ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

黒巻雷鳴

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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

挿話 鋼鉄の魔獣

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 失われていたあたしの意識が、手首の痛みによって呼び戻される。やがてそれは鈍い痛みに変わり、実は激痛であったことがわかってくる。

「……ん……ムフゥ?!」

 気がつくと、手首が鎖でグルグル巻きにされた状態で天井から吊るされていた。そしてさらに、魔法詠唱を無効果するための護符が口もとにぴったりと貼り付けられてもいた。これを唇から剥がすとき、めっちゃ痛いに違いない。

「んー! んー!」

 まわりを見れば、とても物騒で個性的な趣きがある様々な金属製の器具が置かれていた。ここってもしかして、拷問部屋じゃないの!?
 あたしみたいな、か弱い乙女にまでこんなひどいことをするなんて……帝国軍の鬼畜の所業に怒りが込み上げる。

 大密林ジャングルに建造された帝国軍の秘密基地・人面塔じんめんとうに潜入したまでは良かったんだけど──みんなと離れ離れになった挙げ句、道に迷って落とし穴の罠にかかってしまったあたしは、どうやら敵に捕まったようだ。

 手首の痛覚が麻痺して意識もまた途絶えかけた頃、四本も腕がある猿顔のモンスター、六魔将軍オッシモが扉を開けて現れた。

「キャッキャッキャッ! 人面塔に侵入するとは、なんて愚かな人間だ。おい小娘、ほかの仲間はどこにいる?」
「…………」
「そうか、だんまりか。だがな、その強がりもいつまでつかな?  ジャジャ~ン!」

 オッシモが得意気にトゲだらけの大きな棍棒を掲げてみせる。きっとアレで、あたしをタコ殴りにするつもりだろう。

「これが最後の機会チャンスだ。おい、ほかの仲間はどこに隠れている?」
「…………」
「キャッキャッキャッ! 愚かな人間め。どうしてもしゃべりたくないなら、おまえの身体に直接訊いてやる!」

 いや、さっきからなにを訊かれても、口が塞がれているからしゃべりたくてもなにもしゃべれないし。見てくれだけじゃなくって、脳ミソも猿並みなのかよコイツ。

「……と、そのまえに」

 棍棒を握る手を下ろしたオッシモは一歩前に近づくと、宙吊り状態のあたしを舐めるように嫌らしくながめた。

「よく見ると……可愛いなァ、おまえ。ボコボコのグチャグチャのミンチ肉にするには少々もったいない。オレ様は優しい男だからなァ……ふむ、オレ様専用の玩具おもちゃにするかなァ……ウキャキャキャキャキャ!」
「?! うー! うー!」

 こんなアホ猿に好き放題されてたまるかよ、こん畜生チクショウ! だけど、必死になっていくら暴れても、吊るされて自由が奪われた身体は、前後左右にただむなしく揺れ動くだけだった。

「さーて、先ずはどんなおパンティを穿いているのか調べてやる……ウキャキャキャ♡」

 鼻息を荒くして舌舐めずりまでしてみせるスケベ猿。不愉快極まりない醜悪な顔と指先が、ゆっくりと魔法衣のミニスカートに一直線で近づいてくる。
 助けて、誰か……お願い、助けて……早く助けに来なさいよ、バカマルス!

「──なにをしている、オッシモ」
「ウキャッ!?」

 そのとき、誰もいなかったはずの場所に鉄仮面の男が突如として現れた。
 銀色の甲冑と鉄仮面には、その細部に至るまで施された邪悪な造形美が死のオーラをまとって鈍い輝きを放っている。そんな不気味な容姿から、男は〝鋼鉄の魔獣〟と呼ばれ恐れられていた────なんて、それっぽい文言が、あたしの頭にふと浮かんですぐに消えた。

「だ、ダイラー……どうしておまえが人面塔ここに?」
「皇帝陛下より直々の命令を受けてな。こうして辺境の地まで猿まわし・・・・をやりに飛んで来たのさ」
「なんだと……ムキーッ!」

 ダイラーと呼ばれた男は、瞬間移動の魔法が使えるみたい。それって、現在いまのあたしにはまだ扱うことが出来ない上級の移動用魔法だ。
 よくわからないけれど、仲間同士で揉めはじめていた。今のうちにマルスが助けに来てくれるといいんだけど…………。

「立ち去れ、オッシモ。勇者を返り討ちにして、その首を皇帝陛下に捧げよ」
「……クソッ! 去る・・!」

 なんか微妙な捨てゼリフを残したオッシモは、わざとらしく大きな足音をたてながら、扉も思いっきり後ろ手で閉めて部屋を出ていった。
 スケベ猿の驚異はこれで去ったけれど、まだ拷問部屋にはダイラーがいる。
 あ。いま目が合った。
 あ。こっちに来る。
 あ。これって、一難去ってまた一難的なパターンでしょ絶対。

「うー! うー!」

 宙吊りの状態でふたたび大暴れするあたし。もちろん、パンツが見えないように下半身は極力おしとやかに。

「むふぅッ!?」

 そんな乙女の抵抗も虚しく、ダイラーがとうとうあたしの腰に抱きつく。やめて、触るな、この鋼鉄のド変態!
 そのままあたしを持ち上げたダイラーは、腰に携えていたつるぎを抜き取った。スケベ目的じゃなくて、猟奇的なほうのパターン!? ブスリと美少女黒魔導師が突き刺されてダイラーが大笑いして終わるバッドエンドなの!?
 だけど、ダイラーはなぜか、天井から伸びる鎖を断ち斬った。鎖の拘束から解放されたあたしは、ダイラーに抱かれていたので落っこちなくて済んだ。
 それからダイラーは、床の上に降ろしてもくれた。もしかして、このまま逃がしてくれるパターン?

「魔封じの護符は、自分で外せ」
「……いたッ!? やっぱりいたッ!」
「言っておくが、勘違いをするなよ。おまえは、勇者をおびせるためのおとりだ。疲弊しすぎて死なれては困る」
「……ふーん、そうなんふぁ」

 腫れ上がった唇をさすりながら敵の様子をうかがう。マントをひるがえして背中を見せるダイラーが、扉に向かって歩きはじめた。

「あっ、ねえ待ってよ!」
「……なんだ?」
「助けてくれてありがとう。あたしの名前は、ロアよ」
「…………」

 ダイラーはなにも答えずに、そのまま部屋を出て行った。


 しばらくしてから、マルスたちが天井の通気孔から落っこちてきて無事に合流することができた。
 ダイラーが六魔将軍であることを知ったのは、この出来事からまだ大分と先の話だ。そのときの彼も、帝国軍の卑劣な手口で窮地に陥ったあたしたちを助けてくれた。

 だからあたしは──ダイラーが崖に落下する直前、思わず手を伸ばして彼を助けようとした。
 だけど彼は、ダイラーは気づいていたはずなのに……それを拒んで…………。


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