18 / 55
新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。
挿話 キャッチ&リリース
しおりを挟む
濃霧の中を静かに進む。
ひとりぼっちのあたしは、かれこれざっくり、三十分は歩いてるんじゃないかな。
「ホントにもう、ここはどこなのよ?」
歩きながら辺りを見まわしても、白煙のような霧のせいで二メートル先の足もとぐらいまでしかわからない。ところどころ苔が生えている石畳の道。こんな所、来た覚えがないんだけどね……。
それになぜか、あたしはビキニの水着姿で、木のサンダルまで履いたバカンス気分な装いだった。
「あー、さぶっ。空は薄明かるいから、今の時間って多分早朝よね? 泳ぐには早過ぎるし……マルス! プリシラ! おっさーん!」
仲間たちをいくら呼んでみても、誰からの返事がない。みんな先に泳いでるのかな?
「みゃ?」
霧が少しずつ晴れてきて、大きな水辺が見えてきた。波が立っていないから、海じゃなくて湖だろう。
「道もここで途切れてるし……まさか、泳いで渡るの?」
水のほとりに近づいたあたしは、その場でしゃがみ込み、水温を確かめようと手のひらで掬ってみる。うわぁ、氷水じゃない、これ!
「冷た……風邪ひいちゃうでしょ、絶対に」
と、なにかドアが軋むような音が遠くで聞こえた。顔を上げれば、湖上の霧に黒い影が浮かんでいる。
徐々にこちらへと近づいてきたそれは、小舟に乗った──メイドさん?
「どうしてメイドさんが船頭を……って、やだ、セーリャなの!?」
「はいはーい♪ ロアお嬢様、お久しぶりですねー」
天使のような笑顔の近くで片手を振る彼女の名前は、セーリャ…………えーっと、ファミリーネームはなんだったっけ? とにかく彼女は、わが家で働く使用人で、あたしの親友でもあるんだけど……どうしてここにいるのよ?
「……よっ、と!」
小舟を接岸させたセーリャが、櫂を水面に突き立てて掛け声を上げる。そしてそのまま、華麗にジャンプして陸へと降り立った。もちろん、純白のピナフォアごしに黒いスカートを押さえながら。
「ねえ、セーリャ」
「ロアお嬢様、ここから先に行ってはなりません」
あたしの質問よりも早く、セーリャがそう警告する。
「えっ? なんでダメなの? セーリャもあっちから来たじゃない」
「来ましたけど、この先って冥界なんですよね」
「メイカイ……えっ、死者の国の冥界?」
「はい♪」
めっちゃいい笑顔を返されたけど、それは、ずいぶんと物騒な情報だった。このとき背筋に悪寒が走ったのは、こんな格好だから風邪をひいてしまったのかもしれない。
「なんか、意味がよく…………ギャフン?!」
突然思わず変な声を上げてしまったのは、あたしの決して小さくはない胸もとに矢が四本も突き刺さっているのに気がついたからだ。
けれども不思議なことに、傷口からは血が一滴も出てないし、痛みもまったく感じられなかった。
「あわわわ……な、なんなのよ、これ!?」
「矢です」
「いや……うん。そうなんだけど、なんで矢が刺さってるのかなって」
「放たれた矢が命中したからではないでしょうか?」
「いや……うん。そうなんだけど、なんで矢が刺さっているのかっていう疑問を……ハァ……あのね、セーリャ。そういうふうに言われちゃうと、あたしがバカみたいになっちゃうから、やめてくれないか……なッ!?」
あたしの抗議が終わるのを待たずに、セーリャが突然抱きついてきた。
「ロアお嬢様は、とても優雅で聡明な淑女でございます。そのように自らを蔑むようなことは、決しておっしゃらないでください」
「セーリャ……」
しっかりと、あたしの冷えきった身体を情熱的に抱きしめてくれるセーリャ。メイド服ごしだけど、彼女の優しいぬくもりが確かに伝わってきて──って、
「もっと刺さっちゃったし! 勢いよく抱きついてきたから、さっきよりも深く矢が突き刺さっちゃったし! むしろ突き抜けて背中から出ちゃいそうだしッ!」
「まあ! 胸が痛むと思ったら……ウフフ♡」
「いやいやいや! 笑っちゃダメでしょ!? 不謹慎にも程があるわよ!」
「えーい♡」
「だーかーらぁ! なんでまた抱きつくのよ、もう!」
なんですか、これは?
謎の空間であたしとセーリャは、こんなやり取りを永遠に何度も繰り返し続けた。
ひとりぼっちのあたしは、かれこれざっくり、三十分は歩いてるんじゃないかな。
「ホントにもう、ここはどこなのよ?」
歩きながら辺りを見まわしても、白煙のような霧のせいで二メートル先の足もとぐらいまでしかわからない。ところどころ苔が生えている石畳の道。こんな所、来た覚えがないんだけどね……。
それになぜか、あたしはビキニの水着姿で、木のサンダルまで履いたバカンス気分な装いだった。
「あー、さぶっ。空は薄明かるいから、今の時間って多分早朝よね? 泳ぐには早過ぎるし……マルス! プリシラ! おっさーん!」
仲間たちをいくら呼んでみても、誰からの返事がない。みんな先に泳いでるのかな?
「みゃ?」
霧が少しずつ晴れてきて、大きな水辺が見えてきた。波が立っていないから、海じゃなくて湖だろう。
「道もここで途切れてるし……まさか、泳いで渡るの?」
水のほとりに近づいたあたしは、その場でしゃがみ込み、水温を確かめようと手のひらで掬ってみる。うわぁ、氷水じゃない、これ!
「冷た……風邪ひいちゃうでしょ、絶対に」
と、なにかドアが軋むような音が遠くで聞こえた。顔を上げれば、湖上の霧に黒い影が浮かんでいる。
徐々にこちらへと近づいてきたそれは、小舟に乗った──メイドさん?
「どうしてメイドさんが船頭を……って、やだ、セーリャなの!?」
「はいはーい♪ ロアお嬢様、お久しぶりですねー」
天使のような笑顔の近くで片手を振る彼女の名前は、セーリャ…………えーっと、ファミリーネームはなんだったっけ? とにかく彼女は、わが家で働く使用人で、あたしの親友でもあるんだけど……どうしてここにいるのよ?
「……よっ、と!」
小舟を接岸させたセーリャが、櫂を水面に突き立てて掛け声を上げる。そしてそのまま、華麗にジャンプして陸へと降り立った。もちろん、純白のピナフォアごしに黒いスカートを押さえながら。
「ねえ、セーリャ」
「ロアお嬢様、ここから先に行ってはなりません」
あたしの質問よりも早く、セーリャがそう警告する。
「えっ? なんでダメなの? セーリャもあっちから来たじゃない」
「来ましたけど、この先って冥界なんですよね」
「メイカイ……えっ、死者の国の冥界?」
「はい♪」
めっちゃいい笑顔を返されたけど、それは、ずいぶんと物騒な情報だった。このとき背筋に悪寒が走ったのは、こんな格好だから風邪をひいてしまったのかもしれない。
「なんか、意味がよく…………ギャフン?!」
突然思わず変な声を上げてしまったのは、あたしの決して小さくはない胸もとに矢が四本も突き刺さっているのに気がついたからだ。
けれども不思議なことに、傷口からは血が一滴も出てないし、痛みもまったく感じられなかった。
「あわわわ……な、なんなのよ、これ!?」
「矢です」
「いや……うん。そうなんだけど、なんで矢が刺さってるのかなって」
「放たれた矢が命中したからではないでしょうか?」
「いや……うん。そうなんだけど、なんで矢が刺さっているのかっていう疑問を……ハァ……あのね、セーリャ。そういうふうに言われちゃうと、あたしがバカみたいになっちゃうから、やめてくれないか……なッ!?」
あたしの抗議が終わるのを待たずに、セーリャが突然抱きついてきた。
「ロアお嬢様は、とても優雅で聡明な淑女でございます。そのように自らを蔑むようなことは、決しておっしゃらないでください」
「セーリャ……」
しっかりと、あたしの冷えきった身体を情熱的に抱きしめてくれるセーリャ。メイド服ごしだけど、彼女の優しいぬくもりが確かに伝わってきて──って、
「もっと刺さっちゃったし! 勢いよく抱きついてきたから、さっきよりも深く矢が突き刺さっちゃったし! むしろ突き抜けて背中から出ちゃいそうだしッ!」
「まあ! 胸が痛むと思ったら……ウフフ♡」
「いやいやいや! 笑っちゃダメでしょ!? 不謹慎にも程があるわよ!」
「えーい♡」
「だーかーらぁ! なんでまた抱きつくのよ、もう!」
なんですか、これは?
謎の空間であたしとセーリャは、こんなやり取りを永遠に何度も繰り返し続けた。
20
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる