ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

黒巻雷鳴

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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

光と闇の戦士たち(2)

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「ハァァァァァァァッ!」

 マルスが、ダ=ズールの右側の眼球めがけて飛び上がって斬りかかる。それでも、赤紫色の結膜は相当厚いのか、呆気なく剣が弾かれてしまう。

「うぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 続けざまにヴァインも斬りかかる。今度は結膜が破けて、群青色の体液が天高く迸った。
 その間にプリシラは、精霊魔法の詠唱を進めていた。風と光の魔素マナが彼女を主軸に渦を巻く。そんな無防備な彼女を、おっさんが仁王立ちの盾となってかばっていた。

「オレはいつでも戦えるが……ロア、どうする?」
「そりゃあ──」

 ここまで来たんだし、もちろんマルスたちと一緒に戦うつもりだ。そもそも、エレロイダに来たのは、大邪神ダ=ズールを倒すためなんだから。
 だけど、ミメシスは複雑な心境なのだろう。らしくない表情で戦いを見守っている。
 当初の約束は、ヴァインのもとへ彼女を連れてくることだ。その目的は果たせたし、その先のことなんてミメシス本人にしか……ううん、彼女自身にもわからないかもしれない。

「あたしたちふたりだけでも加勢しましょう」
「……わかった」

 ダイラーもミメシスが気になるよね。あたしが勝手にもうひとりの仲間呼ばわりをしてた相手なんだから。

「…………待ってくれ、ロア」

 不意にミメシスが呼び止める。

「ダ=ズール様を倒すには、より多くの闇の力を必要とする。だが、おまえたちが加わったところで戦力不足に変わりはない」
「それでも……それでもあたしは、マルスたちを助けたい。ここまで来たのに、今さら引き返せないわよ!」
「では、オレから先に行かせてもらうぞ」

 剣を抜いたダイラーが、声高らかに魔法を唱える。

腕力倍加魔法マキシモ!』

 自らの攻撃力を倍増させてから、左の眼球を狙って飛び上がるダイラー。見事一撃で破壊してみせた。
 六魔将軍の加勢に、マルスたちが驚きの視線を一斉に向ける。

「ダイラー?! どうしてキミが……」
「説明はせん。だが、オレの邪魔だけはするな」

 両眼を失ったダ=ズールが、咆哮を上げながら顔を左右に振り乱す。流れ出る血が涙にも見え、赤子のように泣きじゃくる様はグロテスクそのものだ。

聖風竜巻魔法エアロ・ファイヴ!』

 プリシラが放つ、風属性の最強魔法。
 聖なる力を帯びた光の大渦おおうずをまともに浴びた邪神の巨体が、一歩、また一歩と、闇の深淵へ退いてゆく。

 勝てる──そう確信がもてたのも束の間、ダ=ズールが反撃を開始する。

天地創造ビッグ・バーン!!』

 突き出された両手から、マグマよりも紅くて熱いエネルギー波が放射されて全員に襲いかかる。目に写るものすべてが、陽炎のように揺らめいて燃えさかる。
 さっきの攻撃もそうだけど、大邪神と名乗るだけあって、どれも超強力な破壊力を持つ技ばかりだ。

「きゃああああああああ!?」
「……クッ!」

 遠く離れていたあたしとミメシスは、そこまでのダメージを受けずに済んだけれど、最前列のマルスたちは今の一撃で瀕死状態になってしまった。

「みんなを助けなきゃ……ミメシスもお願い、加勢して!」

 けれども、ミメシスは、なにも答えてはくれなかった。

「あなたが回復魔法を使えないことは知ってる。でもせめて、あたしが魔法を詠唱しているあいだだけでもサポートしてよ! マルスが……ヴァインもこのままじゃ死んじゃうわよ!?」
「……わかった」

 ミメシスも詠唱を始める。
 今まで聞いたことのない言語だ。もしかして、超古代魔法かもしれない。
 あたしも急がなきゃ……!
 先ずはプリシラを回復させる。
 お願い、どうか間に合って!

初級治癒魔法プティ・ヒール!』

 ほんのごくわずかだけ回復したプリシラが、ふらつきながらゆっくりと空中で反転して起き上がる。
 でもまだ安心はできない。ここからだ。

「ありがとうロア!」
「御礼はいいから、プリシラ早く!」
「うん、わかってる……」

 全体回復魔法の詠唱が始まるのとほぼ同時に、ダ=ズールの影が横に伸びて浮き上がってきた!

「げっ?! 今度はなによ!?」
「ロア、大丈夫だ。アレ・・は仲間だ」
「仲間?」

 ダ=ズールと同じサイズの巨大な影が本体に襲いかかり、手四つの力比べが始まる。押しては引き、押しては引きを繰り返す。

「まさか、ダ=ズール様を相手にこの秘術を使うことになるとはな」
「めっちゃ凄いじゃん! さすがはミメシス大先生!」
「大先生ではない。ただ、あの影は時間稼ぎ程度しか期待はできんぞ」
「ううん、それで充分よ。ミメシスありがとね」

 微笑ほほえむあたしに、ミメシスも微笑えがおを返してくれた。彼女が笑うのを初めて見た気がする。

「ミメシス、もっと笑ったほうが絶対いいって。めっちゃ可愛いし、ヴァインも喜ぶと思うよ~♪」
「な……! お、おい、やめないか! 我の二の腕を小刻みに激しくこつくな!」

 あたしの連続肘打ちにたじろぐ様子もけっこう可愛い。
 もっと早くに知り合って、仲よくなりたかったかな。

『……最上級全体治癒魔法ギガ・ミナヒール!』

 金色こんじきの光る飛沫しぶきが、マルスたちやあたしとミメシスの身体にキラキラときらめきながら優しく穏やかに降りそそぐ。一気に体力が全回復したみんなが、次々と元気になって戦闘態勢に戻る。

「よっしゃー! 間に合った! って、あれ?」

 ミメシスの身体だけ、まだキラキラと光り輝いていた。

「みゃ? まだ回復途中なの?」
「……いや、違う。どうやら、死出の旅路への時間ときが迫ってきたようだ」

 両手のひらを見つめながら──穏やかに舞い上がる光の粒子を見つめながら──ミメシスは、悲しげな表情でそう言った。

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