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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

もうひとりじゃない

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 お互いに〝もう潰さない・もう噛じらない〟って約束を交わしたあたしたちは、元の世界に帰るまでの期間限定で、一緒にパーティーを組むことになった。
 ……までは良かったんだけど、気がつけば案内ガイド役の光る蝶を完全に見失ってしまい、しかたなく地下迷宮を地道に探索していた。

「そーれっ」

 カン、コン、カンカン!

「……おい、ロア。警戒する気持ちはわかるが、通る道すべてに石ころを投げて歩くつもりなのか?」
「だって、しょうがないじゃない。罠を見抜く能力スキルも魔法も覚えてないから、こうやって進むのがいちばん安全なのよ」

 左肩に乗っかっているだけのダイラーの質問に、あたしは軽くイラついていた。
 身体に取り込まれている魔宝石がある程度回復するまでの時間、ダイラーは小さなトカゲの姿なので戦闘に参加できない。それに、あたしとは歩幅が違うし、早く回復するためにも体力を温存する必要がある。
 で、結局はこうして肩に乗せて移動しているんだけど……文句だけ言われちゃうと、やっぱり頭にきちゃうのよねぇー。

「やれやれ、この調子なら順調に魔宝石も回復できそうだ。それより、オレは気を失っていたから見てはいないが、光る蝶がラストダンジョンに飛んでいるものなのか? そもそも、本当におまえは見たのか?」
「ちょっとダイラー、なによそれ? あたしが幻覚に踊らされてるってゆーの? あたしは正気だし、何度も言ってるけど、頭の中の前意識にも仲間がほかにいるから、ひとりに見えてもひとりじゃない。助言もしてくれるし、超強力な魔力まで貸してくれているおかげで、今現在のあたしは、世界最強の黒魔導師なの。そんなあたしが見間違えるはずないでしょ、もう!」

 話だけ聞いてたら、絶対に病院へ連れて行かれそうな言葉の数々だけど、そのすべてが嘘じゃなくて本当のことだ。でも、ミメシスはまだ眠ったままで返事をしてはくれない。それに起きてくれても、ダイラーには彼女の声が聞こえないだろう。

「残念ながら、おまえの頭の中の声を聞くことはオレには出来ない。……仲間の裏切りや色々とあって、おまえも大変だったろう。魔物の気配も今は感じられん。少しここで休んだらどうだ?」
「あははーん、ダイラー、ダイラー、ねえダイラー。あたし全然疲れてないよ? 話したことだって、全部真実なの。嘘じゃないし、夢でもない」
「ロア、孤独な時間というものは永遠じゃない。実際こうしてオレがそばにいる。ほんの数時間前までは、お互いに命を賭けて戦ったというのに、だ。おかしな話ではあるが、これこそ運命というヤツだ」
「うん、ちょっと待って。だからあたしは正気だし、本当に頭の中にもうひとり仲間が……ねえミメシス、聞こえてる!? 早く起きて出てきて!」
「ロア…………おまえはもう、ひとりじゃない」
「謎のうなずきはやめて! 顔がトカゲだから表情がわからないけど、そんな目で見ないでよ! 口の動きだけで〝大丈夫だから〟って言うのもやめて!」

 これだけ騒いでも、ミメシスが起きてくれる様子はなかった。
 本当にどうしたんだろう……よっぽど疲れてて、体力を温存しているのかな?

「はっはっは、冗談さ。気が張ってばかりでは、疑心暗鬼になってヘマをするぞ。どうだ? リラックスできただろう?」
「えっ? そうなの? なーんだ、もうやだぁ! あと少しイラついてたら、石ころの代わりにぶん投げて転がすとこだったじゃないのよ、もう♡」
「…………」

 なぜか固まって動かないダイラーの鼻先を、笑いかけながら人差し指でちょこんと押す。
 さすがはダイラー、仲間になったばかりのあたしを気にかけてくれていたんだね。身体は小さいけれど、とても頼りになる大人の男性──マルスと違って、やっぱり器が違う。

 光の四戦士と闇の使徒、それに六魔将軍と言う凄まじい肩書きのおかしなパーティー。

 これが、今のあたしの仲間たち。
 今のあたしは、もうひとりじゃない。
 そう思えるだけで、自然と笑顔になれた。

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