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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。
激突! 闇の使徒 VS 闇の使徒(3)
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腰に巻きつけたばかりの革ベルトから手を離す。そのままゆっくりと右手をひらき、相手に悟られないよう、生成魔法を静かに唱える。ささやきよりも穏やかな言葉の微風に合わせて、唇が小さく弾む。
『死出の道導』
その呪術を合図に、大気中に漂う〝闇〟の魔素が青白い光へと瞬時に変換され、無数の粒子となって大鎌の形を成した。
──と!
「ハァァァァァッ!」
振り向きざまに、大鎌の刃でフェルムの首を狙う。
ドゥオン!
が、難なく素手で受け止められてしまった。筋肉の怪物らしい、実に単純な防御法だ。
「フシュルルルル……お次は背後からの奇襲攻撃か? つまらんぞミメシス。時間をやるから、新しい影絵でも見せてみろ」
「フッ、おまえはなにも気づかずに入ってきたのか?」
「……なんだと?」
この宝物庫は、ネズミたちの巣だ。大穴を開けられて初めて、外界の光──松明の灯りが射し込んだ。
その大穴から一方向を照らすわずかな灯りが、我とフェルムを闇の中から浮かび上がらせている。つまり、この空間のそこ以外は、影の世界となっている。
「ぬおっ!?」
驚いたフェルムが言葉の意味を理解できた頃には、もうすでに遅過ぎていた。
両側から襲いかかる巨大な影の手にしっかりと掴まれ、天井近くまで軽々と持ち上げられたからだ。
「ああ、そうそう。例の大切な話のことだがな……もしひとつになるのなら、我が望む相手はこの世でただひとり。峻厳のヴァインだけだ」
「フシュルッ?! グゥアアァァァァァァァァァァッツツ!!」
剥き出しの歯をさらに見せつけるようにして、フェルムの顔が歪んで強張る。影巨人の手から逃れようと戦慄く褐色の肉体も、遠く離れたこの距離からでもハッキリと認識ができた。
だが、それも無駄なこと。
親愛なる影は主に代わり、このまま一気に奴の身体を握り潰すのだから。
「……くっ?!」
意識が、突然揺らぐ。
念動力が遮断されるのと同時に、影が霧散して消えた。
次いで、巨人の両手から解放されたフェルムが着地する。金貨が飛び散り、そのひとつが片膝を着く我の頬をかすめた。
かりそめの肌が熱い。息も苦しい。いったいなにが起きたというのだ?
「……そうか、そういうことか。我としたことが……失念するとはな……」
鏡面世界でしか自由に行動ができない我は、常人のように実体化して振る舞うと生命力を激しく消費してしまう。
ロアを助けるために彼女の身体を離れてから、もうかなりの時間が経過してしまっていた。どうやらもう、限界が近づいてしまったようだ。
「フシュルルルル……ミメシス、苦しいか?」
歩み寄ってくるフェルムが、穏やかな口調で問う。
「すぐ楽になれるぞ、オレとひとつになればな」
まだそれにこだわるのか。男とは、ここまで執着する生き物なのか?
「はぁ……はぁ……何度言えばわかるんだ。おまえは言葉が通じないほど……脳ミソが足りない……男のようだな……」
「ふはははは! そう思うのならこれからは、おまえが補ってくれればいい」
「いいえ、あたしが貰ってあげるわ」
シュルルル、シュルルルッ!
青い触手がフェルムの手足や胴体、首へと次々に巻きつき、褐色の筋肉魔人を大穴の外で待ち受けている巨大蛞蝓の胸もとまでたやすく一気に引き寄せる。その間、大きく開かれた肉厚の唇からは、ガチガチと黄ばんだ歯が断続して打ち鳴らされていた。
早く寄越せ、おまえを喰いたい。
そうも聞こえる不愉快な旋律だった。おそらく、フェルムも同じだろう。
ぷちゅん! ヌプ……ヌプププ……。
「ぐぉッ!?」
ベルティナの胸もとに密着させられたフェルムの肉体が、徐々に、確実に、体内へ取り込まれていく。必死にもがく腕や顔に、深紫の粘膜が溶けたチーズのように絡みつく。
我ら闇の使徒が同化する手段は実に様々で、魔法以外にもこうして物理的に吸収することも可能だ。惨たらしいやり口だが、醜悪なベルティナらしい方法といえよう。
「ぐ……ヌゥゥ……お、おのれ……ベルティナァァァ……ぁばぁばぁ……あばばばばばば………………」
ヌプン、ヌプン、トゥプププ……んぐっ♡
「アーッハッハッハッハ! これでまた一段とあたしの美貌に磨きがかかるわ!」
右に左に、激しく巨体を揺らすそのさまは、上機嫌の海豹に見えなくもない。いや、海豹に失礼なので撤回させてもらおう。
「うふっ♪ うふふふふふ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
耳を塞ぎたくなるバカ笑いに合わせて、ベルティナから赤黒い閃光が放たれる。
明滅を繰り返す巨体。
同胞を吸収し、闇の力が増殖を始めたようだ。
生命力が著しく弱まったこの状態では、進化したベルティナを相手に戦うことは無謀極まりないだろう。それに、本来の目的は勝利ではない。万能薬を一刻も早くロアに使わなければ、彼女の命が失われてしまう。
ほかの出口を探してすばやく周囲を見まわすも、通れそうな穴といえば、ベルティナが立ち塞がるあの大穴しかない。かなり危険ではあるが、変態途中の今このときしか、逃げる機会はないはずだ。
ふらつきを堪えながら、「動いてくれ」と自らの足に言い聞かせて立ち上がる。
「フッ、まったく……おかしな事になってしまったものだな」
不思議と笑みが、またこぼれる。
こんなに笑顔がつくれるものとは思ってもみなかった。我が生まれて初めて笑ったのは──いいや、思い出すのはやめておこう。余計な記憶を引き出す時間など、もう無いのだから。
「ロア、すぐに戻る」
こうして自分でいられるのも、あとどのくらいなのだろうか。
万事うまくいき、この世のすべての存在が母なる闇に還れたとして、その先にあるはずの〝やすらぎ〟が……今はなぜか、とても怖く感じてしまう。
そんな感傷的な自分を置き去りにして、行く手を遮る邪悪で醜悪な光源に向かって踏み込んだ。
『死出の道導』
その呪術を合図に、大気中に漂う〝闇〟の魔素が青白い光へと瞬時に変換され、無数の粒子となって大鎌の形を成した。
──と!
「ハァァァァァッ!」
振り向きざまに、大鎌の刃でフェルムの首を狙う。
ドゥオン!
が、難なく素手で受け止められてしまった。筋肉の怪物らしい、実に単純な防御法だ。
「フシュルルルル……お次は背後からの奇襲攻撃か? つまらんぞミメシス。時間をやるから、新しい影絵でも見せてみろ」
「フッ、おまえはなにも気づかずに入ってきたのか?」
「……なんだと?」
この宝物庫は、ネズミたちの巣だ。大穴を開けられて初めて、外界の光──松明の灯りが射し込んだ。
その大穴から一方向を照らすわずかな灯りが、我とフェルムを闇の中から浮かび上がらせている。つまり、この空間のそこ以外は、影の世界となっている。
「ぬおっ!?」
驚いたフェルムが言葉の意味を理解できた頃には、もうすでに遅過ぎていた。
両側から襲いかかる巨大な影の手にしっかりと掴まれ、天井近くまで軽々と持ち上げられたからだ。
「ああ、そうそう。例の大切な話のことだがな……もしひとつになるのなら、我が望む相手はこの世でただひとり。峻厳のヴァインだけだ」
「フシュルッ?! グゥアアァァァァァァァァァァッツツ!!」
剥き出しの歯をさらに見せつけるようにして、フェルムの顔が歪んで強張る。影巨人の手から逃れようと戦慄く褐色の肉体も、遠く離れたこの距離からでもハッキリと認識ができた。
だが、それも無駄なこと。
親愛なる影は主に代わり、このまま一気に奴の身体を握り潰すのだから。
「……くっ?!」
意識が、突然揺らぐ。
念動力が遮断されるのと同時に、影が霧散して消えた。
次いで、巨人の両手から解放されたフェルムが着地する。金貨が飛び散り、そのひとつが片膝を着く我の頬をかすめた。
かりそめの肌が熱い。息も苦しい。いったいなにが起きたというのだ?
「……そうか、そういうことか。我としたことが……失念するとはな……」
鏡面世界でしか自由に行動ができない我は、常人のように実体化して振る舞うと生命力を激しく消費してしまう。
ロアを助けるために彼女の身体を離れてから、もうかなりの時間が経過してしまっていた。どうやらもう、限界が近づいてしまったようだ。
「フシュルルルル……ミメシス、苦しいか?」
歩み寄ってくるフェルムが、穏やかな口調で問う。
「すぐ楽になれるぞ、オレとひとつになればな」
まだそれにこだわるのか。男とは、ここまで執着する生き物なのか?
「はぁ……はぁ……何度言えばわかるんだ。おまえは言葉が通じないほど……脳ミソが足りない……男のようだな……」
「ふはははは! そう思うのならこれからは、おまえが補ってくれればいい」
「いいえ、あたしが貰ってあげるわ」
シュルルル、シュルルルッ!
青い触手がフェルムの手足や胴体、首へと次々に巻きつき、褐色の筋肉魔人を大穴の外で待ち受けている巨大蛞蝓の胸もとまでたやすく一気に引き寄せる。その間、大きく開かれた肉厚の唇からは、ガチガチと黄ばんだ歯が断続して打ち鳴らされていた。
早く寄越せ、おまえを喰いたい。
そうも聞こえる不愉快な旋律だった。おそらく、フェルムも同じだろう。
ぷちゅん! ヌプ……ヌプププ……。
「ぐぉッ!?」
ベルティナの胸もとに密着させられたフェルムの肉体が、徐々に、確実に、体内へ取り込まれていく。必死にもがく腕や顔に、深紫の粘膜が溶けたチーズのように絡みつく。
我ら闇の使徒が同化する手段は実に様々で、魔法以外にもこうして物理的に吸収することも可能だ。惨たらしいやり口だが、醜悪なベルティナらしい方法といえよう。
「ぐ……ヌゥゥ……お、おのれ……ベルティナァァァ……ぁばぁばぁ……あばばばばばば………………」
ヌプン、ヌプン、トゥプププ……んぐっ♡
「アーッハッハッハッハ! これでまた一段とあたしの美貌に磨きがかかるわ!」
右に左に、激しく巨体を揺らすそのさまは、上機嫌の海豹に見えなくもない。いや、海豹に失礼なので撤回させてもらおう。
「うふっ♪ うふふふふふ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
耳を塞ぎたくなるバカ笑いに合わせて、ベルティナから赤黒い閃光が放たれる。
明滅を繰り返す巨体。
同胞を吸収し、闇の力が増殖を始めたようだ。
生命力が著しく弱まったこの状態では、進化したベルティナを相手に戦うことは無謀極まりないだろう。それに、本来の目的は勝利ではない。万能薬を一刻も早くロアに使わなければ、彼女の命が失われてしまう。
ほかの出口を探してすばやく周囲を見まわすも、通れそうな穴といえば、ベルティナが立ち塞がるあの大穴しかない。かなり危険ではあるが、変態途中の今このときしか、逃げる機会はないはずだ。
ふらつきを堪えながら、「動いてくれ」と自らの足に言い聞かせて立ち上がる。
「フッ、まったく……おかしな事になってしまったものだな」
不思議と笑みが、またこぼれる。
こんなに笑顔がつくれるものとは思ってもみなかった。我が生まれて初めて笑ったのは──いいや、思い出すのはやめておこう。余計な記憶を引き出す時間など、もう無いのだから。
「ロア、すぐに戻る」
こうして自分でいられるのも、あとどのくらいなのだろうか。
万事うまくいき、この世のすべての存在が母なる闇に還れたとして、その先にあるはずの〝やすらぎ〟が……今はなぜか、とても怖く感じてしまう。
そんな感傷的な自分を置き去りにして、行く手を遮る邪悪で醜悪な光源に向かって踏み込んだ。
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