ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

黒巻雷鳴

文字の大きさ
上 下
45 / 55
新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

光と闇の戦士たち(2)

しおりを挟む
「ハァァァァァァァッ!」

 マルスが、ダ=ズールの右側の眼球めがけて飛び上がって斬りかかる。それでも、赤紫色の結膜は相当厚いのか、呆気なく剣が弾かれてしまう。

「うぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 続けざまにヴァインも斬りかかる。今度は結膜が破けて、群青色の体液が天高く迸った。
 その間にプリシラは、精霊魔法の詠唱を進めていた。風と光の魔素マナが彼女を主軸に渦を巻く。そんな無防備な彼女を、おっさんが仁王立ちの盾となってかばっていた。

「オレはいつでも戦えるが……ロア、どうする?」
「そりゃあ──」

 ここまで来たんだし、もちろんマルスたちと一緒に戦うつもりだ。そもそも、エレロイダに来たのは、大邪神ダ=ズールを倒すためなんだから。
 だけど、ミメシスは複雑な心境なのだろう。らしくない表情で戦いを見守っている。
 当初の約束は、ヴァインのもとへ彼女を連れてくることだ。その目的は果たせたし、その先のことなんてミメシス本人にしか……ううん、彼女自身にもわからないかもしれない。

「あたしたちふたりだけでも加勢しましょう」
「……わかった」

 ダイラーもミメシスが気になるよね。あたしが勝手にもうひとりの仲間呼ばわりをしてた相手なんだから。

「…………待ってくれ、ロア」

 不意にミメシスが呼び止める。

「ダ=ズール様を倒すには、より多くの闇の力を必要とする。だが、おまえたちが加わったところで戦力不足に変わりはない」
「それでも……それでもあたしは、マルスたちを助けたい。ここまで来たのに、今さら引き返せないわよ!」
「では、オレから先に行かせてもらうぞ」

 剣を抜いたダイラーが、声高らかに魔法を唱える。

腕力倍加魔法マキシモ!』

 自らの攻撃力を倍増させてから、左の眼球を狙って飛び上がるダイラー。見事一撃で破壊してみせた。
 六魔将軍の加勢に、マルスたちが驚きの視線を一斉に向ける。

「ダイラー?! どうしてキミが……」
「説明はせん。だが、オレの邪魔だけはするな」

 両眼を失ったダ=ズールが、咆哮を上げながら顔を左右に振り乱す。流れ出る血が涙にも見え、赤子のように泣きじゃくる様はグロテスクそのものだ。

聖風竜巻魔法エアロ・ファイヴ!』

 プリシラが放つ、風属性の最強魔法。
 聖なる力を帯びた光の大渦おおうずをまともに浴びた邪神の巨体が、一歩、また一歩と、闇の深淵へ退いてゆく。

 勝てる──そう確信がもてたのも束の間、ダ=ズールが反撃を開始する。

天地創造ビッグ・バーン!!』

 突き出された両手から、マグマよりも紅くて熱いエネルギー波が放射されて全員に襲いかかる。目に写るものすべてが、陽炎のように揺らめいて燃えさかる。
 さっきの攻撃もそうだけど、大邪神と名乗るだけあって、どれも超強力な破壊力を持つ技ばかりだ。

「きゃああああああああ!?」
「……クッ!」

 遠く離れていたあたしとミメシスは、そこまでのダメージを受けずに済んだけれど、最前列のマルスたちは今の一撃で瀕死状態になってしまった。

「みんなを助けなきゃ……ミメシスもお願い、加勢して!」

 けれども、ミメシスは、なにも答えてはくれなかった。

「あなたが回復魔法を使えないことは知ってる。でもせめて、あたしが魔法を詠唱しているあいだだけでもサポートしてよ! マルスが……ヴァインもこのままじゃ死んじゃうわよ!?」
「……わかった」

 ミメシスも詠唱を始める。
 今まで聞いたことのない言語だ。もしかして、超古代魔法かもしれない。
 あたしも急がなきゃ……!
 先ずはプリシラを回復させる。
 お願い、どうか間に合って!

初級治癒魔法プティ・ヒール!』

 ほんのごくわずかだけ回復したプリシラが、ふらつきながらゆっくりと空中で反転して起き上がる。
 でもまだ安心はできない。ここからだ。

「ありがとうロア!」
「御礼はいいから、プリシラ早く!」
「うん、わかってる……」

 全体回復魔法の詠唱が始まるのとほぼ同時に、ダ=ズールの影が横に伸びて浮き上がってきた!

「げっ?! 今度はなによ!?」
「ロア、大丈夫だ。アレ・・は仲間だ」
「仲間?」

 ダ=ズールと同じサイズの巨大な影が本体に襲いかかり、手四つの力比べが始まる。押しては引き、押しては引きを繰り返す。

「まさか、ダ=ズール様を相手にこの秘術を使うことになるとはな」
「めっちゃ凄いじゃん! さすがはミメシス大先生!」
「大先生ではない。ただ、あの影は時間稼ぎ程度しか期待はできんぞ」
「ううん、それで充分よ。ミメシスありがとね」

 微笑ほほえむあたしに、ミメシスも微笑えがおを返してくれた。彼女が笑うのを初めて見た気がする。

「ミメシス、もっと笑ったほうが絶対いいって。めっちゃ可愛いし、ヴァインも喜ぶと思うよ~♪」
「な……! お、おい、やめないか! 我の二の腕を小刻みに激しくこつくな!」

 あたしの連続肘打ちにたじろぐ様子もけっこう可愛い。
 もっと早くに知り合って、仲よくなりたかったかな。

『……最上級全体治癒魔法ギガ・ミナヒール!』

 金色こんじきの光る飛沫しぶきが、マルスたちやあたしとミメシスの身体にキラキラときらめきながら優しく穏やかに降りそそぐ。一気に体力が全回復したみんなが、次々と元気になって戦闘態勢に戻る。

「よっしゃー! 間に合った! って、あれ?」

 ミメシスの身体だけ、まだキラキラと光り輝いていた。

「みゃ? まだ回復途中なの?」
「……いや、違う。どうやら、死出の旅路への時間ときが迫ってきたようだ」

 両手のひらを見つめながら──穏やかに舞い上がる光の粒子を見つめながら──ミメシスは、悲しげな表情でそう言った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...