくれてありがとう!」
今のはあぶなかった。ミメシスのフォローがなかっなら、あたしは潰されて即死していただろう。
『氷槍連撃魔法!!』
「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
ダイラーが攻撃魔法を唱えれば、すかさずその背後からヴァインが頭上高く飛び上がる。
ダ=ズールが氷の塊を平手で迎撃するほんのわずかな隙を突き、ヴァインは高速度のきりもみ回転で闇の羽衣に守られていない首筋を一気に斬り裂いた!
『グゥガァァァァァァァァァ!?』
不規則な放物線を描きながら、噴水のように巻き散らかされる群青色の血飛沫。
やがて、漆黒の鉄仮面を血に染めたヴァインが振り返り、大声で叫ぶ。
「マルス! 今だ!」
それなのにマルスは、頭を振って拒絶の意思を遠くの仲間に伝える。
「ダメだ、まだ光の力が足りてない。プリシラが意識を取り戻してからでないと、ボクも思う存分戦えないよ」
「……クソッ!」
しれびれを切らしたダイラーが、二回目の攻撃に移る。
下半身の昆虫部分に斬りかかったけれど、腕力を倍増させる補助魔法の効果は切れていたみたいで、それほどのダメージは与えられなかった。
でも、そのあいだにセーリャの回復魔法がなんとか間に合って、プリシラは起き上がれた。
「プリシラ、さっきの続きを頼みたいけれど大丈夫かい?」
「マルス……これ以上はもう力は上がらないと思う」
「えっ? どうしてさ?」
「わたしにはもう……盟約の力を使うことは出来ないから……その……」
「……そうだったね、ごめん」
微笑みを見せたマルスは、プリシラをそっと優しく片手で抱き寄せた。
それから聖剣を両手に握り直すと、大きく息を吸い込みながら両足を肩幅に開いて腰を落とし、剣を右斜め下に構える。
それは、女神フリーディアに選ばれし光の勇者だけが使うことの出来る超必殺技の型だった。
「ハァァァァァァァァ…………」
深く息を吐き終えた次の瞬間、マルスはまばゆい光に包まれて、ダ=ズールの巨体めがけて弾丸のような速さで飛んだ。
『閃光神風必殺剣!!』
これまでに数々の強敵を葬り去ってきた一撃必殺の究極奥義。七色の強烈な光の筋が暗黒世界に輝きを与えると、電光石火の斬撃が巨体を一刀両断する──までには至らなかった。
それでも、顔面から胸もとにかけての大きな斬り傷からは止めどなく血が噴き出し、ダ=ズールは恐竜のような悲鳴を叫びながら数歩後ろへよろける。
やっぱりダメだ。いつもならこれで決着がつくんだけど、光の力が足りなかったんだ。
「マルス、あぶない!」
あたしは無我夢中で叫んでいた。
もがき苦しみながらも、マルスたちを追って巨大な手が縦横無尽に伸ばされて虚空を何度も掴む。
このままじゃ、いつか捕まって握り潰されて殺されちゃう!
でも、いったいどうすれば……あたしの魔力は空っぽだし、セーリャだってそんなには残っていないはずだ。しかも、今は普通の人間だから、戦力としても期待はできなかった。
「ディィィィィィィィィッッツ!!」
聞き覚えのある雄叫びが何処からともなく聞こえた。
この声は、おっさんだ!
吹き飛ばされて戦線を離脱していた狂戦士ガルラスが、雄叫びを上げながら戦斧を大きく振りかぶって獲物に飛びかかる!
『グゥガァアアアアアアアアア!?』
そして、見事なまでの強烈なクリティカルヒットで、ダ=ズールの左手首を斬り落としてみせた。
それで暖をとるように、瞼を閉じるプリシラが両手を突き出した姿で魔法の詠唱を続けていた。
彼女の聖痕の力でマルスの攻撃力と光属性の力を大幅に上昇させるのが、あたしたちパーティーの……じゃなくて、あたしがいたパーティーの必勝パターンなんだけれど、なんか、いつもよりも時間がかかっているような気がする。
「まさか……ひょっとして……」
聖なる神々と精霊への忠誠を破ったから?
プリシラが赤ちゃんを身ごもっているからなの?
『グゴゴゴ……フシュルルルル……おのれ……邪魔はさせぬ……誰であろうと……邪魔は…………すべてを闇に……デレリアのもとへ……』
浮遊空間で感じるはずのない地響きが聞こえる。
「これっていったい──」その答えは、すぐにわかった。
皮膚がドロドロに溶けて眼球や臓器がほぼ剥き出し状態になっているダ=ズールが、闇の力を倍加させて身にまとっていたからだ。あまりの強大な力がゆえに、自ずと至極色の羽衣のような形で視覚化されてもいた。
「だ……大丈夫なの、これ!? マルスの奴、いつまで力を蓄えるつもりなのよ!?」
「あらあらー? おかしいですね……わたくしの計算では、とっくに決着がついてる頃なんですけど」
『……天地創造!!』
最悪のタイミングで繰り出される邪神の大技。あたしはずっと防御をしていたからなんとか持ち堪えられたけど、ほかのみんなは大ダメージを受けてしまった。
さらに最悪なことに、魔法を詠唱していたプリシラは無防備だったから、瀕死の重傷を負ってしまう。
このままだと……絶対に勝てない!
死を間近に感じるあたしの気分も最悪だった。
「ロアお嬢様、わたくしの魔力は少し残っていますので、今すぐに回復を……」
「ちょっ、ちょっと待って! あたしよりもプリシラを回復してあげてよ! ダ=ズールを倒すには彼女の力が必要なの! プリシラじゃなきゃ、絶対にダメなのよ!」
「……本当によいのですか、それで? あの女が死ねば、ロアお嬢様の恋敵は誰もいなくなりますけれど?」
「な……なにを言ってるのよセーリャ! あ、あたしはそんな……そんなことを望んでなんて……」
「おまけに、相手のお腹には赤ちゃんまで。今この機会を逃せば、一生後悔することになりますよ?」
いつもどおりの笑顔を見せるセーリャだけど、瞳の奥はなにも笑ってはいなかった。
「それでも……別にあたしは構わない。マルスがプリシラを選んだんだから……そればっかりは、あたしが口出ししても解決にはならないわよ」
正直に言えば、悔しさはある。
あたしはずっとアイツの横顔と背中を見てきた。告白できないまま、一緒に冒険の旅を過ごしていた。
けれど、どこか納得ができる自分も心の片隅でたしかに存在していた。
あのときに──いくつかの場面で〝好き〟って言えていたら、今の状況も変わっていたかもしれない。
でも、それはしょうがない事だ。あたしに勇気がほんのちょっぴりあれば良かっただけの話なんだから……。
「……かしこまりました」
セーリャがプリシラのもとへ飛んでゆく。
これでいいのよ、これで。
なにも間違ってはいないんだ。
『幻影蝶乱舞!』
「みやっ?!」
突然、何千何万もの黒い喋の大群があたしを取り囲む。
と、巨大な骨の拳が喋の群れを粉砕しながら、あたしの真横を通り過ぎていった。
「ロア、油断するな! まだ戦闘中だぞ!」
「ミメシス……助けてくれてありがとう!」
今のはあぶなかった。ミメシスのフォローがなかっなら、あたしは潰されて即死していただろう。
『氷槍連撃魔法!!』
「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
ダイラーが攻撃魔法を唱えれば、すかさずその背後からヴァインが頭上高く飛び上がる。
ダ=ズールが氷の塊を平手で迎撃するほんのわずかな隙を突き、ヴァインは高速度のきりもみ回転で闇の羽衣に守られていない首筋を一気に斬り裂いた!
『グゥガァァァァァァァァァ!?』
不規則な放物線を描きながら、噴水のように巻き散らかされる群青色の血飛沫。
やがて、漆黒の鉄仮面を血に染めたヴァインが振り返り、大声で叫ぶ。
「マルス! 今だ!」
それなのにマルスは、頭を振って拒絶の意思を遠くの仲間に伝える。
「ダメだ、まだ光の力が足りてない。プリシラが意識を取り戻してからでないと、ボクも思う存分戦えないよ」
「……クソッ!」
しれびれを切らしたダイラーが、二回目の攻撃に移る。
下半身の昆虫部分に斬りかかったけれど、腕力を倍増させる補助魔法の効果は切れていたみたいで、それほどのダメージは与えられなかった。
でも、そのあいだにセーリャの回復魔法がなんとか間に合って、プリシラは起き上がれた。
「プリシラ、さっきの続きを頼みたいけれど大丈夫かい?」
「マルス……これ以上はもう力は上がらないと思う」
「えっ? どうしてさ?」
「わたしにはもう……盟約の力を使うことは出来ないから……その……」
「……そうだったね、ごめん」
微笑みを見せたマルスは、プリシラをそっと優しく片手で抱き寄せた。
それから聖剣を両手に握り直すと、大きく息を吸い込みながら両足を肩幅に開いて腰を落とし、剣を右斜め下に構える。
それは、女神フリーディアに選ばれし光の勇者だけが使うことの出来る超必殺技の型だった。
「ハァァァァァァァァ…………」
深く息を吐き終えた次の瞬間、マルスはまばゆい光に包まれて、ダ=ズールの巨体めがけて弾丸のような速さで飛んだ。
『閃光神風必殺剣!!』
これまでに数々の強敵を葬り去ってきた一撃必殺の究極奥義。七色の強烈な光の筋が暗黒世界に輝きを与えると、電光石火の斬撃が巨体を一刀両断する──までには至らなかった。
それでも、顔面から胸もとにかけての大きな斬り傷からは止めどなく血が噴き出し、ダ=ズールは恐竜のような悲鳴を叫びながら数歩後ろへよろける。
やっぱりダメだ。いつもならこれで決着がつくんだけど、光の力が足りなかったんだ。
「マルス、あぶない!」
あたしは無我夢中で叫んでいた。
もがき苦しみながらも、マルスたちを追って巨大な手が縦横無尽に伸ばされて虚空を何度も掴む。
このままじゃ、いつか捕まって握り潰されて殺されちゃう!
でも、いったいどうすれば……あたしの魔力は空っぽだし、セーリャだってそんなには残っていないはずだ。しかも、今は普通の人間だから、戦力としても期待はできなかった。
「ディィィィィィィィィッッツ!!」
聞き覚えのある雄叫びが何処からともなく聞こえた。
この声は、おっさんだ!
吹き飛ばされて戦線を離脱していた狂戦士ガルラスが、雄叫びを上げながら戦斧を大きく振りかぶって獲物に飛びかかる!
『グゥガァアアアアアアアアア!?』
そして、見事なまでの強烈なクリティカルヒットで、ダ=ズールの左手首を斬り落としてみせた。
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