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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。
神をも喰らう最強戦士(5)
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頭部のほとんどを失ったマピガノスが片膝を着くと、それに合わせて、残された下顎から群青色の血液が絶え間なく噴水のように迸る。
絶命してもなんら不思議がないほどの大ダメージ。それなのにマピガノスは、死なずにまだ生きていた。
「プシャシャアアアアアア! んばっ、パッ、パラリら……ん、ブボゴホォォォるるるるるるるる……!」
剥き出しの喉奥から鮮血に混じって漏れ続ける奇声は、壊れた横笛から流れてくるような不快音の旋律で、耳を塞ぎたくても身動きがとれない現在のあたしは、視覚と聴覚とで地獄の光景を味わっていた。
「プルルルルルルル……ごぼごぼごぼプシュウうううう……」
片膝同様、床に着けられていた右手がゆっくりと裏返されながら大胸筋の位置まで上げられると、左手も少し遅れてから同じように持ち上がり、今度は両手が固く握り締められる。
(こいつ……なにをするつもりなの?)
その答えは、すぐにわかった。
全身の筋肉を隆起させて踏ん張りをみせた直後、マピガノスはその力だけで一気に皮膚を突き破って変身してみせた!
「グォォォガアアアアアアアアアアアアアアアアッッッツ!!」
身の毛もよだつほどの咆哮。血を撒き散らして内側から現れたのは、倍以上に身体を巨大化させた二足歩行の異形の怪物。溶岩石によく似た新しい皮膚と、丸太ん棒並みに太い尻尾からは白煙が立ち昇り、失われた頭部は戻ってはいたけれど、人面ではなくて二本の大角が生えたドラゴンの顔だった。
瀕死と思われたマピガノスは、これぞ竜人族といった真の姿に変貌して生命の危機を回避したのである。
「フン。変身は想定内……だッ!」
床を這ってちょっとずつ敵に近づいていたダイラーが、最後にそう叫んで飛び跳ねる。彼の小さな身体が光に包まれ明滅し、同じ攻撃魔法が二回連続して繰り出された。
『氷刃連撃魔法!』
シャシャシャシャシャーン!!
シャシャシャシャシャーン!!
ブーメランの形をした氷の斬撃が無数に放たれ、高速回転しながら飛んでゆく。真っ直ぐだった軌道は途中から左右に大きく弧を描いて別れると、
シュルルルルルル……! シュルルルルルルッ…………パシャアアアアアアアン!!
無防備なマピガノスの首に次々と直撃して白銀の飛沫となった。
「グルルルル……」
ダメだ、クリーンヒットしたのにほとんどダメージが無い。微動だにしないマピガノスは、ダイラーの様子をじっとうかがっていた。
魔力は回復してきているみたいだけど、トカゲの姿のままじゃドラゴンの怪物には勝てっこない。このままじゃダイラーがやられちゃう。でも、瀕死状態のあたしには、戦況を横になって見守ることしかできなかった。
「トカゲにしては強い。だが、トカゲの世界での話だ。おまえは戦いを挑む相手を間違えている。仲間を救おうとするおまえの行動は勇気ではない、蛮勇と言うのだ」
マピガノスの巨躯が消えた。
そう頭が認識した瞬間、ダイラーの目の前に突如現れ、振り上げられた大金槌のような右の拳がタイルの石床を粉々に砕く。
(なんてスピードとパワーなの!?)
間一髪のところでダイラーは飛び跳ねてかわした。
けれど、変身後もマピガノスは連続で攻撃を繰り出す。その場で横一回転をしてみせて、今度は左手の裏拳で宙に浮かぶ極小の身体を的確に打ち抜いた。
「ぶぅはぁああああああッッッ?!」
凄まじい勢いで弾き飛ばされるダイラー。
だけど、それだけでは終わらない。
『炎獄超竜放射火撃!!』
右手のひらから放たれる火炎の渦。
『千雷魔弾放射電撃!!』
左手の指先から放たれる電撃の帯。
変身後のマピガノスは、四回攻撃だった。
火属性と雷属性の最上級魔法が、横一直線に飛ばされたダイラーに追い打ちをかける。
「だ……ダイラー…………」
あんな小さな身体で超強力な攻撃魔法をくらえば確実に死んでしまう。ダイラーがやられれば、次こそはあたしだ。
あたしを喰らって、あの怪物はさらに強くなる。強くなったマピガノスは、ダ=ズールを追って終焉の起源へと向かうだろう。
そこには、マルスたちもいるはず。
もう無理だよ。
マルスなら……きっと仇をとってくれる。あたしは、あきらめていた。
ダイラーが炎と雷に包まれて見えなくなった。
このままなんの痕跡もこの世に残さずに消滅してしまう。そう思ったとき、地下迷宮の通路が七色の光を浴びて輝いていた。
(えっ……この効果は……魔力吸引……!)
強力な魔力を小さな身体いっぱいに受け止めたダイラーが、壁にぶち当たる寸前で尻尾を使って跳ね返り、倒れるあたしの近くまで飛んでくる。
『中級治癒魔法!』
そして、着地よりも先に回復魔法をかけてくれた。
「ダイラー!」
「オレに構わず逃げろ、ロア!」
腹這いで着地した勇敢な魔法戦士はそう叫び、ふたたびマピガノスに立ち向かう。
傷が癒されて自由を取り戻したあたしは、起き上がってすぐさま、両手を前へ突き出して攻撃魔法の詠唱を始めた。
これは戦うためじゃない。
ふたりで逃げきるための時間稼ぎだ。
『地獄の業火よ……豊沃の大地を突き破り、我の前に立ち塞がる壁を燃やし尽くせ』
フゥオオオオオオオオオン……!
手のひらが熱い。松明から絶え間なく生まれる火属性の魔素が、吸い寄せられて集まってきたからだ。
やがてそれは、ひとつの炎の球体になった。
『苦難を薪に火の粉を飛ばし、風に舞って空まで昇れ……ふたたび土へと還りたまえ…………!』
めいっぱいにひろげた指先よりも膨らんだ炎の球体が、徐々に、さらに、大きさを増してゆき、膨張する魔素が極限にまで達したその瞬間──!
『炎獄魔弾撃!!』
打上花火以上の炸裂音を地下迷宮に轟かせながら、地を駆けるダイラーの頭上を凄まじい速さで通り越してマピガノスに襲いかかった。
絶命してもなんら不思議がないほどの大ダメージ。それなのにマピガノスは、死なずにまだ生きていた。
「プシャシャアアアアアア! んばっ、パッ、パラリら……ん、ブボゴホォォォるるるるるるるる……!」
剥き出しの喉奥から鮮血に混じって漏れ続ける奇声は、壊れた横笛から流れてくるような不快音の旋律で、耳を塞ぎたくても身動きがとれない現在のあたしは、視覚と聴覚とで地獄の光景を味わっていた。
「プルルルルルルル……ごぼごぼごぼプシュウうううう……」
片膝同様、床に着けられていた右手がゆっくりと裏返されながら大胸筋の位置まで上げられると、左手も少し遅れてから同じように持ち上がり、今度は両手が固く握り締められる。
(こいつ……なにをするつもりなの?)
その答えは、すぐにわかった。
全身の筋肉を隆起させて踏ん張りをみせた直後、マピガノスはその力だけで一気に皮膚を突き破って変身してみせた!
「グォォォガアアアアアアアアアアアアアアアアッッッツ!!」
身の毛もよだつほどの咆哮。血を撒き散らして内側から現れたのは、倍以上に身体を巨大化させた二足歩行の異形の怪物。溶岩石によく似た新しい皮膚と、丸太ん棒並みに太い尻尾からは白煙が立ち昇り、失われた頭部は戻ってはいたけれど、人面ではなくて二本の大角が生えたドラゴンの顔だった。
瀕死と思われたマピガノスは、これぞ竜人族といった真の姿に変貌して生命の危機を回避したのである。
「フン。変身は想定内……だッ!」
床を這ってちょっとずつ敵に近づいていたダイラーが、最後にそう叫んで飛び跳ねる。彼の小さな身体が光に包まれ明滅し、同じ攻撃魔法が二回連続して繰り出された。
『氷刃連撃魔法!』
シャシャシャシャシャーン!!
シャシャシャシャシャーン!!
ブーメランの形をした氷の斬撃が無数に放たれ、高速回転しながら飛んでゆく。真っ直ぐだった軌道は途中から左右に大きく弧を描いて別れると、
シュルルルルルル……! シュルルルルルルッ…………パシャアアアアアアアン!!
無防備なマピガノスの首に次々と直撃して白銀の飛沫となった。
「グルルルル……」
ダメだ、クリーンヒットしたのにほとんどダメージが無い。微動だにしないマピガノスは、ダイラーの様子をじっとうかがっていた。
魔力は回復してきているみたいだけど、トカゲの姿のままじゃドラゴンの怪物には勝てっこない。このままじゃダイラーがやられちゃう。でも、瀕死状態のあたしには、戦況を横になって見守ることしかできなかった。
「トカゲにしては強い。だが、トカゲの世界での話だ。おまえは戦いを挑む相手を間違えている。仲間を救おうとするおまえの行動は勇気ではない、蛮勇と言うのだ」
マピガノスの巨躯が消えた。
そう頭が認識した瞬間、ダイラーの目の前に突如現れ、振り上げられた大金槌のような右の拳がタイルの石床を粉々に砕く。
(なんてスピードとパワーなの!?)
間一髪のところでダイラーは飛び跳ねてかわした。
けれど、変身後もマピガノスは連続で攻撃を繰り出す。その場で横一回転をしてみせて、今度は左手の裏拳で宙に浮かぶ極小の身体を的確に打ち抜いた。
「ぶぅはぁああああああッッッ?!」
凄まじい勢いで弾き飛ばされるダイラー。
だけど、それだけでは終わらない。
『炎獄超竜放射火撃!!』
右手のひらから放たれる火炎の渦。
『千雷魔弾放射電撃!!』
左手の指先から放たれる電撃の帯。
変身後のマピガノスは、四回攻撃だった。
火属性と雷属性の最上級魔法が、横一直線に飛ばされたダイラーに追い打ちをかける。
「だ……ダイラー…………」
あんな小さな身体で超強力な攻撃魔法をくらえば確実に死んでしまう。ダイラーがやられれば、次こそはあたしだ。
あたしを喰らって、あの怪物はさらに強くなる。強くなったマピガノスは、ダ=ズールを追って終焉の起源へと向かうだろう。
そこには、マルスたちもいるはず。
もう無理だよ。
マルスなら……きっと仇をとってくれる。あたしは、あきらめていた。
ダイラーが炎と雷に包まれて見えなくなった。
このままなんの痕跡もこの世に残さずに消滅してしまう。そう思ったとき、地下迷宮の通路が七色の光を浴びて輝いていた。
(えっ……この効果は……魔力吸引……!)
強力な魔力を小さな身体いっぱいに受け止めたダイラーが、壁にぶち当たる寸前で尻尾を使って跳ね返り、倒れるあたしの近くまで飛んでくる。
『中級治癒魔法!』
そして、着地よりも先に回復魔法をかけてくれた。
「ダイラー!」
「オレに構わず逃げろ、ロア!」
腹這いで着地した勇敢な魔法戦士はそう叫び、ふたたびマピガノスに立ち向かう。
傷が癒されて自由を取り戻したあたしは、起き上がってすぐさま、両手を前へ突き出して攻撃魔法の詠唱を始めた。
これは戦うためじゃない。
ふたりで逃げきるための時間稼ぎだ。
『地獄の業火よ……豊沃の大地を突き破り、我の前に立ち塞がる壁を燃やし尽くせ』
フゥオオオオオオオオオン……!
手のひらが熱い。松明から絶え間なく生まれる火属性の魔素が、吸い寄せられて集まってきたからだ。
やがてそれは、ひとつの炎の球体になった。
『苦難を薪に火の粉を飛ばし、風に舞って空まで昇れ……ふたたび土へと還りたまえ…………!』
めいっぱいにひろげた指先よりも膨らんだ炎の球体が、徐々に、さらに、大きさを増してゆき、膨張する魔素が極限にまで達したその瞬間──!
『炎獄魔弾撃!!』
打上花火以上の炸裂音を地下迷宮に轟かせながら、地を駆けるダイラーの頭上を凄まじい速さで通り越してマピガノスに襲いかかった。
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