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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。
神をも喰らう最強戦士(3)
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あたしが泣きだしても、マピガノスは動じることもなく、流す涙だけが忙しなかった。
だけど、彼から敵意は感じられない。例えほんの少しでも、あたしの話が彼の心になにかしら響いてくれたと信じたい。
そんな気持ちで待つことしか、今の自分にはできなかった。
「ダ=ズール……大邪神……フッフッフ……ハッハッハッハッハ! おもしろい、実に愉快だ! ハッハッハッハッハ!」
まさか、大笑いされるなんて。
あたしの話術は未熟過ぎるのか、それとも、竜人族の感性が人間とかけ離れ過ぎているのだろうか。いずれにせよ、正直ショックで、傷ついた。
「人間の娘よ、大邪神ダ=ズールを倒すと言ったな? 案内をしろ」
「……えっ? い、いいの!? 仲間になってくれるの!?」
「案内をしろ」
マピガノスは返事はくれずに、要求だけを冷淡に繰り返す。
一緒に来てくれるだけでもありがたいけれど、これじゃただの案内人と雇い主の関係じゃない。ここでおとなしく従っちゃったら、この先もあたしはポロリン兄貴の下僕だ。ここは怯まずに、強気な姿勢をみせて一度くらい〝キャーン!〟って言わせてやらないと!
「ちょっとさあ、さっきからアンタねぇ」
「案内をしろ」
「……自分の言いたいことだけ言ってくれちゃってさぁ」
「案内をしろ」
「……一緒に行動をするなら、とくにダンジョン内では、信頼関係が大事なの! わかる? 信・頼・関・係!」
「案内をしろ」
「……ちょっ──」
「案内をしろ」
「…………」
ダメだ。すっげー頑固者だわコイツ。
めちゃくちゃイラつくけど、一対一で戦っても勝てる気がしないし、でも従いたくないし、結局どうすればいいのかさえ見失っちゃうし。
(ロア、ロア!)
そんなとき、小声で誰かに呼ばれたかと思えば、ふくらはぎの後ろから〝なにか〟がコチョコチョとよじ登ってくる。すぐにダイラーだってわかったから、あたしはなに食わぬ顔のままでいた。
必然的にスカートの中にまで侵入したダイラーは、そのまま背中を抜けて襟足へたどり着き、髪の中に隠れた。うら若き乙女の乳首とお尻の二冠達成しやがって……あとで絶対に全力でしばく、しばき倒すッッッ!
(なんだ、汗ばんでいるな。暑いのか? それはともかく、途中から話は聞かせてもらったぞ。いいか、竜人族はとても傲慢な戦闘民族だ。まともな会話なんて無理に決まっている、あきらめろ)
(だけど、このまま従うのは嫌よ)
(たしかに。いっそのこと、相手の目的をハッキリと訊け。最悪の展開になったとしても、それは時期が早まっただけに過ぎん)
ダイラーの言うとおり、機嫌を損ねて襲われる相手なら、いつかは戦うことになるはず。下手な駆け引きはもうやめて、マピガノスに訊ねてみた。
「ねえ、案内するまえに訊かせて。あなたもダ=ズールを倒すつもりなの? それって、さっき話してた裏切り者と関係があるの? 闇の女神もここにいるの? ちゃんと教えてくれないと、道案内してあげないんだから!」
さっきまでとは違い、マピガノスはあたしの質問すべてを沈黙で答えた。
正直、道に迷っているあたしに案内なんて出来っこない。すぐにバレて戦闘になるだろう。でも幸いなことに、闇の波動の影響で魔力もかなり回復していた。あとは、伝説の竜人族と戦う覚悟を決めるだけ。
嫌な緊張感で喉が渇く。涙で水分を使い過ぎちゃったかも。
と、マピガノスが重い口をついに開く。
「いいだろう。大邪神ダ=ズールはおそらく、キリ=オと関係があるはずだ。いや……確実と言うべきか」
「そのキリ=オとかいう奴も竜人族なの?」
「ああ。だが、半人前の分際で、闇の女神をエレロイダに連れ去った。造反者に成り下がった、救いのない男だ。裏切り者には死を──それは、一族も同罪。残すはキリ=オのみ」
なんてむごい掟なの……仲間を裏切ったとはいえ、家族や親戚まで皆殺しにするなんて……。
「でも……だけどさ、竜人族がとっても強いのはよくわかるけど、ひとりで闇の女神を連れ去るなんてできるの? それとね、竜人族と女神様の関係もよくわからないから教えてよ」
この質問を最後に、マピガノスは、なにも答えてはくれなくなった。
とりあえず短いやり取りでわかったことは、闇の女神を連れ去った竜人族の裏切り者がラストダンジョンに居て、しかも、ダ=ズールと関係が…………ん? アレ?
「あのね……ちょっとさあ、確認したいんだけども……竜人族って数千年前に滅んだじゃない? 女神様はともかく、キリ=オってまだ生きてるの?」
「……なに? 竜人族が滅んだだと?」
あっ、ほらね、やっぱり。知らなかったパターンだ。
さっきビューッって騒がしく出てきたから、数千年間ラストダンジョンで閉じ込められてたパターンなんだ。
「うん。落ち着いて聞いてほしいんだけどね、多分あなたは、罠かなにかの原因で数千年間ここに閉じ込められてたんじゃないかな? だからその、場合によってはキリ=オも女神様も、どっか別の所に移動を──」
「ハッハッハッハッハ!」
マピガノスが豪快に笑って言葉の続きをさえぎる。
「このマピガノスが、小僧にまたしてもやられるとはな! ハッハッハッハ!……まあいい。新たな目的として、竜人族の復興が増えただけの話」
そう言い終えると、マピガノスの目が一瞬で深紅に染まり、燃えるように輝いた。
「見える……見えるぞ……終焉の起源より流れ込む闇の波動の中にキリ=オとデレリアの魔力を強く感じる。即ち、これこそふたりが生きている証拠。さあ、早く案内をしてもらおうか。あやつらめ、憎たらしくもまだ力を増幅させるつもりのようだ」
殺気をまとう紅い眼のマピガノスが、鎧のような筋肉をさらに隆起させてあたしに凄む。正気の人間なら、こんな怪物とひとりで戦おうなんて絶対に思わないはずだ。
こんなところで死にたくない──痛い思いをして死にたくない──今すぐ帰りたい──お家に帰りたい──そんな情けない恐怖心で頭がいっぱいになる。
(おいロア、とにかく進むぞ。なるべくゆっくりと歩きながら、なにか策を考えるんだ)
(そう……ね。そうするのが正解だよね)
とりあえず今は、案内する振りをして様子を見よう。きっとまた、なにか妙案を思いつくはずだから。
「それじゃあ、行きましょうか」
なるべく平静を装ってきびすを返す。そもそも、こっちの方角で合っているのかもわからずに。
「……待て」
突然、静かな声で呼び止められたから、緊張感で破裂寸前の心臓がドキンて跳ねた。
「なんなのよ、いったい? まさか、手を繋いで案内しろって言うんじゃないでしょうね? 特別料金を貰うわよ?」
「気づけなかったが、深紅眼状態の今は違う。おまえの身体から闇の女神の魔力を感じる。すっかりと騙されたぞ」
「……みゃ?」
闇の女神の魔力って、なんですか?
あたしの血筋は、お父様もお母様もずっと先までさかのぼっていっても、由緒正しい名門貴族の家柄なんだけど、めちゃんこ長い家系図に闇の女神云々の記述なんてどこにも書いては……………アアッ!?
『ロアよ、おまえに我の力を与える』
『我の真の姿は、光にある。我は、闇に育まれた光なのだ』
ミメシスゥゥゥゥゥゥッッッツ!!
「貧弱な小娘の姿をしているが、女神の力を宿していたとはな。どれ、数千年振りの食事に、おまえを喰らって戦闘力を上げるとしよう」
深紅に染まった妖しい目が、あたしを見つめて逃さない。あの目を見ていると、なんだか不思議と足がすくんじゃう。
「く、喰らうの!? えっ、やだやだやだ! なんなのよ、その展開は!?」
「プハーッ! 落ち着け、ロア! 竜人族はな、相手を食べて能力を上げられる特性を持つ種族なんだ!」
髪の毛の中から顔を出して、ダイラーが叫ぶ。
「なによそれ!? キモいし、ズルいんですけどぉぉぉ!?」
竜人族にそんな秘密があったなんて、さすがのあたしも知らなかった。王立図書館の古文書にも記されていない貴重な情報を、どうもありがとうダイラー!
不適に笑うマピガノスがゆっくりと近づいてくる。
その表情と同じように、余裕を感じさせる王者の歩みで。
「食べられて冒険が終わるなんて、冗談じゃないわよ!」
攻撃魔法の詠唱を始めながら、あたしは走った──。
だけど、彼から敵意は感じられない。例えほんの少しでも、あたしの話が彼の心になにかしら響いてくれたと信じたい。
そんな気持ちで待つことしか、今の自分にはできなかった。
「ダ=ズール……大邪神……フッフッフ……ハッハッハッハッハ! おもしろい、実に愉快だ! ハッハッハッハッハ!」
まさか、大笑いされるなんて。
あたしの話術は未熟過ぎるのか、それとも、竜人族の感性が人間とかけ離れ過ぎているのだろうか。いずれにせよ、正直ショックで、傷ついた。
「人間の娘よ、大邪神ダ=ズールを倒すと言ったな? 案内をしろ」
「……えっ? い、いいの!? 仲間になってくれるの!?」
「案内をしろ」
マピガノスは返事はくれずに、要求だけを冷淡に繰り返す。
一緒に来てくれるだけでもありがたいけれど、これじゃただの案内人と雇い主の関係じゃない。ここでおとなしく従っちゃったら、この先もあたしはポロリン兄貴の下僕だ。ここは怯まずに、強気な姿勢をみせて一度くらい〝キャーン!〟って言わせてやらないと!
「ちょっとさあ、さっきからアンタねぇ」
「案内をしろ」
「……自分の言いたいことだけ言ってくれちゃってさぁ」
「案内をしろ」
「……一緒に行動をするなら、とくにダンジョン内では、信頼関係が大事なの! わかる? 信・頼・関・係!」
「案内をしろ」
「……ちょっ──」
「案内をしろ」
「…………」
ダメだ。すっげー頑固者だわコイツ。
めちゃくちゃイラつくけど、一対一で戦っても勝てる気がしないし、でも従いたくないし、結局どうすればいいのかさえ見失っちゃうし。
(ロア、ロア!)
そんなとき、小声で誰かに呼ばれたかと思えば、ふくらはぎの後ろから〝なにか〟がコチョコチョとよじ登ってくる。すぐにダイラーだってわかったから、あたしはなに食わぬ顔のままでいた。
必然的にスカートの中にまで侵入したダイラーは、そのまま背中を抜けて襟足へたどり着き、髪の中に隠れた。うら若き乙女の乳首とお尻の二冠達成しやがって……あとで絶対に全力でしばく、しばき倒すッッッ!
(なんだ、汗ばんでいるな。暑いのか? それはともかく、途中から話は聞かせてもらったぞ。いいか、竜人族はとても傲慢な戦闘民族だ。まともな会話なんて無理に決まっている、あきらめろ)
(だけど、このまま従うのは嫌よ)
(たしかに。いっそのこと、相手の目的をハッキリと訊け。最悪の展開になったとしても、それは時期が早まっただけに過ぎん)
ダイラーの言うとおり、機嫌を損ねて襲われる相手なら、いつかは戦うことになるはず。下手な駆け引きはもうやめて、マピガノスに訊ねてみた。
「ねえ、案内するまえに訊かせて。あなたもダ=ズールを倒すつもりなの? それって、さっき話してた裏切り者と関係があるの? 闇の女神もここにいるの? ちゃんと教えてくれないと、道案内してあげないんだから!」
さっきまでとは違い、マピガノスはあたしの質問すべてを沈黙で答えた。
正直、道に迷っているあたしに案内なんて出来っこない。すぐにバレて戦闘になるだろう。でも幸いなことに、闇の波動の影響で魔力もかなり回復していた。あとは、伝説の竜人族と戦う覚悟を決めるだけ。
嫌な緊張感で喉が渇く。涙で水分を使い過ぎちゃったかも。
と、マピガノスが重い口をついに開く。
「いいだろう。大邪神ダ=ズールはおそらく、キリ=オと関係があるはずだ。いや……確実と言うべきか」
「そのキリ=オとかいう奴も竜人族なの?」
「ああ。だが、半人前の分際で、闇の女神をエレロイダに連れ去った。造反者に成り下がった、救いのない男だ。裏切り者には死を──それは、一族も同罪。残すはキリ=オのみ」
なんてむごい掟なの……仲間を裏切ったとはいえ、家族や親戚まで皆殺しにするなんて……。
「でも……だけどさ、竜人族がとっても強いのはよくわかるけど、ひとりで闇の女神を連れ去るなんてできるの? それとね、竜人族と女神様の関係もよくわからないから教えてよ」
この質問を最後に、マピガノスは、なにも答えてはくれなくなった。
とりあえず短いやり取りでわかったことは、闇の女神を連れ去った竜人族の裏切り者がラストダンジョンに居て、しかも、ダ=ズールと関係が…………ん? アレ?
「あのね……ちょっとさあ、確認したいんだけども……竜人族って数千年前に滅んだじゃない? 女神様はともかく、キリ=オってまだ生きてるの?」
「……なに? 竜人族が滅んだだと?」
あっ、ほらね、やっぱり。知らなかったパターンだ。
さっきビューッって騒がしく出てきたから、数千年間ラストダンジョンで閉じ込められてたパターンなんだ。
「うん。落ち着いて聞いてほしいんだけどね、多分あなたは、罠かなにかの原因で数千年間ここに閉じ込められてたんじゃないかな? だからその、場合によってはキリ=オも女神様も、どっか別の所に移動を──」
「ハッハッハッハッハ!」
マピガノスが豪快に笑って言葉の続きをさえぎる。
「このマピガノスが、小僧にまたしてもやられるとはな! ハッハッハッハ!……まあいい。新たな目的として、竜人族の復興が増えただけの話」
そう言い終えると、マピガノスの目が一瞬で深紅に染まり、燃えるように輝いた。
「見える……見えるぞ……終焉の起源より流れ込む闇の波動の中にキリ=オとデレリアの魔力を強く感じる。即ち、これこそふたりが生きている証拠。さあ、早く案内をしてもらおうか。あやつらめ、憎たらしくもまだ力を増幅させるつもりのようだ」
殺気をまとう紅い眼のマピガノスが、鎧のような筋肉をさらに隆起させてあたしに凄む。正気の人間なら、こんな怪物とひとりで戦おうなんて絶対に思わないはずだ。
こんなところで死にたくない──痛い思いをして死にたくない──今すぐ帰りたい──お家に帰りたい──そんな情けない恐怖心で頭がいっぱいになる。
(おいロア、とにかく進むぞ。なるべくゆっくりと歩きながら、なにか策を考えるんだ)
(そう……ね。そうするのが正解だよね)
とりあえず今は、案内する振りをして様子を見よう。きっとまた、なにか妙案を思いつくはずだから。
「それじゃあ、行きましょうか」
なるべく平静を装ってきびすを返す。そもそも、こっちの方角で合っているのかもわからずに。
「……待て」
突然、静かな声で呼び止められたから、緊張感で破裂寸前の心臓がドキンて跳ねた。
「なんなのよ、いったい? まさか、手を繋いで案内しろって言うんじゃないでしょうね? 特別料金を貰うわよ?」
「気づけなかったが、深紅眼状態の今は違う。おまえの身体から闇の女神の魔力を感じる。すっかりと騙されたぞ」
「……みゃ?」
闇の女神の魔力って、なんですか?
あたしの血筋は、お父様もお母様もずっと先までさかのぼっていっても、由緒正しい名門貴族の家柄なんだけど、めちゃんこ長い家系図に闇の女神云々の記述なんてどこにも書いては……………アアッ!?
『ロアよ、おまえに我の力を与える』
『我の真の姿は、光にある。我は、闇に育まれた光なのだ』
ミメシスゥゥゥゥゥゥッッッツ!!
「貧弱な小娘の姿をしているが、女神の力を宿していたとはな。どれ、数千年振りの食事に、おまえを喰らって戦闘力を上げるとしよう」
深紅に染まった妖しい目が、あたしを見つめて逃さない。あの目を見ていると、なんだか不思議と足がすくんじゃう。
「く、喰らうの!? えっ、やだやだやだ! なんなのよ、その展開は!?」
「プハーッ! 落ち着け、ロア! 竜人族はな、相手を食べて能力を上げられる特性を持つ種族なんだ!」
髪の毛の中から顔を出して、ダイラーが叫ぶ。
「なによそれ!? キモいし、ズルいんですけどぉぉぉ!?」
竜人族にそんな秘密があったなんて、さすがのあたしも知らなかった。王立図書館の古文書にも記されていない貴重な情報を、どうもありがとうダイラー!
不適に笑うマピガノスがゆっくりと近づいてくる。
その表情と同じように、余裕を感じさせる王者の歩みで。
「食べられて冒険が終わるなんて、冗談じゃないわよ!」
攻撃魔法の詠唱を始めながら、あたしは走った──。
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