ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

黒巻雷鳴

文字の大きさ
上 下
36 / 55
新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

神をも喰らう最強戦士(5)

しおりを挟む
 頭部のほとんどを失ったマピガノスが片膝を着くと、それに合わせて、残された下顎から群青色の血液が絶え間なく噴水のように迸る。
 絶命してもなんら不思議がないほどの大ダメージ。それなのにマピガノスは、死なずにまだ生きていた。

「プシャシャアアアアアア! んばっ、パッ、パラリら……ん、ブボゴホォォォるるるるるるるる……!」

 剥き出しの喉奥から鮮血に混じって漏れ続ける奇声は、壊れた横笛から流れてくるような不快音の旋律で、耳を塞ぎたくても身動きがとれない現在いまのあたしは、視覚と聴覚とで地獄の光景を味わっていた。

「プルルルルルルル……ごぼごぼごぼプシュウうううう……」

 片膝同様、床に着けられていた右手がゆっくりと裏返されながら大胸筋の位置まで上げられると、左手も少し遅れてから同じように持ち上がり、今度は両手が固く握り締められる。

(こいつ……なにをするつもりなの?)

 その答えは、すぐにわかった。
 全身の筋肉を隆起させて踏ん張りをみせた直後、マピガノスはその力だけで一気に皮膚を突き破って変身してみせた!

「グォォォガアアアアアアアアアアアアアアアアッッッツ!!」

 身の毛もよだつほどの咆哮。血を撒き散らして内側・・から現れたのは、倍以上に身体を巨大化させた二足歩行の異形の怪物。溶岩石によく似た新しい皮膚と、丸太ん棒並みに太い尻尾からは白煙が立ち昇り、失われた頭部は戻ってはいたけれど、人面ではなくて二本の大角が生えたドラゴンの顔だった。
 瀕死と思われたマピガノスは、これぞ竜人族といった真の姿に変貌して生命の危機を回避したのである。

「フン。変身は想定内……だッ!」

 床を這ってちょっとずつ敵に近づいていたダイラーが、最後にそう叫んで飛び跳ねる。彼の小さな身体が光に包まれ明滅し、同じ攻撃魔法が二回連続して繰り出された。

氷刃連撃魔法アイス・カッター!』

 シャシャシャシャシャーン!!
 シャシャシャシャシャーン!!

 ブーメランの形をした氷の斬撃が無数に放たれ、高速回転しながら飛んでゆく。真っ直ぐだった軌道は途中から左右に大きく弧をえがいて別れると、
 
 シュルルルルルル……! シュルルルルルルッ…………パシャアアアアアアアン!!

 無防備なマピガノスの首に次々と直撃して白銀の飛沫しぶきとなった。

「グルルルル……」

 ダメだ、クリーンヒットしたのにほとんどダメージが無い。微動だにしないマピガノスは、ダイラーの様子をじっとうかがっていた。
 魔力は回復してきているみたいだけど、トカゲの姿のままじゃドラゴンの怪物には勝てっこない。このままじゃダイラーがやられちゃう。でも、瀕死状態のあたしには、戦況を横になって見守ることしかできなかった。

「トカゲにしては強い。だが、トカゲの世界での話だ。おまえは戦いを挑む相手を間違えている。仲間を救おうとするおまえの行動は勇気ではない、蛮勇と言うのだ」

 マピガノスの巨躯が消えた。
 そう頭が認識した瞬間、ダイラーの目の前に突如現れ、振り上げられた大金槌のような右の拳がタイルの石床を粉々に砕く。

(なんてスピードとパワーなの!?)

 間一髪のところでダイラーは飛び跳ねてかわした。
 けれど、変身後もマピガノスは連続で攻撃を繰り出す。その場で横一回転をしてみせて、今度は左手の裏拳で宙に浮かぶ極小の身体を的確に打ち抜いた。

「ぶぅはぁああああああッッッ?!」

 凄まじい勢いで弾き飛ばされるダイラー。
 だけど、それだけでは終わらない。

炎獄超竜放射火撃ドラゴニック・ギガ・ブラスター!!』

 右手のひらから放たれる火炎の渦。

千雷魔弾放射電撃ライトニング・インフェルノ!!』

 左手の指先から放たれる電撃の帯。
 変身後のマピガノスは、四回攻撃だった。
 火属性と雷属性の最上級魔法が、横一直線に飛ばされたダイラーに追い打ちをかける。

「だ……ダイラー…………」

 あんな小さな身体で超強力な攻撃魔法をくらえば確実に死んでしまう。ダイラーがやられれば、次こそはあたしだ。
 あたしを喰らって、あの怪物はさらに強くなる。強くなったマピガノスは、ダ=ズールを追って終焉の起源インナー・ユニバースへと向かうだろう。
 そこには、マルスたちもいるはず。
 もう無理だよ。
 マルスなら……きっと仇をとってくれる。あたしは、あきらめていた。
 ダイラーが炎と雷に包まれて見えなくなった。
 このままなんの痕跡もこの世に残さずに消滅してしまう。そう思ったとき、地下迷宮の通路が七色の光を浴びて輝いていた。

(えっ……この効果は……魔力吸引……!)

 強力な魔力オドを小さな身体いっぱいに受け止めたダイラーが、壁にぶち当たる寸前で尻尾を使って跳ね返り、倒れるあたしの近くまで飛んでくる。

中級治癒魔法ミディ・ヒール!』

 そして、着地よりも先に回復魔法をかけてくれた。

「ダイラー!」
「オレに構わず逃げろ、ロア!」

 腹這いで着地した勇敢な魔法戦士はそう叫び、ふたたびマピガノスに立ち向かう。
 傷が癒されて自由を取り戻したあたしは、起き上がってすぐさま、両手を前へ突き出して攻撃魔法の詠唱を始めた。
 これは戦うためじゃない。
 ふたりで逃げきるための時間稼ぎだ。

『地獄の業火よ……豊沃の大地を突き破り、我の前に立ち塞がる壁を燃やし尽くせ』

 フゥオオオオオオオオオン……!

 手のひらが熱い。松明から絶え間なく生まれる火属性の魔素マナが、吸い寄せられて集まってきたからだ。
 やがてそれは、ひとつの炎の球体になった。

『苦難をたきぎに火の粉を飛ばし、風に舞って空まで昇れ……ふたたび土へと還りたまえ…………!』

 めいっぱいにひろげた指先よりも膨らんだ炎の球体が、徐々に、さらに、大きさを増してゆき、膨張する魔素マナが極限にまで達したその瞬間──!

炎獄魔弾撃ヘルズ・ファイヤー!!』

 打上花火以上の炸裂音を地下迷宮に轟かせながら、地を駆けるダイラーの頭上を凄まじい速さで通り越してマピガノスに襲いかかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

半神の守護者

ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。 超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。 〜概要〜 臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。 実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。 そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。 ■注記 本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。 他サイトにも投稿中

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界超能力だより!~魔法は使えませんが超能力なら使えます~

Mikura
ファンタジー
 その日、明日見 遥(あすみ はるか)は見知らぬ森の中で目を覚ました。  だが超能力者である彼女にとってそれはあり得ないことではない。眠っている間に誤って瞬間移動を使ってしまい、起きたら知らない場所にいるということはままあるからである。だから冷静に、家に戻ろうとした。しかし何故か能力を使っても家に戻ることができない。千里眼を使って見れば見慣れぬ髪色の人間だらけ、見慣れぬ文字や動植物――驚くべきことに、そこは異世界であった。  元の世界に戻る道を探すべくまずはこの世界に馴染もうとした遥だったが、重大な問題が発生する。この世界では魔力の多さこそが正義。魔法が使えない者に人権などない。異世界人たる遥にも、勿論魔法は使えない。  しかし彼女には、超能力がある。使える力は魔法と大差ない。よし、ならば超能力を使って生きていくしかないと心に決めた。  ――まずはそこの、とても根が良さそうでお人好しで困っている人間を放っておけないタイプらしいお兄さん、申し訳ないが私が生きるために巻き込まれてください。  これは超能力少女が異世界でなんやかんやと超能力を駆使してお人よしのお兄さんを巻き込みつつ、のんびり(自称)と暮らす物語である。

処理中です...