ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

黒巻雷鳴

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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

神をも喰らう最強戦士(6)

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 直撃。
 地下迷宮に爆音と炎を纏った熱風が巻き起こる。
 地獄の業火に包まれたマピガノスが、苦悶の咆哮を上げながらよろけて一二歩退く。それでも倒れずに、炎から逃れようともがいて暴れはじめる。
 この魔法は、追加攻撃でしばらく相手の動きを封じることが可能だ。ヤツが翼と尻尾を振り乱して暴れているあいだが勝負になる。あたしは、走った。

「ダイラー!」
「むぎゅ?!」

 全力ダッシュからの片手キャッチで、ダイラーを拾い上げて無事に捕獲。その場でくるりとつま先を鳴らして反回転をしたあたしは、そこからさらに加速して駆け出す。

「ロア、逃げろと言ったはずだぞ!」
「仲間を置いてひとりで? そんなことして助かったって、残りの人生百年くらい、全然楽しく生きてけないじゃないの!」

 そうよ、あたしは生きて帰る。
 仲間たちと一緒に、元の世界へ。
 こんな異次元空間で死んでたまるもんですか!

「グォォォガアアアアアアアアアアアアアアアアッッッツ!!」

 ブゥゥフゥゥゥゥゥゥン!

「ムッ!? ロア、ゆるせ!」カプッ!
いたっ!?」

 まさかの奇襲攻撃。ダイラーに手を噛まれて一瞬態勢を崩したけれど、そのおかげで、思っていたよりも早く炎を消したマピガノスの低空飛行の体当たりを回避できた。

「きゃあああああああ!」

 それでも強大な威力に、風圧だけであたしの身体は簡単にスッ転ぶ。
 右膝を擦りむいてめっちゃ痛い。だけどマピガノスは四回攻撃だから、すぐに起き上がって臨戦態勢に入る。
 それでも、すでに遅かった。
 あたしじゃなくて、ダイラーが捕まってしまっていた。今にも握り潰されそうな彼が、マピガノスの顔近くまで運ばれる。

「ダイラー!」
「グゥルルルルル……ちょこまかと逃げまわるのは被食者特有の能力スキルなのか? まあいい、おまえはトカゲとしては最強だ。少しは戦闘力の足しになるだろう」

 岩をも砕きそうな大顎が開かれる。
 嘘でしょ……今度はダイラーを食べるつもりなんだ……早く助けなきゃ!

『冬の嵐は無限の叫び、楽園をめざす旅鳥たちの翼は寒さに震え──』

 早口で攻撃魔法を詠唱しているけれど、全然間に合いそうにない。そもそも四回攻撃だなんて卑怯すぎるわよ! 天才美少女魔法使いのあたしでさえ一回なのに!

「うっ、くっ……ロア、聞け!」

 ダイラーがなにかを叫んでる。
 それでも、今のあたしには聞いてる余裕も時間もまったくなかった。

「忘れろ、忘れるんだ! この冒険のすべてを、なにもかも忘れて、幸せに暮らせ! マルスなら必ず大崩壊を止めてくれる! ロア、おまえはもう自由なんだ! ロア! 今度こそ逃げてくれ!」

 ングッ。

 ひと呑みだ。
 ダイラーが食べられちゃった。
 結局あたしの魔法は、間に合わなかった。

「ダイラァァァァァァァァッ! 嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」
「グルルルルル……お次は、闇の女神様だ。トカゲのように楽に死ねるとは思うな。細胞のすべてを存分に咀嚼して味わってやるから、その最後の時まで我が魔力で延命させてやろう」

 向き直った異形の竜人が、歩一歩あたしをめざしてやって来る。
 魔力がかなり回復してきたとはいえ、こんな怪物をひとりで相手にして勝ち目はない。せめてミメシスが起きてくれればと、そんな都合がいい奇跡を信じて祈ることしか出来そうにないくらい、今のあたしは無力に等しかった。

「グルルルルル…………ンぐっ?!」
「……え?」

 ズズッ……。

 突然立ち止まったマピガノスのお腹から、剣先が生えた。
 やがてそれは、徐々に伸びて育ってゆく。
 その刀身に、あたしは見覚えがある。
 幾度も戦った強敵の愛剣だ。

 ズズズズズ……。

「グヌォォオオオオオオ……!? ば、ば、馬鹿なぁあああああああああ……!?」

 ズズズズズズズッ!
 プシャアアアアアアアアッッッツ!

「グガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!」

 断末魔と群青色の血飛沫が激しく交差する。
 竜人族の最強戦士の腹を縦に裂いて現れたのは、血染めになった鋼鉄の魔獣。
 六魔将軍最後のひとりにして最強の魔法戦士、そして、あたしの仲間……!

 ズル……ズルルル……スパァァァン!
 ドォォォォォォォォン!!

 マピガノスの亡骸なきがらが、真っ二つになって倒れた。
 竜人族は今度こそ、絶滅した。

「ダイラー! 元に戻れたのね!」
「……ああ。魔法石の力がアイツに喰われたことによって一気に満タンになった。やはり竜人族は、最も神に近い存在のようだ。滅んでいなければ歴史が最悪なものに変わっていたぞ」

 あたしを一度も見ることなく、ダイラーは剣を振るって血を飛ばしてから鞘に納めた。どうしたんだろう……なんか不機嫌そうなんですけど?

「ねえ、ダイラー」
「行くぞ。最終決戦が始まるまで、時間がもうないはずだ」
「あ、うん……そうだね」

 スタスタと先を急いで歩く背中を追いかけながら、ふと、さっき、彼が叫んだ言葉を思い出す。
 もしかしてダイラーは、あたしのことを……好き? だったりして……って、まさか、ね。

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