ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

黒巻雷鳴

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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

ひと粒の奇襲攻撃

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 あたしは走っていた。
 近頃、よく走ってる。
 健康的に聞こえるけれど、そーゆー意味じゃない。
 あたしは走っていた。
 とにかく、走っていた。

「ギャアアアアアアス!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 翼の生えていない赤紫色のドラゴンが、怒り狂って追いかけてくる。一瞬でも立ち止まれば喰われる。だから逃げてる。
 お嬢様育ちのあたしは、運動が苦手だ。
 そっち系の能力スキルは、なにひとつ持ってはいない。だけど、ひとりぼっちになってから走り込んでいるおかげで相当逃げ足が速くなったし、成功率も飛躍的に上昇していた。
 つまり、今のあたしは〝走り屋〟だ。
 通ったことのある道だから、迷わず突き進む。曲がり角も怖くない。罠がある場所だって、承知していますとも。

「ハイッ、ホイッ、てりゃッ!」

 左右交互の軽やかな片足ステップ──からの大ジャンプ。移動魔法陣に跳び込んでも血文字が消えないコツを掴んだ。
 下着パンツが全開でも気にしない。恥ずかしいのも、生きているからこそ。赤面するのは、助かってからでも充分間に合う。

 ブゥゥゥゥン……シュポォォォォォ!

 血でえがかれた魔法円から舞い上がる深紅の光の粒子に包まれて、身体が瞬時に霧散する。
 そして、爆死したあの地下迷宮までなんとか無事に戻ってこれた。
 これより先は、初めて通る場所。
 魔力は相変わらず空っぽだけど、宝箱には近づきたくないから、このまま逃げまくって進むつもりだ。
 でも、いくら約束を守るためとはいえ、今のあたしがマルスたちと合流しても、なにもすることが出来ない。魔力が無ければ──魔法を使えなければ、まともに戦えない存在。ふと、だから捨てられたのかなって、考えてしまった。

「みゃ? この蝶々は……」

 ナーバスになっているあたしを出迎えてくれたのは、一頭の光り輝く蝶。ふわりふわりと優雅に虚空を舞い踊るその姿は、待ちぼうけをされて怒っている時のプリシラになんだか似ていた。

「アハハハ、ごめんごめん」

 いつかと同じように、遅刻を謝る。
 キラキラと金色の鱗粉をわずかにこぼしながら、光る蝶は拗ねた風にして先へ飛んでいってしまった。もしかして……さっきもそうだけど、道案内をしてくれているのかな?

「ちょっと……ねえ、待ってよ蝶々さーん!」

 もしそうだとしたら、きっと次の移動魔法陣まで連れて行ってくれるはず。光る蝶のあとに続いて、ほんの少しだけ早歩き。
 石造りの壁に等間隔で燃えさかっている松明たいまつが、侵入者を嘲笑うように揺らめく。周囲に魔物の気配は感じられない。結構深くまで降りてきているはずなのに──まさか、とんでもなく強いモンスターがこの先で番人として待ち受けているとか……? だとしたら、絶対に逃げられないし。
 ……ん? あっ、そうか。強敵が何匹いても、先を進んでいるマルスたちがやっつけてくれているから戦わなくて済むじゃない!
 気が楽になったあたしは、そのとき警戒心まで緩めてしまっていた。通り過ぎた石造りの壁から、身の丈三メートルを優に越える石像魔人が次々と現れていることにまったく気づけなかった。

 ゴゴゴ……ゴゴゴゴ……。

 石臼をまわすような音が背後から聞こえる。
 それもひとつじゃなくって、ふたつでもなくって、いっぱいだ。

「…………」

 それでもあたしは、振り向かない。
 見ちゃダメ。気づいちゃダメ。
 多分絶対に、目が合った瞬間に戦闘が始まるはずだから。

「…………」

 黙々と光る蝶を追いかける。さらに早める歩調に合わせて、後ろからもなんか、ズシーンズシーン足音が響いてくる。

「…………」

 まだですか……魔法円……凄まじい殺気と熱視線で、あたしの背中に汗がひと滴垂れる。そんなとき、胸もとのダイラーが運悪く目を覚ました。

「ムニャムニャ……むっ? なんだ、ここは? 暗くてやけに狭いぞ?」

 寝ててよ、ダイラー。もうちょっとしたら出してあげるから寝てろー。そして揉んでるー。乙女の乳肉ちちにく、直に揉んでるー。

「それに汗臭いな……まさか、ここは冥界の汗地獄か?」

 美少女の胸に挟まれてる天国を汗地獄って表現するのはマジやめて! 知らない人が聞いたら、あたしの体臭が地獄レベルに聞こえるからマジやめて!

「窮屈ではあるが、案外ブカブカで動けるな。おや? こんなところに黒葡萄がひと粒。ちょうど腹も空いていたし、いただくとしよう……カプッ!」
ったあああああああああああああああああああああああああッッッツ?!」

 左乳首が奇襲攻撃受けた瞬間、あたしの身体が大きく仰け反る。石像魔人の集団と目が合ってもなお、左乳首が甘噛みされ続けていた。

「はむはむはむはむ」
「痛い痛い痛い痛い! ……うぐっ、やめろぉ…………この変態赤ちゃんトカゲっ!」

 ビターン!

 怒りと恥ずかしさのあまり、左乳首からダイラーを引き剥がしたあたしは、そのまま手加減無しのクリティカルヒットで、おもいっきり床石へと叩きつけてしまった。

「あ」
「ムキュ~…………」

 ごめんね、ダイラー……。

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