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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

闇の波動

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「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!」

 両手で水を掬い上げるような格好のまま、気絶するダイラーを手のひらに乗せて、地下迷宮を全力疾走で駆け抜ける。そんなあたしよりもさらに猛スピードで、光る蝶は乱舞して先をゆく。

「ガァァァァァァァァァァッ!」
「ウォオオオオオオオオオン!」
「グゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!」

 デカイ図体の割りには、石像魔人たちも結構な速さで追いかけてきていた。逃げきれる自信はあるけれど、油断してまたなにかの罠にかかって爆死しないか不安でもあった。今はただ、蝶々を信じてあとに続くのみ。
 何度目かの角を曲がると、そこは行き止まりだった。
 絶望感よりも真っ先に微笑えみがこぼれる。
 光る蝶も、あたしも、誰も悪くない。悪いのはすべて、あたしの選択肢だ。選べる選択肢が全部ろくなもんじゃない。
 けれども蝶々は、お構いなしで輝きながら、行き止まりの石壁の中へと飛んで消えていった。

「げっ、マジっスか!?……ええい、どうにでもなれっ!」

 ぶつかる覚悟で、目を強く閉じてそのまま突進。
 最悪のパターンだと、壁に激突してひっくり返った直後、数百キロの巨体に次々と顔や身体を踏みつけられ、たったの十七年であたしの短くて極太な生涯が幕を閉じる。
 だけど、前髪に触れたのは微弱な磁場じばの反作用。痛くないおでこの理由を探るべく、思いっきり閉じていた両目の片方だけを開ければ、地下迷宮はまだまだ先へと長く続いていた。どうやらあの行き止まりは、空間を部分的に魔力で屈折させて幻視化させた魔法障壁だったようだ。

「た……助かった……のかな、あたしたち?」

 まっすぐ駆けながら振り返る。石像モンスターどもは魔法障壁を通り抜けられなかったみたいで、なにも追いかけては来なかった。
 徐々に走る速度スピードを緩めながら、手のひらで眠るダイラーの様子を見ると、何気に可愛らしい寝姿の小さなお腹が呼吸のたびに動いていた。良かった、なんとか生きてはいるみたい。
 寝言で「黒葡萄をもうひと粒食べるとしよう……ムニャムニャ」ってほざきやがったので、軽く〝キュッ〟と両手を握り締めたあたしは、光る蝶の行方を探しつつ前へ進む。
 周囲はさっきまでとは違い、闇の力がよりいっそう濃く充満していた。
 これこそ、大邪神の闇の波動。ダ=ズールに近づいてきているあかし。もう時間は無かった。
 最終決戦が始まれば、女神フリーディアに託された光の力が発動する。そのときはもう、戦いが終わるまで──勝利するまで元の世界へは帰れない。だけど、今のあたしは、マルスたちのパーティーに加わることが出来なかった。

「なんのための冒険だったんだろう……いっぱい戦ってきて、いっぱい危ない目にもあって、三回も死んじゃってさ……それなのに、今のあたしって……ひとりぼっちになったから、おうちに帰ろうって必死なんだよ? みじめ過ぎて笑うに笑えないよ……」

 手のひらの上であぶくまで噴いて痙攣けいれんするダイラーは、あたりまえだけど返事をしてはくれない。それでも、なんだか不思議と気分が晴れ晴れとしてきて、魔力までみなぎってくる。
 愚痴をこぼしたからストレスは多少軽減されたけど、理由はそれだけじゃない。空っぽ同然だったあたしの魔力が、ほんの少しずつ回復をしていた。これってまさか、闇の波動の影響じゃないのかな……!?

 黒魔導師は黒魔法を操る術者の最高位だから、闇属性の魔法も当然扱える。そのおかげでどうやら、闇の波動を浴びたあたしの身体は回復を始めたようだ。
 でも、素直によろこんではいられない。
 このまま闇の波動を吸収し続けて許容範囲を超えると、あたしの肉体と魂は闇のエネルギーに支配されてしまい、身体が風船みたくどんどん膨らんでいって木っ端微塵に破裂する。もしくは、世にもおぞましい魔獣へと変貌して理性までも失ってしまうだろう。

「冒険の最後がひとりぼっちで魔獣になるなんて、絶対に嫌だよ……」
「たしかに、オススメはできないな」

 手のひらから聞こえる男の声に視線を向ける。
 いつの間に目覚めたのか、瀕死状態だったダイラーが元気そうにこちらを見上げていた。

「ダイラー!」
「ぬおっ!? おい、大声を出さないでくれ! おまえとは身体のサイズが違うんだぞ!」
「そっか、ダイラーも闇の波動を浴びて回復できたんだね♪」
「ああ。このまま上手くいけば魔宝石も満タンになって、一緒に戦えるはずだ」

 ちょこんとすわるダイラーが、小さなお腹を右前脚で撫でさする。そのときにちょっとだけ、紅い光が透けて見えた。

「一緒にって……仲間になってくれるの!?」
「ウム。不本意ではあるが、な。ここまで来たからには、最後までつきあおう。どうせあてのない我が身、どこで朽ち果てても変わりあるまい」

 そう言いながらダイラーは、両目を閉じてかぶりを振った。

「ダイラー! 本当にありがとう!」

 感激のあまり、両手に力が込もる。

 ギュッ、ぷちゅん!

「あ」

 ごめんね、ダイラー……。

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