ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

黒巻雷鳴

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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

ラストバトル(1)

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『……光の勇者よ、どこまで余の邪魔をするつもりだ? いずれ滅びゆくその生命いのち、誰がために抗い続けている? 無駄だ、無駄なことなのだ。死からは何者も逃れられない。死とは無、無とは闇、闇とは還るべき場所ところ。なにも恐れるな。そのときがただ、今となって訪れるだけの話にすぎぬ』
「ふざけるな! ボクたちは戦う! みんなを、世界を救うためにッ! 生きて、強く生きて、すべてを慈しみ深く愛する! そうやって生きるからこその生命いのちなんだ! おまえのやろうとしているのは、なんの救済もない破壊と殺戮だ!」
『救済……か…………ならば愚かな光の戦士たちよ、三層界よりも先におまえたちのすべてを、髪の毛一本細胞ひとつ残さず、魂ごと喰らいついてこの身の糧にしてくれようぞ!』

 深傷を負ったダ=ズールの背中が、メキメキと音をたてながら群青色の体液を迸らせて縦に裂ける。
 静かに舞い踊るような神々しい動作で体内なかから現れたのは、美しい容姿と緑青の肌をした女性の巨大な上半身だった。
 長い黒髪と深紅の瞳、そして豊満な乳房。それらは妖艶で肉感的でありながらも、その下半身は、両眼と前肢まえあしを失った不気味な昆虫のままなので醜怪極まりない。

「これが……ダ=ズールの真の姿なのか……?」

 マルスが間近で見上げながら言う。

「これまで以上の凄まじい闇の波動を感じる……でも……だけどなぜか、とっても悲しそう……」

 その傍らで、プリシアがつぶやいた。

「ああ、そうだな。同じように哀れなをしている戦士を大勢ワシは知っている。だが……敵に情けは無用!」

 おっさんが戦斧を身構えながら雄叫びを上げて飛ぶ。
 たとえ女性の姿をしていても、魔物や悪者に容赦しないのが狂戦士ガルラスだ。

『クゥアアアアアアアア!』
「──ハッ!」

 伸ばされた巨大な手をかわして腕に飛び乗ったおっさんは、そのまま俊敏に駆け登ると、巨顔の頬を狙って渾身の一撃を見舞う。

「ドゥオラァァァッ!」

 当たるか当たらないかの寸前のところで、巨体が残像をいくつも引き連れておっさんの背後にすばやく回り込む。

「なっ、なんだと?!」
『老兵としては最強でも、神の前では虫ケラ以下の動きだな』

 ダ=ズールの強烈な張り手が、おっさんの全身を打ち抜く。痛恨の一撃をまともに受けたおっさんは、あっという間に暗雲の彼方まですっ飛ばされてしまった。

「ガルラス!」
「放っておけマルス! 今は目の前の敵に集中しろ!」

 そう叫びながら突進するヴァイン。
 途中で大きく飛び上がり、きりもみ回転をして斬りかかる。

 カァキィィィィィィン!

「クッ!」

 完璧なタイミングのはずだったそれを尖った人差し指の爪だけで弾かれてしまい、奇襲は呆気なく失敗に終わる。
 余裕の微笑えみをみせるダ=ズールの厚い唇がゆっくりと開けば、今度は光の粒子と闇の魔素マナが一瞬のうちに次々と吸い込まれていった。

『ヴァイン、おとなしく闇へ還るがいい……』

 フウッと息を吐きながら突き出される唇。容易く吹き飛ばされたヴァインの全身が、青い炎に包まれる。

「オレに任せろ!」

 そんな彼を、ダイラーが身を呈して受け止めた。
 けれども、衝撃が相当大きかったのか、ふたりは勢いをそのままに倒れてしまった。

「ヴァイン、ダイラー!」

 魔力をすべて失っている非力な今のあたしは、自分の身を守ることくらいしか出来ないでいた。
 そんなあたしに、いつの間にか背後に回り込んでいたセーリャが優しくささやきかける。って、顔近っ!

「野郎どもは大丈夫です。ここからがわたくしの出番、ロアお嬢様は油断せず、この場でしっかりと防御していてくださいまし」
「う、うん。セーリャお願い、アイツをなんとかして!」
「はい、もちのろんでございます♡」

 大きな翼がひらかれるのと同時に、笑顔を凛とした表情に変えてセーリャは鳥のように羽ばたいて飛び立つ。水色の下着パンツだった。

「……ううっ」

 近くの声に振り向くと、顔色がすぐれないミメシスが胸を押さえて苦しんでいた。

「ミメシス、しっかり!」
「時間が……時間がもう……くっ、目がよく見えない……ロア、ヴァインは無事なのか?」
「え? そう……ね。まだ倒れたままだけど、きっと大丈夫だと思う。ダイラーがしっかりと受け止めてたし」
「そうか……よかった……」
「ミメシス……」

 本当にヴァインのことが好きなんだ。ううん、愛しているに違いない。その気持ち、ほんの少しだけど、あたしにもわかるよ。
 なんとかふたりに結ばれてほしい。
 そのためにも──セーリャ、お願い!

『なんだこの力は……光と闇の融合体だと? おまえはいったい何者だ?』
「ウフフ♡ さあ、誰でしょう? そんなことより、神を名乗る罪深きゲテモノにはキツいお仕置きが必要です。それに、わたくしたちを喰らうというのなら、先ずはこの奥義を喰らいなさい……!」

 深紅の大剣を中心に、空気が──様々な属性の魔素マナが──周囲の空間を歪ませながら唸りまであげて集まり、刀身がみるみるうちに激しい炎につつまれてゆく。
 やがて、小型の太陽を思わせるほどの大きな光の球体がセーリャの背後に突如として現れた。
 光の屈折なのか、勇猛に剣を構えるセーリャの姿が幾重にもかさなって見え、それを迎え撃つダ=ズールの姿も残像を見せて襲いかかっていた。

聖邪滅殺太陽剣ニュークリア・フュージョン!!』

 それは、とてつもない衝撃波だった。
 大剣と爪が触れた途端、光の球体が破裂して闇夜の暗雲の大空が真昼の明るさへと一変する。気温も砂漠の灼熱地獄を涼しいと感じられるほどの沸点近くにまで急上昇し、あたしの悲鳴が自分でも聞き取れないくらい無音の世界にもなっていた。
 体感時間にして、およそ三秒の地獄。
 それらの摩訶不思議な現象が、終焉の起源インナーユニバースで起こった。

『ぐっ……ギャアアアアアアアアアアアス!!』

 ダ=ズールの顔が、肌が、焼け爛れて溶け落ちてゆく。
 邪神の絶叫が響いて木霊する中で、セーリャの翼も青い炎に包まれていき、やがてすぐに燃え尽きて消えた。

「セーリャ!」
「……わたくしなら大丈夫でございます。翼を失なって、普通の人間になっただけですので」
「えっ!? それって全然大丈夫じゃないじゃないのよ!」
「翼を取り戻したとはいえ、所詮はその場限りの不完全体。致し方なしでございます」
「セーリャ、まさかあなた……それを知ってて……」
「そんな悲しそうな顔をしないでくださいまし。わたくしは前向きに、ロアお嬢様と同じ寿命で死ねると考えておりますので……ウフッ♡」
「いやいやいや! そこは楽しそうに笑うところじゃないから!……でも、本当にありがとねセーリャ」
「安心するのはまだまだです。ゲテモノは生きております。あとは、光の勇者の役目。さあロアお嬢様、帰り支度の準備を」

 そうだった。まだダ=ズールを倒したわけじゃない。
 マルスを見れば、プリシラの神聖魔法の補助を受けて光の力を増幅させているところだった。

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