ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

黒巻雷鳴

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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

まだ子供のままでいい

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 仰向けで目覚める。
 背中にゴツゴツとした物が当たって不快だ。
 えっ、寝てたの?
 ここは……どこ?
 なんか薄暗いし……洞窟の中?

「──洞窟?!」

 慌てて起き上がったあたしは、弱々しい光を放つ魔法円のそばで倒れていることに気づく。

「これって……セーブポイント……」

 繰り返される密やかなまたたきを見つめながら、いったい自分になにがあったのかと記憶を呼び戻す。
 たしか、ビキニの水着から元の装備品に着替えて……大理石の隠し部屋を出て……光る蝶のあとについて行って……それから……えーっと……。

「あっ、宝箱!」

 そうそう、思い出した! 見つけた宝箱に稀少道具レアアイテムのにおいを嗅ぎとったあたしは、そのまま一直線に進んでいって──。

 かーらーのぉ、大爆発。

 で、多分、おそらく、それが死因になって、セーブポイントまで飛ばされたんだと思う。

 あたしたちが住む世界では、光の女神フリーディアに祝福されて冒険の旅に出た者にだけ、この光る魔法円セーブポイントが見える。
 その上に立つと、旅の中で経験したすべてを残留思念として記録することができて、そうしておけば戦闘や不測の事態で例え死亡しても、なぜかその場所まで生き返って──所持金を半分失ってしまったり、体力や魔力が大幅に削れた状態でなんだけど──戻ってこられるのだ。
 ただし、それができるのは三回限りだけ。それ以降の死は、魂が無になって転生もできないらしい。
 これも世界の七不思議のひとつとして研究を進めようとした偉い学者さんが大昔にいたそうだけれど、「神への冒瀆だ!」って当時の世論から猛反発を受けてしまい、流刑島に投獄されて残りの生涯をそこで過ごしたそうだ。

 それはともかく、大爆発で死んじゃったってことはつまり、体力と魔力はほとんど残されてはいない。しかも、あたしはラストダンジョンにたどり着くまでの長いこの冒険で二度死んでいた。
 もう死ねない。
 おかしく聞こえるけれど、もうあたしは死ねなかった。

「どうしよう……本当に本当の最悪じゃないのよ……」

 回復薬も万能薬エリクサーも使いきって無くなっちゃってるし、本当に現在いまのあたしは……上級魔法を使えない、転んだり身体のどこかを少しでも傷つけたら死んでしまうような、最弱の黒魔導師の女の子でしかない。

「ねえ、ミメシス……聞こえてる? かなりこの状況がヤバいんだけど」

 けれども、返事はなかった。
 このままじゃラストダンジョンからの脱出なんて絶対に不可能だし、そのまえにミメシスに命を助けてもらった条件の〝ヴァインに逢わせる約束〟も無理だ。

「ミメシス? まだ寝てるの?……もう!」

 このまま彼女が目覚めるのを待っていても、お腹が空いてきて体力がよけいに減っていくだけだ。女神フリーディアの加護が失われていなければ、ダンジョン内で空腹や尿意を感じなくて済むのにと、今さらながら残念に思う。
 ううん、あたしは悪くない。悪いのは全部、マルスじゃないの!

「行くしかない、か……」

 意を決して立ち上がり、セーブポイントの中心まで進む。
 旅の記録を上書き保存するため、これまでの出来事を次々に思い浮かべながら瞼を閉じる。
 すでに三回も死んでしまったあたしには、旅の記録なんて無駄なことかもしれない。
 それでも、やりたかった。
 これで終わりにしたくはなかったから。


     *


 残り少ない魔力で〝魔球灯マジック・トーチ〟を唱えたあたしは、岩壁に挟まれた道を進んでいた。
 横幅は結構あって、馬車一台が余裕で通れるくらいなんだけど、それでも、魔物と戦うには十分な広さとはいえない。逃げるにしても、引き返すほうが無難だろう。
 一度みんなと通った場所だから、気休め程度でも気分は楽だった。そう、みんなと一緒に──。

「みんな、どうしてるかな……」

 思わずこぼれたのは言葉だけじゃなくて、孤独に押された感情がとうとう涙腺を伝い、止めどなく頬を流れて落ちた。

「なんで……なんでよ……なんであたしなのよ……!」

 なんでよ?
 どうして?
 どうしてなの!?
 今まで我慢していた想いが、洪水になってされる。
 握られていた杖が音を立てて転がり、支えを無くしたあたしは、そのまま岩壁に近づき身体をあずけて泣き叫び続けた。

「あたしだって、こんな異次元空間にまで来たくなかったわよ! でも、来るしかないじゃない! みんなが……みんなも一緒なら大丈夫って思ってたのにぃぃぃ! 信じてたのに、最後の最後で裏切るのかよ、おまえらぁぁぁぁぁぁッ!!」

 わかってる。
 本当は違うって、わかってる。
 そんなことをするみんなじゃないって、ずっと一緒に冒険をしてきたから、本当はわかってる。
 それでも、ダメだった。
 素直に「うん、いいよ。あたしなら平気だよ」って、受け入れられなかった。
 マルスに──大好きなマルスに、マルスがいたから、あたしはここまで──。
 もっとあたしが大人だったら、こんな気持ちにならなくてすんだのかな。まだ子供のあたしには全然わからないけれど、まだまだ全然、わかりたくもなかった。

「うっ……うう…………あぁあああ……ああっ……」

 震える肩が、岩壁を滑り落ちてゆく。
 情けない泣き声が洞窟に木霊する。
 そんなあたしの頭上で、魔力の光だけが、あたたかく見守ってくれていた。

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